(ボールルームへようこそ/釘宮)
「あれ、釘宮さん?」
賀寿くんが指さす方を見ると背の高い男の人がスーパーの前にいた。
あの髪型といい、立ち姿といい確かに釘宮さんだ。
袋を手にしているから買い物終わりみたいだ。
僕の返答を聞く前に賀寿くんは大きな声で釘宮さんを呼びながら駆け寄っていく。
そんなに大きな声だと注目浴びちゃうよ、と指摘しようにも賀寿くんはもう横にいない。
きっと釘宮さんは露骨に嫌そうな顔してるだろうなと思いながら僕も駆け出した。
「釘宮さん、こんにちは。お買い物ですか?」
「釘宮さんちここら辺なんなん?」
予想に反して釘宮さんは嫌そうな顔をしていなかった。どちらかというと、どこか焦ったような表情だ。
不思議に思っているとスーパーから女の人が出てきた。
邪魔にならないように端に避けるが女の人の足は何故かその場で止まった。
「方美ちゃん、お待たせ!煮魚なのにコレ忘れたらどうしようもないよね」
釘宮さんの大きなため息が聞こえた。見ると空いている手で額を押さえていた。
「な、釘宮さん彼女いたんべか!?」
驚いた様子の賀寿くんは相変わらず声が大きい。
僕も驚いたのは同じだけど、それを隠して今度こそ声について指摘するが届いてなさそうだ。
「こいつは別にそんなんじゃない」
釘宮さんの発言にさらに驚いた。
明らかに一緒に買い物して今からご飯作ってもらいますって感じだよね。
大学生って付き合ってなくてもそんなものなの!?
「そうそう。幼馴染は言いすぎかな…腐れ縁というかファンというか…」
そう言いながら女の人は今買ってきたであろう生姜を否定を表すように左右にブンブン振る。
「ストーカーだろ」
ボソッと呟いた釘宮さんの腕を女の人は何度も叩いていたが、怒っている感じは全くない。
寧ろいちゃついているようにしか見えない。あっという間に二人の空間が出来上がっている。
とか考えている内に釘宮さんが歩き出した。
「またね」
そう言って女の人は釘宮さんの隣に駆け寄って行った。
その後ろ姿を賀寿くんとぼんやり見送っているとそう離れていないから二人の会話が聞こえてくる。
「もしかしなくてもさっきのって赤城賀寿くん?方美ちゃん結構親しいんだね。隣の子もダンスしてるの?」
「アイツは……都民大会の」
「あ!方美ちゃんが負けた富士田多々良くん!なんか見覚えあると思った」
女の人は物凄いことを言ってこちらを振り返る。目が合うと屈託のない笑顔で手を振ってきた。
それに頬を引きつらせて手を振り返すので精一杯だった。
「あれで付き合ってないとか嘘だんべ!」
それについては僕も全く同意見だよ。
拍手ありがとうございました。
何か感想などコメントありましたらどうぞ!
TOP