(ONE PIECE/サンジ)



ダイニングの扉を開けた瞬間、包丁の奏でる小気味良い音と香ばしい匂いが聴覚と嗅覚を刺激してきた。
夕食はしっかりと食べたのにまたお腹が減ってきてしまう。

「お待ちしておりました、レディ」
「今日の不寝番のお供はなぁに?」
「今日は季節の野菜たっぷりのポトフでございます。それにいつものドライフルーツと酸味の高い濃い目のコーヒーをどうぞ」

キッチンカウンターの前に座って問いかけると、包丁を置いてわざわざ振り返ったサンジはうやうやしく一礼して答えてくれた。
すでに準備してあったカウンターに置かれたスープジャーを開けてみるとコンソメのいい匂いが広がる。
よく見ると野菜は細かく刻まれているようだ。
きっとスープジャーで食べることを配慮して食べやすいようにしてくれたのだろう。
さすが一流のコック、手抜きがない。

「すごく美味しそう。食べるのが楽しみ!」
「朝食の仕込みついでで悪いな」
「ううん、そう頼んだのは私だから気にしないで」

初めての不寝番の夜、サンジは特製の夜食を用意してくれていた。
自分の為に用意してくれたのはすごく嬉しかったのだが、なんとなく申し訳ない気持ちになってしまったので「夜食は朝食に出すものと同じでお願いします」と頼み込んだのだ。
朝食と同じといっても実際には自分のための細かい配慮が見受けられるので手間としては変わらないのかもしれない。
夜食自体を遠慮しようかとも考えたのだが、夜食なしでは不寝番をやり遂げることはできそうになかった。

「にしても不寝番なんてヤロウ共に任せておけばいいのに」
「私もクルーだしできることはやらないと」

コーヒーポットから保温ポットにコーヒーを注ぐサンジの口調は荒く苦笑いが漏れてしまった。

「そんな謙虚な君も素敵だ〜」

こんな言葉を女の子皆に言っているのは知っているから真に受けたりしないが嬉しいものは嬉しい。
ありがとう、と伝え精一杯可愛く見えるように笑いかけてみる。

「そろそろ行かないと」
「もうそんな時間か。頑張ってな」
「じゃあ、いってきます!サンジさんはしっかり休んでね」

手早く袋にまとめて差し出された夜食セットをあえて手が触れるように受け取るとそのまま逃げるようにダイニングを出た。
男の人のわりに細くて長い指先は、一瞬しか触れていないのにほんのりと温かいような気がした。




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