[chapter:1.審神者]

 現世の季節はすっかりと寒い冬に移り変わろうとしている。本丸の季節は温かい春の陽気が多いため、審神者はなれない冬の寒さに思わず肩を縮めて息を吐いた。宙に吐き出された息がほわんと白くなるのを見て、審神者の体はますます冷え込んだ。
 
 今日は月に一度の霊力検診の日だ。霊力検診とは、政府が指定する病院に霊力の低い審神者を集め、体に異常がないか診てもらうのだ。
その際に近侍を連れてくることも条件とされていて、この審神者は毎回違う近侍を連れてきている。ちなみに今日の近侍は鳴狐だ。
 
「ああ〜・・・・・・寒い」

 隣にいる鳴狐が審神者のぼやきを拾い、ほんの少しばかり首を縦に動かす。二人の間に会話はあまりなく、足音だけが途切れることなくコツコツと鳴る。沈黙が苦痛ではない審神者と無口な鳴狐。お互い、会話がなくても居心地のよいと感じる存在であった。

「鳴狐の私服、なんだか新鮮。あ、でも普段から洋装だから違和感はないよね」

 鳴狐がまたひとつ頷く。鳴狐の格好は普段着ている戦闘服やジャージではなく、現世用に用意された私服を身に着けていた。口元には面頬の代わりにマスクをつけていて、彼の顔半分を覆い隠している。マスクを着用しているのは彼がいつも面頬を付けているからではなく、ただの風邪予防である。審神者は刀は風邪をひくのか? と疑問に思ったが、いまは人間と同じ肉体で生活をしているし一応念のためだ。


「寒くない? 大丈夫?」
「平気」

 とは言うものの、やっぱりマフラーを巻いてあげればよかったかな。審神者は自分の首回りを温めるマフラーに触れながら、鳴狐の肩に視線を滑らせる。今日は珍しく、お喋りなあの子がいない。

「そう、ならいいんだけど。ところで、お供さんはなんで一緒に来なかったの?」
「・・・・・・外は寒いから本丸で留守番するって」
「ふうん」

 ん? でも狐って寒さに強いはずでは?
審神者は首を傾げたが、深く追及しなかった。鳴狐の言うとおり、いつも彼の肩に乗っているお供の狐は本丸で留守番中だ。どこへ行くのにも常に一緒であるお供がいないだけで、鳴狐の肩は少し寂しくみえる。だが、そう思っているのは審神者だけであり、鳴狐は滅多に訪れないこの時間を密かに楽しんでいた。