拍手返信
10/16にいただいたものへの返信です。
お礼におまけのSSつけてあります。
追記からどうぞ。
>>2022.10.16
メモのマキマちゃん(学生の姿)最高でした!!の方へ
ありがとうございます!
二部でアサちゃんたちが制服着てるの見て「いいな〜」って思ったのであんな感じのを着てるマキマちゃんを妄想した結果でした。女子校なのは私の趣味です。女学校に君臨してほしいという願望があるので……。
嬉しかったので続き書きました。
名前変換デフォ名なし、マキマちゃん視点です。
『デートをしよう』と女は言った。7月下旬の、終業式を終えた後のことだった。
指定された駅の前、『どうしてわざわざ』と思いながらも、女が来るのを待つ。彼女もマキマと同じ、公安デビルハンターの管理下に置かれている。わざわざ待ち合わせなどする必要もない。けれど『そういう些細なことの積み重ねが重要なんだよ』と押し切られてしまった。彼女の考えることはよくわからない。
午前10時。駅前の広場には夏休みに入ったばかりの若者たちで溢れている。彼らは何を思い生きているのだろう。なぜだか一輪だけ咲く向日葵の花には目もくれず笑い合っている人間たち。やがて萎れて枯れていくとしても、彼らは気づかない。
「おまたせ」
匂いがした。咲きそめの薔薇の、爽やかな香り。「早いね」と微笑む女を、マキマはまじまじと見た。
なんだか初めて会ったような感覚だ。匂いも声も姿かたちもよく知ったものであるのに、見慣れた制服姿ではないというただ一点の差異が奇妙な感覚を齎した。そしてそれは彼女にとっても同じだったらしい。
「私服姿って案外見る機会がなかったね」よく似合ってるよ、という言葉になんと返すべきだったのか。『あなたも』というありふれた賛辞すら生憎と出てこなかった。
それはきっと暑さのせいだ。夏の熱気は喉から水分を奪い取っていた。ただ、それだけのこと。
「じゃあ行こうか」
マキマが何を言うより早く、女に腕を引かれる。
いったい何処へ。音にならない戸惑いに、女はにっこり笑った。
「映画を観に行こうと思うんだ」
「映画、ですか?」
「そう。今日は一日映画漬けだよ、覚悟してて」
映画館には行ったことがある。友達(そう彼女たちは呼んでいる)に誘われて、付き合いで観に行ったSF映画は確かに良く出来てはいたが、深い感慨はなかった。話題作でもこんなものなのか、とさえ思った記憶がある。
表情に出ていたのだろう、しかし女は「大丈夫だよ」と自信ありげに言う。
「人の好みは千差万別。たとえ世間で評価されていても面白くないと思うことはあるし、その逆も然り。だから色々なものに興味を持つことが大切なんだ」
「それは、悪魔でも?」
「もちろん。私たちにだって、心はあるでしょう?」
「心……」
あるのだろうか、そんなものが。思考する機能は備わっている。でもそれだけだ。例えば今、目の前の彼女が亡くなったとして、自分は悲しむことができるのだろうか。普通の人間のように涙を流すことができるのだろうか。
できないだろうな、とマキマは思う。予感と確信。悪魔は悪魔だ。人間にはなれないし、なりたいとも思わない。
けれど彼女は違うらしい。「あるよ」あるんだよ、私たちにだって。「例えばほら、」そう言って、人差し指をマキマの背後に向ける。
「あの向日葵、健気に咲いててかわいいと思わない?」
よく晴れた日だった。太陽の日差しは何に遮られることもなく降り注いでいた。金襴緞子の髪の艶めき、朝と夜の混じり合った蒼い瞳。唇に浮かぶ、無邪気な笑み。
そうしたものが永遠であったらいいのにとマキマは思った。かわいいとか美しいとか、そういう、感覚的なことはわからなかったけれど。たった一輪咲く向日葵に目を向けることのできる彼女が、そんなちっぽけなものに心を動かすことのできる彼女が欲しいと、強く思った。
その日最初に観たのは海外のアニメ映画だった。『ウォーターシップダウンのうさぎたち』──原作は児童書らしい。そのタイトル通り、うさぎが主人公の物語だった。安息の地を求めて旅するうさぎたちの物語。とはいえ可愛らしいものではなく、子供向けにしては残酷なシーンもあった。
たぶん、いい作品ではあったのだろう。けれどキリスト教的価値観の元作られたそれは、悪魔の身で共感できるものではなかった。
「あなたのお気には召さなかったみたいだね」
「丁寧な作りであることは伝わりましたけど……」
言葉を濁すと、「いいんだよ」と笑われた。
「言ったでしょう?人の好みは千差万別だって。あなたには合わなかった、でもそれだって大切な経験なんだから」
女は目を細め、マキマの頭を撫でた。それが優しい手つきであることはわかった。眼差しの温かさも。
母親、というものはこんな感じなのだろうか?そんなことを考えて、内心で首を振る。くだらない想像だ。家族なんて、悪魔には必要のないもの。欲しいのは、母親なんかじゃない。
「それじゃあ次に行ってみようか」
にっこり。考え込んでいる間に手を取られ、次なるスクリーンへと連れて行かれる。
その後もひたすら映画を見続けた。アメリカのSFアクション、日本のサスペンス、パルムドールを獲った戦争映画、そしてホラー。国境を越え、ジャンルも多岐に渡った。
いずれも優れたところはあった。感心したといってもいい。愚かで単純な人間たち。でも芸術的なセンスのある者もいる。そういう人には価値があるとマキマは思う。それ以外には興味がない。
「それじゃあ最後は……、そうだ、これにしよう」
女が選んだのは数年前に公開された映画だった。同じ監督の作品が今年公開を控えているから、という理由で再上映されていたらしい。「アカデミー賞も獲ったんだよ」と女から聞かされはしたが、大した期待はなかった。
悪魔にも心はある。彼女の言葉を否定するつもりはない。でもそれは自分以外の話だ。そう、マキマは思っていた。だって心を動かすということがわからない。好ましいか、好ましくないか。それくらいしか、自分にはわからない。
そう思っていたのに。
「………………」
それは精神病院を舞台にした映画だった。非人道的扱いを受ける患者たちが、奔放な一人の男に感化され、やがて反旗を翻す……というストーリー。作りがキリスト教的であるというのは『ウォーターシップダウンのうさぎたち』と変わらない。変わらないのに、その最後が強く胸を打った。
映画の中では支配されるのは患者で、看護師たちが彼らを支配していた。支配者たちに悪意などなく、自分たちこそが正義なのだと信じていた。人間のために、正しいことをしているのだ、と。
そしてその姿が、マキマの知る人間たちと重なって見えた。
公安のデビルハンター、政府の役人たち。彼ら人間は支配の悪魔の力で世の中を正しく導けるのだと信じていた。
それは別に構わない。利用しているのはマキマも同じだ。彼らを利用して、支配の悪魔の力を蓄えている。いずれはこの箱庭も壊すつもりだ。それこそこの映画の、ネイティブアメリカンのように。
──ならば、彼女は?
『I wouldn't leave you this way...
You're coming with me. Let's go.』
スクリーンではネイティブアメリカンの男が、廃人となってしまった救世主の口に枕を押し当てているところだった。死という名の救済。これしかないのかもしれないと、マキマは思った。だってこうでもしないと救われない。人間に利用されるだけの彼女は、永遠に苦しいままだ。
脳裏をよぎるのは、つい先日見かけた光景。スーツを着た男たちに詰られる女の姿。『大丈夫だよ』と彼女は言ったけど、それからすぐ笑顔を作って、『デートをしよう』と言い出したけど、でも本当のことをわかってあげられるのは私だけだ、と思う。同じ悪魔、同じ人間に飼われる私だけがわかってあげられる。
だから──と、マキマは隣に座る女を窺い見た。
薄暗がりの中、スクリーンの仄かな光によって浮かび上がる横顔。滑らかな輪郭を伝うのは、あれは涙だ。人間の前では決して見せることのできない、感情の一端。許されているのだという優越感が胸を擽る。欲しいと思う。その、涙さえ。
マキマは女の手を握った。ひんやりとした、しなやかな手。重なると、視線が合った。だからマキマは微笑んだ。大丈夫だと、今度は彼女に伝わるように。
万人の救世主になんかならなくていい。私のためだけの救いの神であれば、それでいいのだ、と。
伝わったのかどうかはわからない。彼女は少し驚いた様子で、でもその手を握り返してくれた。それでよかった。それだけでよかったのに。
「たとえ肉体が滅んでも、私はあなたの側にいるよ。この、映画みたいに」
上映後、彼女は言った。なんてことはないみたいに、難しいことなんてひとつもないって当然の顔で。
「……私たちは悪魔です」
「そうだね」
「死んだら、地獄に落ちるんですよ」
「でもまた帰ってこられるでしょう?」
「記憶に残らないのならそれは別人と同じです」
「それなら頑張って思い出すよ。それか、魂だけでも地上に残せるように祈っておく」
「……どちらも非現実的ですね」
「けど、可能性はゼロじゃない」
ね、と小首を傾げて笑う。それがあんまりにも眩しかったのは、きっと急激に明るくなった室内灯のせいだ。
でも彼女の戯れ言を信じてみたいとも思った。永遠なんてないこの世界。あれほど絶対だと思っていたチェンソーの悪魔でさえ姿を消してしまった。だから『もしも』なんて、らしくもないことを考えてしまう。
「……そうなるように、私も祈っておきます」
あぁ、あなたを形作るすべて、その救いも死も、私が支配できたらいいのに。
カテゴリ:ネタ
2022/10/21 02:44
2022/10/21 02:44
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