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マキマちゃん(学生の姿)

マキマちゃん(女学生時代)(強い幻覚)(敬語使ってるマキマちゃんかわいいね)と、そんなマキマちゃんの教育係兼監視役の先輩悪魔(公安所属)(人間好き)(人間の文化好き)の学校生活が見たいよ〜〜〜っていう話を書きました。
名前変換もデフォ名もなし。マキマちゃん視点。

マキマちゃんは先輩のこと大好きだし先輩もマキマちゃんのこと大好きだけど、先輩はマキマちゃんを護って死んじゃう……ってところまでは書けなかったけど近い将来そうなる。
ちなみにこの先輩悪魔ちゃんは原作沿いの夢主(信仰の悪魔)の過去です。
先輩悪魔ちゃんは死んじゃうけど、また地獄から現世に帰ってきて、でもマキマちゃんのことなんか覚えてなくて……っていうのが原作沿いの裏設定です。今考えました。NTRもの大好きなので……。








 廊下を歩く。ただそれだけのことで視線を集めてしまうのにも慣れた。この世界に生まれて数年。学んだのは、人間はとても単純な生き物だということ。その単純さが愚かしく、愛おしいのだと、そう言った女のことを考えながら、マキマは歩みを進めた。
 足を止めたのは、『生徒会室』という小さなプレートが貼られた扉の前。一応のノックの後、「失礼します」と返事を待たずに扉を開ける。

「いらっしゃい、ルル」

 生徒会室とは名ばかりの小さな部屋の中。窓際のパイプ椅子に座っていた女が、手元の本から顔を上げて微笑む。「私のかわいいルル」、と。そう、マキマを呼んだ。
 女は悪魔だった。マキマより幾らか早く現世に降り立った、信仰の悪魔。そして公安のデビルハンターなんかに飼われている、変わり者。女は蒼い目を細めて、マキマを手招く。
 マキマは後ろ手で扉を閉めた。

「今日はどうしたの。お昼休みにここに来るなんて珍しいね」

 紅茶を淹れましょう。それとも緑茶、玄米茶の方がいい?そんなことを言いながら、女は席を立つ。すっと伸びた背は、かつて天使の羽根が生えていた頃の名残のようにも思う。
 女が鼻歌交じりにお湯を沸かすのを横目に、マキマは壁に立てかけられてあったパイプ椅子を女の定位置の隣に広げた。どうせならもっとまともな家具の一つや二つ、用意させればいいのに、と繰り返しマキマは思う。女にはそれができる力がある。人間はとても単純な生き物だから。

「お昼は食べた?」

「はい」

「お友達と一緒に?」

「ええ」

「それはよかった」

 人間のふりをしている間は極力彼らと関わるように、と命じられているのはマキマが支配の悪魔であるがゆえのこと。多くの人間を支配下に置くことで、より強くなることができる。だから興味のない話にもきちんと相槌を打ってやるし、心にもない言葉を吐くこともできた。
 そこに感情などない。そんなこと、女だって知ってるだろうに。なのに彼女は「キミもいつか、人を愛せるようになるといいな」と笑う。

「私は人間が好きですよ。単純なのは、好ましい」

「そうだね。でも、それだけじゃないよ。少なくとも、私はそう思う。そう思うから、いつかキミと共有できたらいいと願ってる」

 彼女は時々、理解に苦しむ言葉を吐く。思わせぶりで、含むような物言い。『どういう意味か』と視線で問うても、笑みで返されるだけ。煙に巻かれるのが常だった。
 「よかったらティラミスも食べる?」と女は小さな冷蔵庫を指差す。「暇だったから作ってみたんだ。家庭科室を借りて」差された指に従って、冷蔵庫の扉を開ける。
 ふわりと頬を撫でる冷気。飲料水のペットボトルが並んでいる以外は殺風景なそこに、ガラス製の保存容器がひとつ。これだろうと当たりをつけて中身を見たところ、ちょうど半分ほど中身が欠けていた。

「味見はしてもらったから不味くはないはずだよ」

 その言葉を背中で聞く。けれどマキマの目は、見知らぬ誰かによって完全さが損なわれてしまった容器から離せない。腹の奥がズンと重くなり、喉を苦いものが下っていく、そんな感覚があった。
 これはココアパウダーの匂いだ。

「あぁ、でもお昼ごはん、食べたばっかりだよね。無理して食べなくていいよ」

「……いえ、いただきます」

 「そう?」と女は目許を和らげる。

「女の子は甘いものが好きとはよく聞くけど……、ルル、あなたまでそうだったとは」

 別に、甘いものが特別好きなわけじゃない。でも彼女が口にする『ルル』という名前、その甘さは嫌いじゃないと思った。彼女はとても優しく、まるで繊細なものでも扱うみたいに『ルル』と呼んだ。マキマをそう呼ぶのは彼女だけだった。
 パイプ椅子に座ると、小さく軋む音がした。

「紅茶でよかった?」

「はい」

 なんでもいい、という言葉は口にしなかった。言ってしまったら、たぶん彼女は少しだけ、悲しそうな顔をする。
 どうしてかはわからない。そういった時に、『悲しい』と彼女自身から聞いたこともない。ただ、僅かに下げられた柳眉から、『悲しい』という感情を読み取った。
 無論それは勝手な想像に過ぎない。でも、その顔はあまり好きではなかったから、黙ってティーカップを傾ける。
 喉を通り抜ける、ディンブラの爽やかな渋み。その後で、件のティラミスを口に運んだ。
 舌先で溶けるココアの味。ふわふわとした食感のクリームとスポンジから染み出すコーヒーが口内で混じり合う。

「どうかな?」

 何者かによって奪われてしまった一部分のことは考えないようにしながら黙々とフォークを動かす。
 と、僅かに緊張した面持ちで、女が首を傾げた。窺うような視線に、心が毛羽立つ。どうしてだろう?気持ちいい、と思ってしまった。彼女の意識が自分に向いている。ただそれだけのことなのに、『そう』と認識しただけで悦びが背筋を駆けていった。

「美味しいですよ。……でも、もう少し苦みがあってもいいかな」

「なるほど。改善の余地あり、だね」

 真面目な顔で頷く彼女。罪悪感は、ない。
 むしろ、「また付き合ってくれる?」と言われ、笑い出しそうになった。こうも思い通りに事が運ぶとは。単純さに、愛おしいという感情が込み上げる。

「それがあなたの望みなら、いくらでも」

「ふふっ、ありがとう」

 「私まで甘いもの食べたくなってきちゃった」「食べますか?」フォークを向けると、首を振られる。
 残念だ。そう思ってから、なぜだろう、とまた思う。残念に思う理由なんて、どこにあるのだろう。私たちはまったく別の個体なのに。なのに違うということが、なんだか無性に気になった。心臓の裏っかわがぞわりとする。

「お腹は空いてないんだ。だからこれで十分」

 どこからか取り出した棒付きキャンディ。パリパリとフィルムを剥ぐ音がして、女はほっぺたの片側を膨らます。間抜けな顔。でも嫌いじゃない。その口内で溶ける飴玉の、その過程が見たいな、とぼんやりと思う。

「それで?今日はどうしたの?何か困ったことでもあった?」

 問いに、マキマは視線を落とす。
 机の上には文庫本が一冊置いてあった。マキマが来るまでの間、女を支配していた本。白い表紙には『ヴェデキント』の文字。女は人間の生み出す文化が好きだった。小説、映画、歌劇。とりわけ、そういうものを好んだ。『ルル』という名前の由来もそこにある。
 ルル──それは官能を意味する名前だ。

「……口づけを、ねだられました」

 そういう目で見られていることは感じていた。同性の女たちで構成された学園。多くの規則で縛っていても、情欲の芽を摘みきることは難しい。人間は単純な生き物だ。単純で、欲の前には無力。だから手近なところで晴らそうとする。恋だの愛だのと、それらしい名前をつけて。
 『口づけがほしい』と言ったのは、マキマのクラスメイトだった。友人のひとりで、大人しい性格の持ち主。だからこそ、日頃抑えつけられていた欲が口をついて出たのかもしれない。彼女は、マキマの周りに人が集まることに不満を持っていた。『あなたの特別だという証がほしいの』と切羽詰まった様子で言われ、哀れに感じた。
 特別だなんて、願ったところで叶うものではないのに。そんなことをして与えられた『特別』に、なんの価値もないのに。

「応えてあげたの?」

 問いを重ねた女の顔を見る。蒼い目。でも冷たいと感じたことはない。静かに問いかける今この時も、その眼差しには温かなものがあった。たとえるなら、子どもを見つめる母のそれ。街中で見かける、ありふれた目を思い出して、マキマの心は軽くなる。
 『私は特別なのだ』、と。そう教えてくれる彼女の目が好きだ。食べたらどんなに甘いだろうとも思う。たぶんきっと、このティラミスよりずっと美味しいんだろうな。

「いいえ、断りました。そういうのはまだ早いから、と」

「うん、キミ自身を安売りしなかったのは正解だね」

「でも彼女は満足していないようでした」

「そうだね、そういう時は……」

 彼女は少し悩んでから、「こんなのはどうだろう」と咥えていたキャンディから口を離した。
 そして、その飴玉を、マキマの唇へ、

「間接キス、なんて。ね」

 ぬかるみが唇に残る。ほんの一瞬のことだ。鼻先をコーラの匂いが掠めた。そう思った時にはもう、キャンディは女の口に戻っていた。
 なのにいつまでも唇が熱かった。彼女の口の中はこんな感じなんだろうか。こんなに熱くて、蕩けるようで、気持ちいいものなんだろうか。

「……あなたの方が、『ルル』の名に相応しいのでは?」

 舌先でキャンディが触れたところを舐めてから、マキマは笑った。官能の擬人化。破壊者たる女。そんな彼女を支配してしまいたいと思う。と同時に、支配されたいとも。
 ファム・ファタール。──あなたが私の運命だったらいい。

「私にとっての『ルル』はそれだけじゃないよ」

 彼女は驚いた様子で目を瞬かせてから、口許を綻ばせた。
 「『ルル!──私の天使!』」歌うようにして紡がれたセリフは、彼女の読んでいた本に出てくるもの。運命の女を護るべく殉死した、伯爵令嬢の叫び。それを口にする女の目に映るのは、マキマだけだった。

「私にとってはね、『ルル』は『かわいい女の子』って意味なの」

 彼女の手がマキマの頬に触れる。それだけ。触れただけで、甘くも美味しくもない。
 なのになんだか充たされた気持ちになって、マキマはその手に自分のそれを重ねた。
 腹の奥に感じていたムカつきは、いつの間にか収まっていた。



カテゴリ:ネタ
2022/09/27 01:21


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