アンケート
『過保護ッチョが見たい』というコメントをいただいていたので色々考えていたのですが
結果メロ+ッチョ✕夢主が書きたい〜ってなったので、とりあえずメロ部分だけ置いておきます。。。
3人の関係は健全でも不健全でもどっちでもおいしいなぁと思います。どっちがいいですかね?
以下、原作沿い夢主(デフォ名なし)で夢主視点のメロとの話。
夢主→花要素もりもり(今でも引きずってる)です。
追記からどうぞ。
視界いっぱいの、満天の星空。砂漠の夜は澄んでいて、いつもは見えない小さな煌めきさえその存在を主張している。でも決して喧しいものではなくて、静謐さすら感じさせるその光が堪らなく美しく思えた。写真だとか映像だとか、そういったフィルター越しに見た夜空も綺麗だと思っていたけれど、実物はもっとだ。何がどう違うのかはわからないのに、でも記憶にあるのよりずっと美しいと感じられた。
その時『きれい』だ、と思わず呟いた声は、思いもがけず二人分のもの。もう一人である『彼』と顔を見合わせ、小さく笑い合う。ありふれた感想なのに、重なる声が何故だか嬉しかった。『明日も晴れるだろう』なんて、そんな世間話に永遠を感じていた。敷き詰められた夜空みたいに、この時間がこの先もずっと続いていくと信じていた。
──今ではもう、ここにしか楽園は存在しないのだけど。
緩やかな微睡みから浮上する羽目になったのは、呼び鈴の音が聞こえたせいだ。夢と現の狭間。でも呼び出されているのは現実だと頭では理解している。
本当はこのまま、楽園の幻想に浸っていたいところ。それでも気怠い体を引きずり、ドアを開ける。
「やぁ」
途端、突き刺さる夏の日差し。乾いたそれは容易く網膜を焼く。
あぁ、厭だ厭だ。世界は昨日も今日も変わらない。十年経とうが彼がいなかろうか、眩しいまま。私という存在は十年前にその連続性を失ったというのに。
でも何より厭なのは、こんなことを思ってしまう自分自身。きっと彼が見たら失望するだろうな。でも君の隣にいた私は君のせいで死んでしまったんだよ。今の私は十年前の私の残り滓でしかない。
「もしかしてまだ寝てた?」
問いかけの主は突然の訪問者。逆光になって、眩しさに細めた目ではその姿はよく見えない。でも誰何の必要性はなく、問いの言葉に頷いた。
「どうしたの、メローネ」
「いやさ、家を追い出されちゃってね」
ふぅん、と相槌を打ちながら、思考を巡らす。
以前、『この男は女性の家を渡り歩いて暮らしている』と同僚のひとりに聞いた記憶がある。軽蔑の色を含んだそれを、大した感慨もなく受け止めた。
だって、そんなのは関係のない話だ。彼が複数の女性と生活を共にしようが、そのうちのひとりをスタンドの餌食にしようが、どうだっていいこと。だから本当に追い出されたのか──その女性はまだ生きているのだろうかということまでは聞かなかった。
「うち、なんにもないけど」
「いいよ、雨風さえ凌げれば」
「それならどうぞ」
グラッツェ、という言葉を背中で聞きながら、来た道を戻る。
太陽の昇りきった外界とは反対に、室内に広がっているのは薄暗闇。でもそのくらいがちょうどいい。眩しいのもそれを厭うのも、どっちも好きじゃない。
ちいさな欠伸がこぼれ出る。
「適当に使って。私はもう少し眠るから」
「そのカッコで?シャワーくらい浴びた方がいいんじゃない?その服はもう使い物になんないだろうけどさ」
矢継ぎ早に言う男に、『そういえば、』と視線を落とす。
白かったはずのシャツは赤黒く変色し、色の変わったところだけパリパリと固まっている。元の色も柔らかさも取り戻せないほどに変質してしまったモノ。まるで私みたいね、と自嘲が口端に上る。
ダメになってしまったものは捨てるしかない。ぐしゃぐしゃに潰して、潰されて、灰になっちゃえばいい。骨すら残さず燃えて、燃え尽きて、きれいな白色の灰になったなら。そうしたらようやく私は私を赦せるのかしら?彼と同じところにいけるのかしら?でもどうしたって、天国への馬車に自分が乗るイメージは描けなかった。
「これは、いいの」
「そう?なら悪かった。余計な詮索だったな」
「謝ってもらうことでもないわ」
笑みの形を変え、肩を竦める。彼のせいじゃない。ううん、誰のせいでもないこと。
メローネは『ふむ』と顎に手をやった。何やら思案げな様子。何を言い出すというのだろう。
「カッフェが飲みたいな。それもあっつあつのヤツ」
それは一拍の間に想像していたどのセリフとも違っていた。思わずまじまじと見つめてしまう。けれど翠色の目はビー玉みたいに澄んでいて、ぼんやりとした頭で『きれいだ』なんてことを思う。エメラルドは美しい記憶に繋がっている。
だからつい、「淹れてくれるの?」と聞いてしまった。コーヒーが飲みたいなんて思ってなかったはずなのに。早く、少しでも長く、美しく脆いあの楽園に溺れていたかったはずなのに。なのにその、翠色の目がいけなかった。
「お安い御用さ」メローネは気障ったらしく片目を閉じた。「やっぱり目覚めにはカッフェだよな」そう言って、キッチンに立つ。
ソファに座っていると、エスプレッソマシーンが蒸気を上げる音が聞こえてきた。そういえばこの家には前の持ち主のカッフェティエーラが残ってたんだっけ、と曖昧な記憶を探る。家主である自分でさえ忘れていたのに、メローネはよく覚えている。この家に来たのは今日が二度目のはずだ。でも彼は勝手知ったる顔でエスプレッソマシーンを操り、すぐにコーヒーの匂いが室内に立ち込めた。
「はい、どーぞ」
「ありがとう」
彼の淹れるコーヒーはドロリと濃く、一見するとタールのようだった。でも不思議と苦いばかりではなく、喉を通った後には独特の甘みが口内に残る。
これはナポリの味だ。けれどその温かさに、砂漠の夜に飲んだコーヒーのことが想起させられた。彼が淹れてくれたコーヒーは、果たしてどんな味だったのかしら?思い出せなくなっていくことが恐ろしく、悲しい。
袖に残った血痕に鼻を寄せたのは無意識のうち。微かに香る鉄錆に、心は安らいでいく。
大丈夫、ぜんぶ忘れてしまったわけじゃない。彼の身体から流れ出たあの赤い赤い血の匂いは、まだここに残っている。だから大丈夫。だからまだ、夢を見ることができる。この、血の匂いさえあれば。そうすればいつだって、夢の中で会えるから──
愚かな話だ。今となってはもう、彼が浮かべていた表情の一瞬一瞬なんて、曖昧なものに成り果てている。永遠を祈った星は願いを聞き届ける前に燃え尽きてしまった。10代半ばに感じていた全能感は枯れ果て、見る影もない。今はただ、息を吸って、吐いているだけ。鉄錆の匂いを抱いて眠りに就く日々。
──だから
「なんだか俺まで眠くなってきたな」
くぁ、と欠伸をして、メローネはソファに身を横たえる。
「こんなところで休めるの?」
「そう思うならベッドに連れてってよ」
甘えたように両手を伸ばす彼は、いったい何を考えているのやら。知らないし、興味もない。……と思っていたけれど、エメラルドの目にじぃっと見つめられるとなんだか据わりが悪い。沈黙の時間がいやに気にかかって、伸ばされた手に応えてしまった。
それがいけなかった。メローネの両手を掴んで、彼を引き起こす。そのつもりだったのに、掴まれたのはこちらの手の方。柔く、けれどしっかりと手首を捕まれ、『え』と思う間もなく引き倒される。
けれど予想していた衝撃はなかった。強かに身体を打つ、その寸前で腰を抱いた手に支えられる。
「……危ないわ」
結局、ソファに横たわる彼の胸にぺたりと張りつく格好になった。これでは休めるものも休めない。重いだろうと身動ぐも、何故だか彼は手を離してくれない。右手は腰を抱いたまま、左手の指が緩く絡ませられる。恋人たちの戯れのように。
この人は何をしたいのだろう。何を求めているのだろう。呈した苦言にも喉奥をくつくつと震わして笑うだけで、答えはない。不思議な人。人の命なんて何とも思ってない、そんな人でなしのくせして、どうしてこんなにきれいな目を持っているのだろう。そんなことを思いながら、彼の顔を覗き込んだ。
「ひとりじゃ眠れないの?」
「ふふ、そうかもね」
「でも血の匂いが移るわ」
「それこそ今更じゃない?」
「……私の他にもっと向いてる人がいると思うんだけど」
「でもここにいるのはアンタと俺だけだ」
唇に浮かぶ笑みはどこまでも軽薄で、どうしたって記憶の彼とは重ならない。永遠なんかとはずっとずっと遠くにある人。楽園はここにはない。……でも、温かい。
腰にあった手が、ふ、と離れていく。それを名残惜しく思う間もなく、右手で頭を撫でられた。
「ぐちゃぐちゃ考えるくらいならさ、なんにも考えられないようにしてやろうか」
にぃっと笑う顔は悪い大人って感じ。なのに頭を撫でる手つきは母親のそれみたいに穏やかで、つい笑ってしまった。
「そうね、でも今はいいわ」
脱力して、彼の胸に身を委ねる。そうするとちょうど耳のところに心臓がきて、とくとくと規則正しく鳴る音で頭がいっぱいになる。いっぱいになったことを、厭だとは思わない。どうしてかしら?血の匂いは薄らいでしまったのに、『彼』に抱き締められた日のことを思い出した。
いま、眠ったら。そしたらきっと、鮮やかな思い出に浸ることができる気がする。
予感とともに、目を閉じる。
「おやすみなさい」
ああ、おやすみ。そう答える声があることに安堵した。嬉しいとも思った。他の誰も必要ないと思っていたはずなのに、隣りにある温もりに少しだけ泣きたくなった。
本当はずっと、誰かに抱き締めてほしかったのかもしれない。赦してほしかったのは、神さまじゃなかったのかもしれない。
そんなことを考えながら眠りについた。
カテゴリ:ネタ
2022/09/05 22:56
2022/09/05 22:56
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