直哉くん
原作沿い夢主と京都校の直哉くんの続きです。二年生の秋の話。
夢主視点です。名前変換なし、デフォ名なし。
直哉くんの口調は相変わらず感覚で書いてます。有識者に直してもらいたいです。でも夢小説を添削されるのは死ぬほど恥ずかしいので誰にも頼めないです。板挟みです。
この人は空っぽなんだわ、と思った。他者と比べることでしか己を確立することのできない、空っぽの人。
同情しているのだろうか。哀れんでいるのだろうか。
……答えは出ない。
時折気まぐれに鳴らされる電話。相手は用件だけ捲し立て、それで通話は終わり。今回も『京都校の同級生がヘマをして、任務で追っていた呪霊が関東圏まで逃げていったから、これからその尻拭いをしに行く』という話を呆れと嘲りと共に語り、電話は切られた。いつものことだ。
途端に静かになった携帯を片手に、私は同級生の部屋に戻る。
「直哉さん、東京に来るんだって」
宵の迫る夕暮れ。緑色の問題集から顔を上げて、七海くんは僅かに眉を寄せる。
「あの人が、ですか」その顔は最強の先輩を相手にしている時と似ていた。
きっと、彼の中では同じような括りなのだろう。理解できない人種に対する、微妙な感情。
彼の気持ちはわからないでもない。
「それで?また彼の我儘に付き合わされるんですか?」
「どうだろう。こっちに来るとしか言ってなかったけど」
でも電話をしてくるということは何かを求めているんだろう。例えば、退屈しのぎとか。
私が首を傾げると、七海くんは溜息をつく。
「……嫌なら嫌と言わないと」
『代わりに言ってやろうか』と提案してくれる彼は優しい人だ。自分よりも他者を優先できる人。他人のことを、気遣える人。……自分は違う。
自分も、あの人も。
「嫌ではないよ」
と私は答える。厭なわけではない。特別好きなわけでもないけれど。
でも、──なんと表現すべきだろう。突き放す気にはならないけれど、さして温かな情を感じているわけでもない。同情のような、憐憫のような、その合間の心境。
「たぶん、私もあの人を利用しているんだと思う」
「利用?」
「うん。うまい表現が見つからないんだけどね」
他者を傷つけずにはいられない人。そんな彼を受け入れることで、自分という個を認められる気がする。そういう自分に価値を見出している。何者にもなれないから、だから、彼の気まぐれにも付き合える。
これはきっと健全なことではないのだろう。
私は目を伏せる。
同級生が亡くなったのは、この夏のことだった。
「……まぁ、止めはしませんが」
その後、なんと続けるつもりだったのだろう。七海くんはそれ以上言うことなく、また問題集に目を戻した。
やっぱり呪術師になるつもりはないのだろうな。薄っすらとした予感が確信を増していく日々。一抹の寂しさと共に、『致し方のないことだ』と納得する。
灰原くんは夏の終わりに亡くなった。呪術師でなければ死ぬこともなかったのに死んでしまった。彼が亡くなって以来、七海くんとの間にも隔たりが生まれてしまった。
優しい人は呪術師になるべきじゃないんだ、と私は思う。こういう仕事は私のような人間が果たすべきものだ。呪術師としてしか生きられない人間。
……例えば私や、彼のような、人でなしの、
「なんで迎えに来てくれんの」
翌日、昼時。東京校に現れた直哉さんは、「気の利かない女やね」と大仰に息をついた。
そんなこと、昨日の電話では言ってなかったのに。
「迎えなんて必要ですか?」
「そら荷物持ちは必要やろ」
「はぁ……」
曖昧に頷くと、彼は「しけたツラすんなや」と顔を歪める。「やる気なくなってもうたわ」なんて、まったく身勝手な。
「それはすみませんでした」
「思ってもないくせに」
「そうですね」
「そこは否定しろや」
うんざりって顔をするくせに、どうしてやたらと絡んでくるのだろう。いやになったらやめればいいのに。そうなっても、お互いどうだっていいだろうに。
──この人は私に、何を求めているんだろう。
私はぼんやりと思う。灰原くんはもういない。七海くんは私に何も求めない。両親は私に期待していない。そんな私にどうしてほしいというのだろう。何者にもなれない、こんな私に。
「まぁええわ。今からでも付き合おてもらうで」
「それは荷物持ちとして?」
「それ以外にあるかいな」
早くしろ、と急かされて、特段焦ることなくその後に続く。
何にせよ、役割を与えられるのは歓迎すべきことだ。他にやれることもないのだから。
「件の呪霊はそんなに強いんですか?」
「や、担当したヤツがヘボかっただけや。逃げ足が速いだのなんだの言い訳かましてからに」
荷物持ちと言ったくせに、直哉さんは身軽だった。私はただ、彼の半歩後ろを着いていくだけ。先程の言葉はどこに行ったのだろう。
そう思いはすれど、口に出すことはしなかった。別に、なんだって構わないし。
「直哉さん、お腹空きませんか?」
「は?直哉さま、やろ」
「私はもうペコペコです、直哉さま」
「お前の都合なんか聞いてへんわ」
すげなく言いながらも、「はよ案内しい」と立ち止まってくれた。意外と優しいところもあるんだろうか。
「言うとくけど、俺の舌に合うところやないと許さへんから」
その物言いに、かえって安心させられる。
やっぱり彼はこういう人だ。
「そう言われても、高級店なんて知らないです」
「そうやろなぁ、君レベルのお家やとなぁ」
「なのでマ●クでもいいですか?」
「人の話聞ぃとった?」
「でも五条先輩はマ●ク行きますよ?」
「……君、悟くんの名前出せばゆうこと聞くと思ってるやろ」
睨まれた。
が、結局その日の昼食は一番近くにあるファストフード店で済ませることになった。もちろん、不味いと文句を言われたけれど。
彼もまた同情しているのだろうか、それとも哀れんでいるのか。
答えはやはりどこにもなかった。
カテゴリ:ネタ
2022/08/15 23:55
2022/08/15 23:55
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