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書き途中の夢とか上げていこうと思います。


あと飢餓ちゃんに『楽しくない』って言われて落ち込んでる吉田が可愛かったので、そういう夢を書きました。
追記からどうぞ。

【注意】
ネームレス(彼女表記)、三人称吉田視点。
原作沿い夢主(信仰の悪魔)、二部で公安と敵対し、記憶を失くしてる設定です。



 会話が途切れ、沈黙が生まれる。公安が所有する建物の一室、ハマスホイの絵画みたいに白と黒で構成された部屋の中、不意に訪れた静謐が与える居心地の悪さ、疎外感。膚がチクチクと痛み、ソファの上で身動ぎをする。

「……君は、俺といて楽しい?」

 口にしてから、吉田は『しまった』と思う。こんな質問バカげてる。自分が聞かれた時は面倒だなとしか思わなかったし、そんなことを聞いてくる相手とはすぐに距離を置いた。なのにいま、自分がその『面倒な』人間に成り下がっている。どうしてこうも上手くいかないのだろう。仕事も、プライベートも。

「唐突だね」

 隣でホットミルクを飲んでいた彼女が吐息だけで笑う。でも揶揄する響きはない。居住まいを正し、吉田の話を聞く姿勢を取った。

「何か、あった?」

 柔らかな声とこちらを窺い見る眼差し。親愛に満ちた空気は、他の悪魔のそれとはまったく異なる。だというのに蘇るのは昼間飢餓の悪魔に言われたセリフ。

『貴方達といてもそんな……楽しくは……ない……』

 そのたった一言が脳内をリフレインしている。今もまだ、耳にこびりついて離れない。

「誰かに言われた?楽しくないって」

「…………」

 返しに詰まると、彼女は「図星って顔だ」と笑みを深める。

「ふふっ、可愛いね。知らなかったな、君がそんなこと気にするタイプだったなんて」

 俺だって知らなかった。こんな下らない──悪魔であるという共通点しかない相手の言葉を、彼女の言葉であるように感じてしまうなんて。
 でも経緯をバカ正直に話すのは恥ずかしくて、吉田の口は固く閉ざされたまま。可愛い可愛いと繰り返す彼女に、頬を突かれても抵抗ひとつできやしない。質問の答えを催促することだって。
 カチャリ、とティーカップを置く音が白い壁に反響する。吉田は俯いたままその音を聞いた。

「そんなの人それぞれじゃない?趣味とか物事の考え方とか……そういうのが一緒じゃなきゃ、楽しいと思えないでしょう?……だから、」

 ぐいっと顔が持ち上げられる。輪郭に沿わされた手のひら、間近に迫る空の蒼、──弧を描く唇。視界が、ハマスホイの絵画にはない彩りであふれた。

「だから私は楽しいよ。君と並んで映画を観るのも、小説の感想を言い合うのも、一緒に美術館に行くのも……、こうやって何てことない話をするのさえ、……楽しいんだよ」

 吉田の頬を両手で挟んだまま、彼女は気持ちいいほどはっきりと言い切った。欲しいと思っていた言葉に、何倍もの彩りを添えて。
 吉田は最初目を丸くし、それから眉を下げた。情けないけれど、嬉しかった。嬉しくて、切なかった。

「……ありがとう。そんなこと言ってくれるのは君だけだよ。どうやら俺は自分が思っていた以上に面白くない男だったみたい」

「あらら、ずいぶん手厳しい子だったんだね」

 かわいそうに、と今度は頭を撫でてくる。慈愛に満ちた手つきはいやに慣れたものだ。
 『以前は』こういうことをよくしていたんだろう、俺以外の誰かに──と吉田は目を伏せる。温められたはずの心が急速に冷えていくのを感じた。
 彼女が優しさを向ける相手は自分だけであればいい。そう思ってしまってから、胸が軋んだ。これはきっと罪悪感だ。捨てたはずの良心が体の中で暴れている。『彼女が欲しい言葉をくれるのは、俺がそう仕向けたからじゃないか』、と。

「……ねぇ吉田くん、私だけじゃだめ?」

「え……」

「私は吉田くんといると楽しいよ。……それだけじゃだめかな」

 揺れる双眸の中に、呆けた顔の男が映っていた。

「……だめだよ、だってそのせいで世界は滅んじゃうんだよ」

 支離滅裂だ。いや、吉田の中ではきちんとした理屈がある。でも経緯を知らない彼女にしたら到底理解できない話だろう。吉田自身も分かっていて、でも理路整然と話す余裕はなかった。焦っていたのだ──頼みの綱であった飢餓の悪魔に協力を断られて、本当のところは参っていた。
 だから言うべきではないこと、言うつもりもなかったことが口から滑り落ちていた。情けない顔で、情けなく声を震わせて。
 でも彼女は顔色を変えなかった。静かな、荘厳さすら感じさせる──けれど親しみ深い眼で、吉田を見上げていた。

「それじゃあ私たちみんな、死んじゃうの?」

「そうだよ、俺がつまらないせいで」

「そう……、それならよかった」

 ちいさな唇が綻ぶのを、鼻先が触れ合うほどの距離で認める。見間違えようもない距離。隔たりなど殆どないはずなのに、吉田には彼女の心がわからない。どうして笑っていられるのか、どうして赦してくれるのか──
 その問いの答えは、実にあっさりと齎された。

「私ね、どうしてだか置いていかれちゃうような気がしていたの。おかしいよね、君は帰ってくるって約束してくれたのに。なのに私はひとり取り残されてしまう……そんな焦燥感があって、ずっとずっと……苦しかったんだよ」

 彼女は吉田と額を合わせながら滔々と語る。
 一日しか保たない記憶、自由に動かすことの叶わない下肢。公安で保護されている彼女には限られた人間しか接触が許されていない。もしも仮にそのすべてが死に絶えてしまったなら、彼女は独りきり、この白と黒の世界で死を待つだけになるのだろう。
 恐ろしいことだと思う。自分の身に置き換えて想像すると、とてもじゃないが正気でいられる自信がない。けれど彼女にそんな生活を押しつけたのは公安であり、吉田自身であった。だから本当は赦されてはいけないのだ。恨まれてしかるべきで、なのに彼女は──

「でも世界が滅んじゃうなら関係ないよね、私も君も、最期までずっと、一緒だよね。それなら私、私……もう、こわくないよ」

 死を語りながらも、どこまでも穏やかな表情だった。吉田は目の前の少女にラファエロの筆致をみた。赦されてはいけないと理解しているのに、身勝手にも心は沸き立った。嬉しくて切なくて哀しくて愛おしい。衝動のまま、彼女を掻き抱いた。

「約束だよ。俺の心臓は君のもので、君の心臓は俺のものだから」

「うん、いいよ。ぜんぶ君にあげる。だから君のぜんぶ、私にちょうだい?」

 目に見えない愛なんかいらない。言葉だけじゃ信じられない。この世にたった一つしかないものがほしい。
 だから、最初から二人にはこの結末しかなかったのだ。

カテゴリ:ネタ
2025/04/13 22:13


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