その日の夜、自然な流れで、といったところだろうか。
風呂から上がり、ぽつりぽつりと会話を交わした私達はそのまま布団の中へ入った。鶯丸が燭台の蝋燭を消して、私も目を瞑る。胎の中はいまだにぐるぐると欲が渦巻いている。我慢できないほどではないので私は気を紛らわそうと、もぞもぞと寝返りを打つ。そうしているうちに見かねたのか、はたまたあちらが痺れを切らしたのか。私の体はいつの間にか鶯丸の腕の中にすっぽりと埋まっていた。
そしてそのまま鶯丸に紋が刻まれた腹をくすぐるように撫でられ、心地よい愛撫にうっとりと身を委ねる。私は瞼を閉じながら、これから全身にやってくる甘露な刺激に期待を寄せて、彼の唇を受け入れた。
「俺の番。お前が泣こうが喚こうがどこにも行かせやしない」
一生、なにがあっても俺が守ってやる。
耳元で囁かれる言葉を必死に、懸命に聞き逃さぬようにしたがそれすらもう出来ずに、私はただ胎に彼を迎えることだけが精いっぱいで、当の彼はそんな私を見て心底満足そうに目を細め、唇に弧を描いた。
*
形容しがたい感覚に耐えながら私は部屋の天井をぼんやりと見ていた。律動に合わせて揺れる足に、ふとカエルもどきの顔が脳裏をよぎる。首に顔を埋めている鶯丸の陰からあの醜い妖が出てくるのではないかという不安に駆られ、広い背にしがみつく。
言葉にならない声をあげて迫りくる快楽に押し流される。もう何度達したかわからなくなった頃、あちらがようやく達しそうになるまでになったのかさきほどより乱暴な動きに変わった。
獣の泣き声みたいに声を上げる。この部屋は防音じゃないとか隣室には他の客がいるなどの心配なんて、ずいぶん前に消えた。普段それほど声を出さないのに、今日は異常であった。品のない悲鳴が喉から漏れるたび、とてつもない恥が生まれる。声を我慢しようと唇を噛んだが「声をだせ」と親指で唇を抉じ開けられてしまい、私はそのまま素直に鳴き始めた。
「ああ、そうだ。それでいい……ふふ、可愛いな」
耳元で囁かれ、その低い声は私の脳を犯す材料となり、またはしたなく悦楽に満ちた嬌声を上げる。得物を捉えるように若苗色の目がスッと細められ、それに射抜かれたそ私は目の前にいる神がどこかの得体のしれぬ妖のように見えた。一瞬の錯覚から、ぞっと肌が粟立つ。が、その怯えも目の前にある男の背中によって薄れていく。
そういえば、と私は小刻みに動く背を見て思い出す。宿に帰る途中で雄の妖と雌の妖が物陰に隠れて必死に交尾していたことを。一応隠れていたつもりだろうが、雄の妖ががむしゃらに腰をカクカク動かしているのをばっちり見てしまった。余程必死なのか、横を通りすぎる私たちの気配に気付くこともなかった。その反対に雌は意外と冷静だったらしく、ちょうどあちらと目が合ってしまい非情に気まずい思いをした。
そしていま私の上で動く付喪神。顔を埋めているから表情まではわからないが、こうしてみると神も妖もあまり大差ないなあ、なんてことをぼんやりと考える。
私たちを見下ろす天井の染みは不思議と人間の顔に見えるが、あれも妖の一部なんだろうか。だとするとずいぶんと悪趣味な。
そこでようやく、私の意識が別の場所に向いていることに気付いた鶯丸が「おい」と怒った。感情の起伏があまりない彼がなんてめずらしい。私と同じように、彼も普段より感情が昂っているのだろうか。
私の脳裏にはまだ雄の腰振りの映像が強く残っている。そのせいで、ついふふっと吹きだしながら「ごめんなさい」と謝る。するとなにかを勘違いした鶯丸は臍を曲げた若造のように唇を尖らせた。あら、そういう表情をするんだなと私は思わず目を見張る。新しい一面を晒してくれた鶯丸だったが、彼はまだ不満そうだ。私は慌てて鶯丸の唇に自分のそれを押し付け、なんとか機嫌を取った。付喪神さまは満足そうに私の首に腕を回し再び貪りだす。
まあ、とにかく。もう二度とゲートを抜けたら不思議の町でしたみたいな体験はしたくない。これからは本丸の番号を間違えないようにしなくては。
そう誓った午前二時の出来ごと。
妖と人はまだ眠らない。
―完―