[chapter:2.鳴狐の主は]
 審神者の本丸に顕現されている刀はまだ半数程度。その本丸に、鳴狐は十振目の刀として顕現された。
他の本丸と比べたら戦力は低いが戦績は中の中あたり。上からはそこそこの評価をされているので、もっと刀を顕現させろなどと圧力をかけられることもない。

 ここの本丸の主は軽い怪我でもすぐに手入れをした。傷が浅いときはなるべく資材を節約し、主が自ら包帯を巻いたり消毒をしてくれるときもある。周りはこの程度で手当てだなんて大袈裟だと笑う。それに関しては鳴狐も同意しているが、粟田口の面々やほかの刀剣を大事に扱ってくれる主が好きだったし、傍にいることにも不思議と心地よさを覚えていた。
 主は、鳴狐が戦場で無理をして重傷を負ったとき真っ青な顔で彼を出迎え、急いで手当てを施したという。泣きもせず動揺して声を上げることもなく、ただ黙々と必死な顔で鳴狐を治していたと、あとから狐のお供に聞いた。
鳴狐が柔らかい布団の上で目を覚ました後、当本丸の初期刀である山姥切と初鍛刀である秋田にこんな話も聞かされた。

「主君、最初のころは震えながら手当てをしていました。前に大倶利伽羅さんの腕が千切れかけていたときは、顔を真っ青にして倒れてしまったんです」
「主は血が苦手でな。気を失われたときは焦った」
「そのときは宗左さんが主君の頬を、こう、ぺちん!って叩いて目を覚めさせたんですよね。僕、驚きました」
「・・・・・・いや、ぺちん、ではなくもっと激しい音だったぞ」
「ええっと、べちん!・・・・・・こうですか?」
「ああ。しっかりしろと怒りながら二、三回ほど叩いていたな。頬を赤くして、泣きながら手当てをする主の姿を見てさすがに宗左もやりすぎたと思ったらしい。その後、頬を冷やしてやっていた」

 鳴狐の枕元で、お供を蒸しタオルで拭いてあげていた主が恥ずかしそうに顔を上げた。

「だって怖かったんだもん。大倶利伽羅さん、いまにも死んじゃいそうな感じだったから・・・・・・」
「俺たちはそれくらいでは死なない」
「わかってるよ。でも怖いものは怖いの」
「ですがそのようにお優しいところが主様の良いところですぞ! あ、もうちょっと左のほうも。ああ、そこですそこ・・・・・・」
「ふふ、ありがとう。ここね、はいはい」

主は笑みを浮かべた後、複雑そうな顔をつくり、はあと溜息をついた。

「・・・・・・ごめんね」

 主はお供の毛並を整えながら小さく言った。それきり、なにも喋らなかった。