黄昏時に、どこか知らない場所に立っていた。目の前には果てしなく続く一本道。
さわさわと足元を擽られて下を向く。無造作に生えた草が足首にまとわりついている。そこで初めて、自分が素足だということに気づいた。靴下すら履いていない。

 意識がどこかに吸い込まれていきそうな微弱の引力を感じる。緩慢な動作で辺りを見渡す。何も、誰もいない。
一本道を沿うように生えた草もどこまで繋がっているのか、この道の先になにがあるのか。わからない。
寒さも暑さも感じない。足は地についているはずなのに体が動かない。既視感。肉体と意識が切り離されたような感覚。
どうやらここは夢の中らしい。

 ぼんやり佇んでいると、人の気配を感じた。左からだ。そちらを見やる。いつの間にか、たくさんの人が一本道を歩いていた。
なぜか皆揃いも揃って喪服を着ている。俯きながらとぼとぼ歩くのは女子供のみ。幼い男児はいても、成人男性はいない。誰も彼もが悲哀に染まった目をしている。彼女らが行く先に目を向けても、赤と青が交わる空と大地を繋ぐ水平線があるだけ。

 彼女達はそれぞれ箱のようなものを大事そうに抱えている。あれはなんだろうか。どこかで見覚えのある……ああ、なるほど。あれは多分、骨箱だ。
喪服、骨箱……。言葉を繋ぎ合わせる。

 私は少しだけ眉を顰めた。
自分はいま葬式の夢を見せられているのだ。
縁起が悪い夢だ。近々葬式にでも呼ばれるのだろうか。
舞台上の役者を見ているような気持ちで黒い列を見送っていると、ふと、列の後ろの方にいるひとりの女性に目が止まった。

 容姿がいいとか、逆に醜女だとかではなく、導かれるようにして視線が動いた。どこかで見覚えのある顔だった。けど思い出せない。
 女性の顏は無表情だった。その隣を歩く老婆が不審げに女性の顏と骨箱を交互に見る。そして憐れむような視線を女性に向けた後、瞼を伏せながら先を歩いた。

 老婆の視線を跳ね除けるように、女性の唇はきゅっと固く結ばれていた。淡々と、義務の様に歩く彼女は不思議と目立つ存在だった。目が離せなくなった私は、女性の顔を食い入るように見つめる。
 すると、女性の唇が僅かに開いた。そして骨箱を抱えなおしたかと思えば、骨箱を数回ほど撫でた。壊れ物を優しく扱うような仕草だった。私の視線は自然と女性の顔に移る。

 あれほど固く結ばれていた女性の口元には薄らと笑みが浮かんでいた。故人を偲んでいる、というよりも喜んでいるような。あまりにも穏やかすぎる微笑みであった。
 物言わぬ骨となったその人は、女性にとってどんな相手だったのだろうか。父、母、友人、それとも恋人か。
とにかく死者を悼む場に似つかわしくない表情であったことは確かで、私はゾッと背筋を震わせるどころか、彼女の横顔にデジャブのようなものを感じていた。

 風が吹いたようだ。彼女らの喪服の袖が揺れている。私だけが風を感じない。まるで幽霊にでもなったようだ。夢って面白い。
 しみじみとした気持ちで瞬きを繰り返すと、先ほどの女性が立ち止まっていた。ちょうど、ここから真っ直ぐの場所だ。

 女性が持っている骨箱もいつの間にか遺影に変わっている。遺影の写真は、首から下ははっきり見えるのに、なぜか顔の部分にだけ靄のようなものが漂っていた。
それでも軍服を着た男性が映っていることだけははっきりと確認できて、何かを考える前に、私の足は無意識のうちに動いていた。草の先端が兄裏をチクチクと擽り、そのたびに遺影にかかっていた靄が徐々に薄れていく。写真に映る顔の輪郭がぼんやりと浮かび上がり、途端、私はぎくりと足を止めた。見えたそれに、良く知る顔があったからだ。

 ドッドッドッと胸が激しく波打ち、得体の知れない何かが背筋に這い上がる。空恐ろしくなった私は固く目を瞑り、必死に祈りだす。

 夢、これは夢、早く目を覚ましてくれ。呪文のように唱えていれば、必ず夢から覚めることを私は知っていた。怪物に追いかけられた時も、屋上から落ちて地面にぶつかる寸前のときも、いつだって願えば夢から覚めてくれる。
だから私は今回も願った。これは夢だ。夢、夢、夢……。

「おかえりなさい」

 声につられてパッと目を開ける。
女性は骨箱に目を落としながら、なんとも幸福そうに微笑んでいた。




 ハッと夢から目覚めた。見慣れた天井が視界に広がる。遅れて安堵感がやってきて、全身の力が緩やかに抜けていく。

 遮光カーテンの隙間から覗く日差しがちょうど私の顔を照らし、意識を覚醒させていく。汗をかいた額が気持ち悪い。

 朝日の眩しさに不快さを感じながら、ゆるりと視線を横にやる。
 めずらしく、いない。隣に敷かれていた布団は部屋の押し入れに綺麗に仕舞われていた。開けっぱなしの押し入れから見える布団が、はやく起きろと告げているようで、私は渋々気怠い体を起き上がらせた。
……どこに行ったのだろう。家の中に気配がないとすると、出かけたのだろうか。

 布団から出ようと尻を上げて、シーツの上に手をつく。…………シーツが湿っていた。
どうやら寝汗をかいてしまったようだ。着ているタンクトップも背中にべったりと貼りついている。
重たい腰をあげて、欠伸を零しながらカーテンを開けてみれば、雲一つない青空が一面に広がっていた。道路を挟み、向かい側に建っている一軒家のベランダにも洗濯物がズラリと干されていて、正に洗濯日和である。

 さっそく私もシーツを取り、洗濯機に入れて、着ていたタンクトップとショートパンツ、ついでに下着もその場で脱いで中に放り込む。洗剤を入れ、洗濯機の蓋を閉めようとしたとき、玄関の鍵が、ガチャと回る音がした。アッと思ったときにはすでに遅し。足音はこちらに迫ってきている。
自分が素っ裸なことに多少の羞恥心を覚えた私は洗面所の扉から顔を出しながら、

「おかえりなさい。あのさ、」
「……なにしてんだ」

 帰ってきた彼の手には白い袋がぶら下がっていた。透けてみえるのは五百ミリリットルの水と煙草で、どうやらコンビニに行っていたようだ。
近所のコンビニに行くならアイスを買ってきてもらえばよかったと、いつもなら文句を言っているところだが、いまはそれどころではない。持ってきてほしいのはタオルか下着だ。

「ねえ、タオルかパンツ取ってきて」
「は」
「タオルかパンツ」

 冷蔵庫に水を仕舞っていた彼が表情を変えないまま肩ごしに振り返る。出掛ける前にわざわざ髪型を整えていったらしいこだわりのツーブロックのオールバックが今日も綺麗に決まっている。彼は額に落ちてきた髪を撫でつけながら、私の顔をじっと見据えた。そしてなにを思ったのか、後ろ手で冷蔵庫の扉を閉めるとこちらに近づいてきた。

 どうも彼は喜怒哀楽が伝わりにくい。と、出会った時は思っていたが長く付き合ってみると実はそうでもない。
現にいま、彼の目が笑っている。
いち早く彼の悪だくみを察した私は洗面所のドアを閉めようとした。が、寸前のところでドアの隙間に指が滑り込み、そのままとんでもない力でドアを引っ張られる。

「ええ……ちょっとぉ……」

 指だけでドアを開けようとする彼の目は実に楽しげで、遊び相手を見つけた動物のように爛々と輝いていた。私を捉えていた黒目がちの双眸が、ふと洗濯機のほうに動いた。ジャバジャバと水を入れる洗濯機は我関せずとシーツを洗い始めている。やおら、ドアを掴む手がするりと消えた。
足音が寝室の方に、かと思えばまた戻ってくる。手には丸められたシーツが。気を緩めていた私はそのまま洗面所のドアをバッと開けられ、慌ててその場に蹲った。

「ねえ、タオル……」

 頭上からバスタオルが被せられ視界が暗転する。タオルを取れば、彼の背中があった。音をたてて動いていた洗濯機を止め、蓋を開けている。どうしたのと訊く。

「シーツ洗うんなら俺のも洗っとけよ」
 
 洗濯機がまた動きだす。

「ああ、うん。忘れてた」

 私はタオルを体に巻きつけて洗面所から飛び出た。溜息が背中を追いかけてきたけれど、なにも聞こえなかったふりをして、布団が敷きっぱなしの寝室へそそくさと逃げ込んだ。


 服を身に着けながらリビングのテーブルに目をやれば、社員証が入ったカードホルダーとライターが一緒に放り投げられていた。両方彼の物だ。
昨日は金曜日。彼は昨日飲み会があって帰宅時間が遅かった。きっと面倒くさくて抵当に置いたのだろう。
月曜日に携帯するのを忘れないようにと彼のスーツが掛けられているハンガーと一緒に吊るして置く。
尾形百之助と書かれた社員証がぶら下がるのを見て、私はクローゼットの扉を閉めた。
 


「シーツ干す百之助くんてやっぱりなんか似合わない」

 床に座り、アイスキャンディーを片手に呟けば、百之助くんが怪訝そうにこちらを振り向いた。額には汗が滲んでいて、なんとも気だるげな様子。暑さに弱いのだから私が干すよと申し出たのに、彼は少し間を置いた後「お前がやると雑な干し方をするからいい」と突っぱねられてしまった。だから言ったのに。風に揺れるシーツを見ながら、意地悪なことを思った。

 右手にあるアイスが溶け始めた。慌てて齧る。シーツの皺を几帳面に伸ばす姿を見守りながら「だってさ」と口を開く。

「家事とかしなさそうじゃん。なんか、一緒に住む前はそんなイメージなかった」

 膝の上に落ちたアイスの欠片を拾っている間に百之助くんは外の方を見ていた。筋肉がついた腕が物干し竿に伸びる。
 百之助くんは背が低い方だが、がっちりとした体型をしている。いかにもスポーツをやってましたという風貌だったので、野球でもやっていたのかと訊ねたことがある。

「いや、高校を卒業するまで知り合いの道場で柔道をやってた」

 ものすごく納得した。でも、その他のスポーツはあまり好きではないようだ。どうやら汗をかく行為自体が苦手らしい。じゃあなんで柔道やってたの?
また訊けば、小学生の頃、婆ちゃんと爺ちゃんが勝手に申し込んだから。高校卒業をしたら辞めていいという約束で、ずっとやっていた。だそうだ。そのとき私は祖父母には弱いという彼の意外な一面を知って、見た目とのギャップに思わずほんわかとしてしまった。

 そのため、無駄な動きを嫌う彼は夏になるといつもエアコンの効いた室内でぐだぐだしている。私も暑い夏は苦手なので、そこのあたりは互いにちょうどいい相手である。

「今日の午後、気温が一気に上がるって……ねえ、お昼なにがいい?」
「……なんでもいい」
 
 テレビに流れる天気予報を見ながら言えば、覇気のない返事が後ろを通りすぎた。

「豚肉の冷しゃぶは?」
「肉は夜のほうがいい」
「うーん……じゃあそうめんは? めんつゆじゃなくて冷や汁で」
「それでいい」
「わかった。ねぎとみょうがも切るね」
「ん」

 百之助くんは夏になるとあまり食欲が湧かない体質だった。私はそれが心配でネットで夏バテ防止のレシピを調べ、彼の体調をできるだけ気遣っていた。おかげで少しはマシになったみたいで、一日三食しっかり食べてくれるようになった。

 付き合う前はどうしていたのだろうか。気になってそれとなく探りを入れてみれば、コンビニで買った冷たい麺類とかアイスを食べていたと。
前の彼女とかに作ってもらわなかったの?
なんて冗談を当時は言えず、そうなんだと頷いて、その話は終わった。

 彼と付き合い、一緒に暮らすようになって早数年。片手の手ではもう数えられなくなりそうだ。それについて焦りはないが、時折漠然とした不安に襲われるときがある。それは今日の夢見が悪い日とか、つまらないことで喧嘩して家を出ていくときとか、その後の事とか。

 彼は滅多に、というかいままで声を荒げたことがない。
むしろ私の方が彼に怒りをぶつけることが多かった。最近は自分に余裕が出てきたのか、それとも彼が私を成長させたのか、怒りを露わにする頻度も少なくなり、冷静に物事を考えることもできるようになった。
 ときどき、あの頃の自分を振り返るときがある。そうすると、私は毎回とてつもない罪悪感に苛まれ、彼に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
 彼の性格的にこんな面倒くさい女はすぐに捨てているはずなのに、なぜ。寝る前に湿っぽいことを話す私に、彼は言葉を探るように思案したあと

「お前じゃなかったらとっくに別れてる」
「ふっ、ふふ……」
「笑うな。もう寝ろ」

 天邪鬼な人にしてはすいぶんと似合わない言葉を選んだものだ。そのとき私は密かに思った。
それきり、彼はこれ以上口をきくことを拒むように目を瞑るとそのまま眠りについてしまった。
私は枕もとにあるスタンドの明かりを消して、枕に頭を沈ませる。薄暗い中、彼の横顔をぼうっと見つめながら先ほどの会話を反芻する。
 本当にそれだけなのだろうか。彼の言葉は素直に嬉しい。けど、考えれば考えるほど心のしこりはどんどん大きくなり、不安と疑心は消えない。
まあ、夜だからネガティブになっているだけだし、結局朝になれば半分以上どうでもよくなってしまうのだが。
 
 やがて朝を迎えると、私はまだ目を覚まさない百之助くんの顔を静かに覗き込んだ。彼の顎に残る二つの傷。そこに、そっと触れてみる。幼い頃階段で転んで切った、というこの傷も少し嘘くさく感じるのはなぜだろうか。
 傷痕をなぞられるくすぐったさに気付いたのか、百之助くんの目蓋がゆるりと開いた。私はそっと指を離しながら微笑む。

「おはよう」


「あ」
 べちゃり。
考え事をしていたらフローリングにアイスが落ちてしまった。室内にある温度計を見上げればすでに二十七度を示している。急いでアイスを拭きとる私の耳に、北海道の特集についてにこやかに報道するアナウンサーの声が妙にこびり付いた。





「あのさ、近々お葬式とかの予定あったりする?」
 
 この前買ったビーズクッションに頭を乗せて、リビングの床に寝転びながら言った。隣に座っていた百之助くんは予想通り訝しげな顔をしていた。早速、今日見た夢の話をすれば、彼の顔がスッと真顔に戻り、こちらに向けていた顔はテレビの方へ移った。百之助くんの目は洋画劇場にそそがれたままだが、きちんと私の話に耳を傾けてくれているので話を続ければ、

「疲れてるんだろ、お前」
「う〜ん、やっぱりかあ……う〜ん……」
「俺の家の婆ちゃんと爺ちゃんも耳は遠くなったが足腰は丈夫だし、俺みたいに夏バテも一切にしないんだぜ。迎えはまだまだ先だろ」
「いや、それを言うならもしかしたら家の方かもじゃん……? でも百之助くん家のおばあちゃんとおじいちゃん元気だもんね。いつも野菜を送ってくれるから助かってる。あとでまたなにかお礼しないと。なにがいいか訊いておいてね」
「そのうち孫が欲しいとかいいだすからほどほどにしとけよ」
「……はは、孫、孫ねえ……」

 沈黙が落ちる。妙な気まずさが流れているのは気のせいではない。軽く受け流したが、先ほどの発言はどういう感じで受け止めればよかったのだろうか。いまさら訊き返すこともできない。すると急に彼が立ち上がった。もしかして機嫌損ねたか。心配する私を余所に、ただ冷蔵庫から飲み物を取りに行っただけだった。


 外国人が日本語を流暢に喋る吹き替え版の洋画を耳で聞きながら、うつらうつらと微睡みだす。エアコンの涼しさも相まって、今日はとても眠い。まだ二時だ。外はかんかん照り。今日はもう外に出ることはないから少し寝よう。
 私はリビングに戻ってくる足音を聞きながら、ゆっくり瞼を閉じた。

「ねえ」
「あ?」

 彼が床に座るのを見計らって、ふにゃふにゃと声を掛ける。フローリングの床が、自分の体から放たれる熱によって生温くなっている。生温かいフローリングに、じっとりとした恐怖を感じるようになったのは、彼と生活を共に始めてからだった。瞬きをすると床がチカチカと赤く染まったような錯覚に似たなにかを感じるようになったのも。

「これは言わなかったけど、私が見たあの夢に出てくる遺影ね、映ってるの百之助くんにそっくりなんだよ……髪型は少し違ったけど……でもそっくりでね、すっごく怖かった…………」
「勝手に人を殺すな」
 百之助くんが冗談交じりに言った。
「ごめん……あとね、覚えてるかな。去年旅行に行ったとき、占い師さんが百之助くんの前世を占ってくれたときあったじゃない?」
「……ああ、北海道に旅行に行ったときのか」
「うん」

 遠くでざわざわと耳鳴りみたいな不快な音がする。クッションに頭を押し付けてもそれは私の鼓膜を震わせ続け、あの夢を鮮明に蘇らせる。

「百之助くん、占ってもらうのすごく嫌がってたからやらなかったけど……あの人、私たちが帰る間際に、百之助くんの前世は兵隊さんでしたねって言ってたじゃない? もしかしてさ……百之助くん、戦争に行って亡くなっちゃったのかもね……だとすると、あの遺影を持っているのって、ひょっとしたら……」
 
 パンッ!!と、突然大きな音がした。瞼を開ける。テレビに映る俳優が銃を持ち、悔しげに唇を噛み締めていた。彼に撃たれたと思われる相手がうめき声を上げながら床に倒れる。さよなら、兄さん。銃を持った俳優が涙を流しながら言った。

 話を遮られてしまった。はあ……と肩の力を抜くと、突然、視界が真っ暗になった。彼の手が私の目を覆ったのだ。手のひらから伝わる熱が、私を侵食していた恐怖を取り除いていく。まるで悪夢を食べるバクのようだった。
 
「もういいから。早く忘れろ、そんな気味悪い夢」
「……うん」

 前髪をかき上げられ、私の顔を覗き込む彼と目が合う。その双眸に私が映るのをじっと見ていれば、また視界が暗転した。寝てろ。いつもより声音が優しい。キスを強請れば、起きたらなとお預けをくらい、私はふふふ、ケチと笑った。
 百之助くんの手が悪夢を喰べてくれたおかげで、安心して昼寝ができそうだ。
寝て起きたらまずキスをしてもらって、美味しい夕飯を作って彼にたくさん食べてもらおう。ああ、外で蝉が鳴いている。暑そうだなあ、早く夏が終わらないかなあ。
そうだ、今年は冬に向けてなにか編もうかな。マフラー……いやそれとも買っちゃおうかな、うーん……。

 そんなことを考えているうちに、意識が遠くへ吸い込まれていく。

「……俺はあの戦地で死んだんじゃない。死んだのはお前の……」
 
 またテレビから銃声が鳴った。最後の声はテレビからか、それとも百之助くんのものだったのか。判別つかないまま、私は夢の中へ落ちていった。

20180702