女子会


世界総人口の約8割が何らかの特異能力「個性」を持つ世情にあって、個性の悪用による反社会活動に身を投じる犯罪者勢力『ヴィラン』への対抗勢力『ヒーロー』の養成学科を有する雄英高校。
折れない心を育て弛まぬ努力に打ち込む事で限界の殻を打ち破る「Plus Ultra!!(プルス ウルトラ=更に 向こうへ)」の校訓の下、No.1ヒーロー『オールマイト』並びにNo.2ヒーロー『エンデヴァー』を筆頭に多数のスーパーヒーローを排出した実績とネームバリューでニューヒーローを目指す日本全国の中学生の憧れの的となっている名門中の名門。

その雄英に入学できた私こと麗日お茶子でありますが、最近新しいお友達ができました。

「蛍ちゃーんおはよう〜!!」
「お茶子ちゃん、おはよう」

―――とびきりの美少女の友人が。

彼女の名前は高嶺蛍ちゃん。私と同じクラスで、その名の通りまさに高嶺の花ともいえる綺麗な子です。
長い黒髪はとっても艶々で、日差しも知らないような真っ白くきめ細かい肌。
お人形さんみたいに整った顔は今日も柔らかい笑顔を見せてくれました。

「昨日の課題やってきた?」
「うん。一通りは」
「あのですね…その、ちょっと分からんとこがありまして……教えていただけないでしょうか?」
「勿論、私でよければ」
「(天使や!!)」

容姿も良ければ、蛍ちゃんは八百万さんに次いで成績優秀な頭をお持ちで、
でもそれらを鼻にかけない穏やかで優しい心はほんまにかわいいと思うんだ。

「あ!高嶺さんだ!」
「今日も麗しい!」
「あの佇まいも素敵よね〜」

私たちの周りにいる他の生徒たちがざわつき始める。
さすが蛍ちゃん、まだ入学して間もないのに雄英生皆が彼女の虜となり、秘密裏にファンクラブまで結成されたという噂だ。

「どうしたの?お茶子ちゃん」
「ううん!何でもない!」

当の蛍ちゃんはそんな視線に全く気付いておらず、寧ろ自分が注目されていることも知らないと思う。
綺麗で賢い完璧蛍ちゃんですが、ちょっと天然さんなのです。
そして、そんな感じでみんな大好き蛍ちゃんという話にいきたいところですが、まさかこれから蛍ちゃんが"あの人"と急接近するなど、この時の私は思っても見なかったのでした。

▽▲▽

「甘いもの食べたーーい!ねぇねぇ皆放課後暇?駅前のドーナツ屋で女子会しよーよ!」

5限目が終わり授業をあとひとつ残す中、芦戸の元気な声が教室に響いた。

雄英高校に入学してしばらく。入学式の日にいきなり体力測定をしたり、対人戦闘訓練をしたり、プロヒーローの授業が意外と普通だったり、体育祭に沸いたり。
強烈なインパクトを残す出来事の連続で、ヒーロー科1年A組の金の卵たちは、これまで心休まる暇も無く立派なヒーローへの道をひた走ってきた。
そんな激動の日々がやっと少しだけ落ち着いてきた今日。

「お、いーじゃん!そういや体育祭の打ち上げ、女子だけでのはやってなかったね。ちょっとリフレッシュしたいし」
「女子会…とはどのようなパーティですの?」
「百ちゃん女子会初めてなん?女の子同士で集まって、甘いもの食べたりお喋りしたりするんよ」
「今まで頑張った自分へのちょっとしたご褒美ね」
「やったぁドーナツだー!久しぶりに食べるー!」

芦戸の誘いに皆も賛成のようだ。
このA組には女子生徒が7人と人数が少ないこともあってか、このクラスの女子は他のクラスと比べてもとても仲が良い。久々の休みと言いながらも、先日も7人で集まって買い物に出かけたばかりだった。

「おーい蛍ちゃん!どう?放課後の予定は平気?」

葉隠が久しぶりの甘味にワクワクしながら、7人目の女子生徒である蛍に声をかけた。

「うん。…あ、ごめんなさい、連絡来たからちょっと…」
「いいよいいよー」

すると今しがた連絡が入ったらしいスマホを手に、蛍は女子集団から離れて画面を操作していた。

「蛍ちゃん休み時間よくスマホ鳴るよね、誰からなんだろう?」
「確か、前に…マコトさんって言ってたよ」

お茶子が記憶を頼りに応える。
女子の中でも特に蛍と仲の良い麗日は、以前尋ねたことがあったのだ。

「マコトさん…って誰だれ?もしかしてオトコ!?高嶺って彼氏いたの!?わー初耳!!」
「三奈ちゃん落ち着いて、男性の名前だからって彼氏だとは限らないわ」
「高嶺さんから男性のお名前を聞くなんて初めてのことですわね…!」
「学校一の美人の彼氏!!めっちゃ気になる!!」
「これはこの後詳しく聞かせて貰わにゃいけませんな!」

恋愛話に敏感な芦戸が色めき立つのを蛙吹が冷静に諌める中、八百万は少し興奮した様子で頬を赤らめ目を輝かせていた。それに葉隠が便乗する。
これまでこのテの浮いた話題など無かったこのクラス。加えて芦戸の声が大きいこともあり、今や教室にいる者の半分程がそっと声のボリュームを下げて神経を女子達のほうへと集中させていた。




「…はぁ!?」

一方こちらはひとつの席に集まり談笑していた男子の集団。今しがた無意識であろう間抜けた声をあげたのがこの席の持ち主である爆豪だ。
目つきも言葉も人相も悪く決して人がいいとは言えないが、彼の周りには不思議と人が集まるのである。
入学当時から傍若無人な態度を貫き、先日も荒々しい強さを世に見せつけた体育祭優勝者の新しい一面に、周りの少年たちは戸惑いと好奇心が湧いた。

「ど、どうした急に爆豪?誰も変なこと言ってねえよな?」
「…もしかして、女子たちの話に反応したのか?」
「それはねぇだろ、だって爆豪だぜ?」
「いや分かんねぇじゃん!爆豪だって年頃の男なんだ、女子に興味くらいあんだろ!」
「誰目線だよお前…ってか爆豪に聞こえてんじゃ…」

周りの少年たち…切島、上鳴、瀬呂の『爆豪派閥』と一部で称されているグループだ。
中でも特に爆豪との関係が円滑な切島が、先ほど声をあげた表情のまま固まる暴君に声をかけた。
ちなみに切島は心配から、上鳴と瀬呂は好奇心からであることは言わずもがなである。

「爆豪?…おーい、爆豪さーん?」
「ダメだ、固まってら」
「何がそんなに衝撃的だったんだ?」
「なあ緑谷ー、爆豪動かなくなっちゃったんだけどー」

何が彼の心に衝撃を与えたのか図りかねる少年たちは、爆豪に関する頼みの綱である地味目の幼馴染みに助けを求めた。
ちなみにこの時点で既に女子たちの話題はスイーツにすり変わっている。
爆豪の席の後ろに座する緑谷は、いきなり声をかけられ一瞬ビクリとしたが、戸惑いながらも問いに答えてくれた。人のいい男である。
どうやら女子の会話と爆豪派閥の様子、どちらも目にしていたらしい。

「上鳴くんそんなおもちゃが壊れちゃったんだけどーみたいな言い方…えっと、僕の見た限りではかっちゃんが黙り始めたのが高嶺さんの連絡相手の『マコトさん』っていう恐らく異性の名前を麗日さんが出した辺りからで、芦戸さんの『彼氏』って単語を聞いてフリーズしちゃった訳だ。
そんな反応をするってことは、その単語が出る前の会話から注意深く聞いてたってことになる…ということはかっちゃんが反応したのは『高嶺さんに彼氏がいるかもしれない可能性』だとしか考えられない…いや待てよ、そんな恐ろしいことがあってたまるかそもそもかっちゃんが他人に嫌悪以外の感情を向けるなんて今まで一度もブツブツブツブツブツ………」

「うお、熟考モード入っちまった」
「緑谷って意外と爆豪のことよく見てるよな」
「今気にするとこそこじゃねーよ!つまり爆豪、高嶺のこと気になってるってことだろォ!!?」
「うわああああそういやそうだ!!」
「マジかよ!確かに高嶺はめっちゃ可愛いけど、いやあの爆豪が!?」
「お、おおおちつけお前ら!まだ可能性の段階だ!!」
「さっきからうるせえぞクソ共が!!!!」

一同の深読みが加速する中、渦中の爆豪が意識を取り戻してしまった。

「うわあああもう爆豪おちつけ!!悪かったって!もう言わねえから!」
「チッ!俺を囲むんじゃねえ!!」

騒ぎ出した暴君を切島が宥め、瀬呂と上鳴は緑谷を話に引っ張り込む。

こそっ――
「なあ、緑谷も思うか?爆豪が高嶺のこと好きだって」
「いやぁ、好きっていうか気になってるとは思うんだよね…確実だとは言えないけど、かっちゃんが人の名前を覚えるのなんてほんとに珍しいんだよ。高嶺っていう名前が誰のことなのか理解してたみたいだし」
「へ?マジかよ俺ですらアホ面なのに!?」
「文句あんのかよアホ面が!!」
「だから上鳴だって言ってんのに!ホントは覚えてんだろちゃんと!」
「こりゃ男子会も開催だな…詳しく聞かせてもらうぜ爆豪!」
「なあ、女子たち駅前のドーナツ屋行くって言ってたよな?俺たちもこっそり着いてっちゃわね?高嶺とその男のこと何かわかるかも」

騒ぐ暴君を尻目に、すっかり爆豪の恋を応援する気になってしまった(もちろん面白半分である)派閥によって女子会尾行計画…またの名を『マコト捜査計画』が立てられたのだった。

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