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二人が飛ばされた土砂ゾーンは出入り口からそう離れていないエリアだった。
土砂ゾーンの正規の入り口から出ればすぐに中央の噴水のエリアが見える。何名か倒れているように見えるのは敵(ヴィラン)だろうか、他のクラスメイトは無事だろうかと判断する前に視界に入った一際目立つ人物。
「オールマイト……!」
存在だけで見る者に安心感を与えるその姿に、来てくれたんだと安堵したのもつかの間、その様子がおかしいことには轟も静もすぐに気がついた。オールマイトの動きを大柄の異形系の人物が封じ、ワープの黒いモヤが今にも地に引き摺り込もうとしていたのだ。容易に振りほどけていないところを見ると危ない状況なのかもしれない、オールマイトほどの人が、でもそんなと思いながらも走る足が止まらない。
「轟くんあれ……!」
「ああ!」
「どけ邪魔だ!!!!」
「ばっ爆豪くん…!?」
横から急に現れた爆豪に驚きつつ、そのあとに切島が続いていった。轟、静もそれに続く。
どういう状況なのかの判断も何もつかなかったが、全員考えるより先に体が動き、戦闘のその最中めがけて突っ込んでいった。
避難しようとしていたのか出入り口の方へ向かっていた緑谷が、オールマイトを助けようと踵を返して引き返してくるのが見えた。
黒いモヤの人物がその目の前に立ちはだかるのを爆豪が爆撃で止める。切島は手首を大量につけた異様な容姿の男へ自分の「硬化」の個性で切りかかり、轟はオールマイトを掴む人物を氷結で止めた。
「スカしてんじゃねえぞモヤモブが!!」
「てめぇらがオールマイト殺しを実行する役とだけ聞いた……平和の象徴はてめェら如きに殺れねえよ」
「かっちゃん……!皆……!!」
これで少なくとも最悪な事態は免れたからだろうか。
しかし、まだ気は抜けない。目の前の男の個性は未知。下手に動けば此方が危ない。と、
静の傍に立っている轟くんの凍結のお陰で敵の黒い巨体の手が緩んだのか、捕まっていた状態で動けなかったオールマイトがバッと身を翻して巨体から逃れる。これでトップヒーローのピンチも免れた。さぁ、これからどう動く。
「出入口を押さえられた………こりゃあ…ピンチだなあ…」
主犯と思われる体中に手の付いた男はまるで他人事のように、目の前に広がる光景を見つめながら言った。その声色にはまるで、緊張感が無い。
明らかにそちらの方が不利な状況になってしまっているというのに慌てる素振りも、悔しがる素振りも無い。今まで見た事、聞いた事のある犯罪者とは全く系統が違う。
「このウッカリヤローめ!やっぱ思った通りだ!」
その場の誰もが下手に動くことも出来ず、相手の動きを見ていれば傍らで靄男を捕えた爆豪だけが、嬉しそうに笑いながら声を上げた。
「モヤ状のワープゲートになれる箇所は限られてる!そのモヤゲートで実体部分を覆ってたんだろ!?そうだろ!?
全身モヤの物理無効人生なら"危ない"っつー発想はでねぇもんなあ!!」
「ぬぅっ…」
「っと動くな!」
あの短時間でそこまで見抜いたとなれば、やはり爆豪は戦闘に置いてセンスの塊である。どうやらそこまで見抜かれるとは思っても見なかったであろう靄男も核心を突かれ、何とか逃れようと身を捩る、が。
「"怪しい動きをした"と 俺が判断したらすぐ爆破する!」
「ヒーローらしからぬ言動…」
地面に押さえつけている靄男にグッと顔を近づけながら言う爆豪の顔は、かなり活き活きとしている。その言動に思わず表情を引き攣らせる切島。本当、知らない人がこの状態を見たら彼は敵と間違われるんじゃないだろうか。
「攻略された上に全員ほぼ無傷…すごいなぁ最近の子どもは…恥ずかしくなってくるぜ敵(ヴィラン)連合…!」
まるで感心しているようにも聞こえないその手男の口調に、視線を前方に戻す。きっと主犯の彼も子供に此処までやられるなんて思っていなかっただろう。自分たちだってこんな事態になるとは予想だにしなかった。
でも、此処で対応できなければそれまで。世間のヒーローたちは予想だにしていない事態にも迅速に対応している。ヒーローの卵として此処で退く訳には―…。
「脳無。爆発小僧をやっつけろ。出入口の奪還だ」
「っ!」
脳無と呼ばれた、轟に体の大半を氷漬けにされて動けなかった黒い巨体をもつ敵。手男の言葉と共にまず反応したのは轟だった。
身体の大半が凍り、身動き取れない筈の脳無がパキパキと氷を砕きながら徐々に徐々に動き出す。そこまでならまだ良かったのかもしれない。問題は、凍っている自分の体の一部を捨てたように割って動いているのだ。
「身体が割れてるのに…動いてる…!?」
「嘘、…」
「皆 下がれ!なんだ!?ショック吸収の"個性"じゃないのか!?」
ほぼ体の半分を失っているにもかかわらず、ゆっくりと立ち上がる脳無に誰もが言葉を失った。生徒たちを庇うように前に立つオールマイトの言動から、どうやら脳無は打撃を吸収する個性を見せていたらしい。なのに、身体が割れても動くなんて。
「別にそれだけとは言ってないだろう。これは"超再生"だな」
「!?」
割れて無くなった部分がみるみる元の形を作り上げていく。驚く此方を余所に、脳無の体はあっという間に元に戻っていた。攻撃を無効にするショック吸収に、自身の傷を癒す超再生。この脳無という生き物…2つの個性をもっているというのか。
「複数の個性を持つなんて、そんな事―…」
人間が1度に2つの個性を持っているなんて、世間で前例のない事だ。聞いた事も見た事も無い。そもそも、目の前に居る脳無が人間なのかすら問題である。否、仮に2つの個性を持つことが出来る存在があるとすればそれは最早―…。
静が思わず口から零れ出た声に、手男が此方を見た。驚いた此方の表情がよほど面白ろかったのか、ふと微かに笑った手男と目が合った気がした。その笑みにゾクゾクと背筋を何かが駆け上がって行く。
「脳無はオールマイトの100%にも耐えられるように改造された超高性能サンドバック人間さ」
その言葉に誰もが目を見開いた。そして、身体の再生が終わるか否かの瞬間、いきなり脳無が動いた。真っ直ぐに靄男を捕えている爆豪に向かっているのが見えて、そして―。
「!」
ブオッ
「わ…っ!」
「静ちゃん!」
何もかもが一瞬だった。突然起こった爆風に反射的に顔を覆う切島と轟。周りの木々をも薙ぎ倒す勢いの爆風で体が支えられず、思わず後ろに居た緑谷に倒れ込む始末。その動きの速さに誰もその場から動けずに居た。
「だ、大丈夫!?」
「私は大丈夫、それより…!」
「そうだ…!かっちゃん!!」
どうにか出久に受け止められる形で静自身は無事だった。しかし、顔を上げると先ほどまで視線の先にいたはずの"彼"が居ない。その視線を見て察したのか、緑谷も思い出したかのように顔を上げた、瞬間。
「かっちゃん!?」
緑谷の声に自分の横へと顔を向けると、そこには先ほどまでの笑顔がウソのように少し青ざめた様子の爆豪が居た。
爆風が起こる直前、爆豪に迫った脳無が大きく腕を振り上げたのが僅かに見えた気がしたが、いつの間に此処まで移動していたのだろう。
「避っ避けたの!?すごい…!」
「違えよ黙れカス」
すっかり乗っかってしまう形となってしまっていた自分を緑谷の上から退かし、改めて爆豪を見る。
驚いている彼を余所に、爆豪は今まで見た事無いぐらい顔色が悪い。それを見て察した。違う。彼は、目の前に迫った脳無の攻撃を避けたんじゃない。庇われたのだ。あの一瞬の間に、あの人―…
「………加減を知らんのか…」
オールマイトに。
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