好きです大好きですむしろ愛してます。っていうか愛とかまだよくわかんないからやっぱり大好きですかなり。ものすごく。

「はよー、黒尾」
「おー。おはよ」

たとえばわたしがあなたに告白したとしてそう、「好きです」「俺も」みたいなことになったとして、言うなれば「アイラブユー」に「ミートゥー」が返ってきたとして、そうしたらあなたが試合で格好良くスパイクを決めたり活躍してる姿に嬉しいのにどうしようもなくソワソワする様な気持ちって、少しはマシになったりするんでしょうか。

『好きです』

どうしてこの四文字ってこんなに重たくって難しくってぐぐぐって喉に詰まって引っかかってしまうんでしょうか。
授業中に聞いているフリがうまいあなたの背中を後ろから眺めながら、今日も喉に引っかかった四文字を飲み込んでそれがわたしのお腹に溜まっていくのです。胸がいっぱいとかよりもお腹がいっぱいになります、あなたの背中を見ていると。

「(黒尾くん。てつろーくん。)」

授業中なら絶対にこちらを振り返ったりしないあなたの背中を穴が開くほど見つめられるのは、後ろの席のわたしの特権なわけで、実は友達に頼みこんでこの席を獲得したことはたぶんあなたは知らないでしょう。
実はわたしはあなたのうなじから背中にかけての線が好きで、あなたのわけの分からない髪型が好きで、バレーをやっている時にしなやかに伸びるその手足が好きで、嫌いなところといえばわたしがあなたを好きだってことに気づかないふりをしているところくらいです。

「(授業が終わって、黒尾くんが一番にこっち向いたら、好きって言う)」

あなたの後ろの席になってからこんな不毛な賭けを何百回繰り返したかも分かりません。こっち向け、とも思うし向くな、とも思うしわたしの心は自分でもため息が出るくらいに複雑でどうしようもないのです。

「はーいじゃあ今日はここまで。テスト範囲に入ってくるからちゃんと復習しとけよー」

先生がそう言ったと同時にチャイムが鳴って、周りのみんなは早々に席を立ったり伸びをしたりしている。わたしはといえば教科書を片付けながら、じぃっと黒尾くんの背中を見つめて、

「なぁ、ここさぁ、」

くるりと突然振り返った彼にぎょっとして何も言えなくなってしまった。

「ちょっと写し損ねたんだけど。分かる?」
「あ、う、うん」

一度閉じたノートを開いて差し出すと、さんきゅ、と小さく呟いた黒尾くんは椅子に逆向きに座り直してわたしの机にノートを乗せた。ここでやるのか。怯んだわたしをよそに大きな手で時折器用にシャーペンを回しながら、さらさらとノートを書き写していく。

「みょうじってさあ、」
「うん」

腕に痣を見つけて試合の時にレシーブを打つ姿を思い出していると、視線をノートへ落としたまま声をかけられたので、わたしの心臓はどきりと締め付けられた。

「(黒尾くんが、一番にこっち向いたら、)」

あの不毛な賭けはたぶん一生負けっぱなしだと思っていたから、いざそれが本当になったら途端にわたしの度胸のなさが顔をのぞかせた。
どうしてたったの四文字が、こんなに重たくって難しくって喉に詰まって引っかかってしまうんでしょうか。

「授業中ずっと俺の背中見てるけど、背中フェチかなんかなの?」
「え、」

あなたの嫌いなところといえば、わたしがあなたを好きだってことに気づかないふりをして、そんなふうなことをなんでもないみたいに聞いてくるところです。

「さすがにじーって見られてたらさあ、すげぇ気になるっつーか」
「み、見てないよ」
「うっそぉ、見てる見てる。めっちゃ視線感じるもん」
「いや、」

実はあなたのうなじから背中にかけての線が好きで、あなたのそのわけの分からない髪型が好きで、バレーをやっている時にしなやかに伸びるその手足が、好きで、わたしは。

「…まぁ、あの、なんて言うか、……うん。好きですね、背中」
「ふぅん」

下を向いていた黒尾くんの視線がつぃと上がってきて、少し上目遣いのそれが、わたしのとかち合った。

「……背中だけ?」
「、は、?」

にやり。意地の悪い笑みを浮かべたその顔ですらやっぱり好きだし、でも知らないふりしてそんなふうなことをなんでもないみたいに聞いてくるところはやっぱり嫌いです。嘘です。好きです。





きといとそれからきと




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