04
「…てな訳で、もう直ぐ私の誕生日です」
「ふぅん、なまえちゃんもやっと九つかあ」
「ちっがう!!十九だよ、十九!!」
喚く私をにやにやと酒の肴にしながら太宰が盃を傾ける。度々織田作の後ろにくっついてやってくる太宰は相変わらず薄く暗い匂いを漂わせてはいたけれど、それでも飄々として私をいじめて遊ぶので、今となってはお互いにいじくりあってケタケタ笑う仲になっていた。
織田作には太宰の他に安吾という友人がいるらしく、此処に来ない時は大抵行きつけのバーで三人で飲んでいるらしい。
「いいなぁ、私も行きたい」
「なまえちゃんはちびっ子だからなぁ」
「ちびっ子じゃないってば」
唇を尖らせる私を見て「そういう所だろ」と織田作が呟いた。太宰がまたケタケタと笑う。きちんと聞いたことはないけれども、私と太宰はさして年齢は変わらないはずだ。
「誕生日が来たら連れて行ってあげるよ」
「ほんとに?」
「勿論だとも」
にんまりする太宰の向こう側で織田作が息を吐く。あまりよく思っていないのだろうかと少し不安になった私と織田作とを交互に見て、太宰が「心配性だなぁ」と余計に口角を上げた。
聞こえないふりをする織田作は淡々と酒を飲んでいる。
自称私の誕生日ということは、織田作と出会ってもう一年が経とうとしているということだ。
時間が経つのは案外早いものだなと思いながら、店内をぐるりと見回す。女将さんは相変わらずころんと丸い林檎のように可愛くて優しいし、大将はやはりその鬼瓦の様な顔で私に柔らかく笑いかける。幸せだ、と、幸せがどういうものなのかも分からぬ私ですらそう思う様になったのは、総て織田作のお陰だった。
「其れで?誕生日の贈り物にはオヒメサマは何をご所望なのかな」
何かを企んでいるかの様な太宰の笑みに若干の不安を覚えながらもちらりと織田作を盗み見る。興味なさそうな顔をする割に、しっかり聞き耳を立てているんだろうなと思いながら、私はううんと唸った。
「矢張り、女の子はアクセサリーだよねぇ」
太宰が手を伸ばして私の髪をくるくると弄ぶ。ちらりと視線だけを此方へやった織田作は、黙々と大将がサービスで出した鯖を解していた。
「そうだね、でも指輪は仕事の最中じゃあ出来ないし」
「ネックレスなんて良いんじゃないの」
「確かに、それなら仕事でも着けてられるね」
嗚呼、私此れおかわり、と何の気なしに言う太宰からぐい呑を預かって厨房へと引っ込む。
こっそり様子を伺ってみた織田作はというと、矢張り何時もと同じに黙々と鯖を口に運んでいたので、私の攻撃とそれから太宰の援護射撃はどうやら全然効かなかったらしい、と一人そぅっと肩を落とした。
「ねぇねぇ、誕生日には会いに来てね」
会計を済ませて階段を降りて行く織田作の外套を引っ張る。
そうしたら首だけを此方へ向けて足を止めるので、慌てて下段に降りようとしていたところを踏ん張った私はよろけて素っ転びそうになった。がしりと腕を掴まれて、何となく、初めて顔を合わせた時の事をふと思い出す。そして突然腑に落ちた様に、私は織田作に会ったあの日に生まれたのだ、と思った。
「お、織田作、」
何故だか声が震えていたので自分でも吃驚して私は俯いた。私の方が一つ上段に立っているというのに、それでも織田作の方が目線が高い。
「仕事が入らなかったらな」
無骨な手が私の頭に乗っかる。
言葉は素っ気ない癖に、織田作は「お前はそっちの方が似合う」と言った時の様にほんのすこぅし目を細めて優しい顔をしていたので、私は文句も言えずにただ黙って頷いた。
161030