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「緑谷たちの方行っときゃ良かった!!」

上鳴の情けない声が、必要以上に状況の悪さを物語っているように感じてしまう。静は小さくため息をついた。

「君たちが走ってっちゃうからさァ!!さびしくてついてきちゃったらさァ!!」
「じゃァ行けやカス」
「行けるワケねーだろ!!」

爆豪も多少イラッとした様子で低く唸ったが、上鳴はやはり情けない声を継続中。

「だって切島が、あんなんなっちゃったんだぞ!?」

なっちゃっているのは切島だけではないが。
都市内の高架を模した橋の上、広い道路の上にゴロゴロと転がっている肉塊は全て、ど真ん中で悠然と仁王立ちしている男の個性の被害者達に違いなかった。

会場の入り口で見かけた――若干一名ついて行けないテンションで絡んできた――関西の強豪校、士傑高校の生徒の一人だということはすぐにわかる。
校章のついた制帽に軍服のようなコスチュームを着た彼は、手にしていた切島の塊をポイとその場に投げ捨てた。

「――これは示威である」

つらつらと、まるで高尚な演説でもしているかのような口調で言う。

「就学時より責務と矜持を涵養する我々と、粗野で徒者のまま英雄を志す諸君との水準差」

嫌いなタイプだ、と爆豪が吐き捨てた。静もつい眉を寄せる。
意識が高くていらっしゃるのは結構なことだが、試験中なのだからもっと単純に点数を取りに来られた方が幾分気持ちがいいというものだ。
小難しい単語を並べて、嫌味っぽく非難されるのは好きになれない。

「何つったあの人!?頭に入ってこねー!」
「上鳴くんにはちょっと難しかったかも…」

静が呟くと何気にひでえな!?とショックを受けたような顔をする上鳴。
そんな二人を横目に、爆豪がフンと鼻を鳴らして適当な台詞で相手を煽り始めた。

「目が細すぎて相手の実力見えませんだとよ」
「私の目は見目好く長大である!!」
「オイィイイ!コンプレックスだったっぽいじゃん!やめなよそういうの!!」

雑な煽りだ。深々とため息をついた相手は、心底残念そうな声で続けた。

「雄英高校……私は尊敬している」

言いながら、彼の背後にずるりと何かが集まって形を作る。彼の個性で作られた、大きな五本の指先。
先ほど不意打ちに現れた時は、気付けば切島がやられていた。

「御校と伍する事に、誇りすら感じていたのだ。それを諸君らは品位を貶めてばかり……」
「さっきのまた来るぞ!!キモいやつ!!」
「うるせえ」

上鳴に言われるまでもなく、爆豪はすでに戦闘態勢である。静も一歩後ろから、彼らの様子をじっと見ながら警戒を強める。

「責務?矜持ィ?ペラペラペラペラ……口じゃなくって、行動で示してくださいヨ先パイ!」
「特に貴様だよ!!爆豪!」

五本の指が襲いかかる。それを当然に予想していた爆豪が対策に遅れることはなく。バッと突き出した両の手のひらから、小さな爆発が連続していくつも飛び出した。

「新技の乱れ撃ち……名付けて徹甲弾機関銃!」
「つーかおまえ方々から同じような理由で嫌われてんな……」

指先の形をしていた肉塊が相打ちになり、欠片となって男の元へ戻っていく。
相殺されなかった爆発でバランスを崩したのを目敏く見計らって、静がボールを三つ浮かせ、勢いをつけ加速しながら彼の胸元、三つ縦に並んだターゲットに一直線で向かう。
一瞬細い三白眼を見開いた表情にやったか、と思ったが当然そうは簡単でなく、収束途中の肉片がボールを受け止め、そのままずるりと包み込んで無力化してしまった。

「ちゃんとやれやボケ」
「ご…ごめんなさい…」

ボールは男から離れて、ブルブル身を震わせるような仕草でまとわり付く肉片を振り払った。とはいえもう一度隙をつくには遅すぎたので、三つのボールは彼の周りをふわりと漂うのみだった。相手はちらりとその様子を確かめて、ふうと息をついた。

「そちらの個性は物体の動きを操作する、だったか……なるほど厄介な相手…………しかし、」
「……?」

そう言いながら男が静の方をチラリと見てきたかと思うと、何故か先ほどまで動いていた口が閉じ、フイッと静から視線がそれた。よく見ると耳が赤くなっている。

「え、ちょ、まさかあの人…照己に?!」
「あ"ぁ"!?どういうことだアホ面!?」
「お前ら気づけよ!!」

上鳴だけが気付いたようだが、静と爆豪はよく分からなかったらしい。
しかし、その空気も一変。直後、一度戻った腕も、もう一方の腕も。先ほどと同様の指先を、今度は二倍の量で形成する。また同じような攻撃に入るのかと身構えた。

「と、とにかく…っ、私が手折り、気付かせよう。帰属する場に相応しい挙止、それが品位であると」
「何なんだこの人は!」
「うるせえ奴だブッ殺す!」

未だ余裕ぶって講釈を垂れるのは気に障ったらしい。
爆豪が一層苛立たしげに声をあげ、男に向かって駆け出した。

「だー待て!試験だぞ忘れんなよ!」
「上鳴くん、私達は援護を…!」

静は言いながら、太ももに巻いたホルスターに忍ばせた十数本の金属矢(寸鉄)を操作し飛ばす。爆豪の進む軌道の周りから、逃げ場を減らすような角度で向かうそれらを、相手は指先一つと引き換えに後退して避けた。
上鳴はまだ少し納得のいかない顔をしながら、腕の装備に弾倉を一つセットする。

「こんな戦闘、不毛すぎだろ!早いとこ切り上げっぞ!」

二発、撃たれたそれも軽々と避けられた。
あっくそ、と残念そうに呟く上鳴を横目に、静はもう一度宙に浮かぶままのボールを男に向かわせる。

「飛び道具か……目障りだ、先に丸めてやろうか」
「俺を無視すんな!!」
「――してないが?」

指先の一つが、爆豪の背後から。

「さて……先ほど切島で見たであろう。その肉は――触れたら、終わりだ」

ボールは三つとも、標的に辿り着くことなく、力を失ったようにぽとりと地面に落ちた。

▽▲▽

ビリビリと空気さえ麻痺させるような電流だった。
上鳴の狙い撃つ放電が相手を捉えたとほぼ同時に、文字通り手も足も出なかったこちらのカウンターでようやく決着がついた。

「ありがとな上鳴!照己!」
「ううん、殆ど上鳴くんがやってくれたから…私は援護だけで…」
「爆豪もお礼言っとけよ!」
「…やりゃあできるじゃねえか馬鹿が」
「…うん」
「なぁ!オレはオレは!?」
「うるせぇ!テメェは遅んだよアホ面!」
「ひでえな!なにこの扱いの差!?やっぱディスられても仕方ねえわおまえ!」

切島を見習って少しぐらい感謝の意を表するべきである。切島に続き爆豪までが肉塊にされてしまったから、照己がバックアップをし上鳴が電気を相手にくらわせ、それに乗じたカウンターだったというのに。

「つーか後ろ!!丸くこねられたのは、おまえらだけじゃねえぞ!」

拘束が解け立ち上がったのはその場に転がっていた十数人のライバル達も同様だった。それを振り返った爆豪はいつも通りの好戦的な笑みを浮かべ、唇を舐める。
手も足も出ない状態じゃ、鬱憤が溜まって仕方なかったところだ。

「知ってんよ」
「ここは私が、」

ところが、一番に飛び出したのは、爆豪達三人をふわりと飛び越えた彼女だった。

「あっテメ……」
「さっきはお役に立てなかったから」

言いながら、静はゆっくりと腕を上げて――振り下ろした。
その瞬間、立ち上がりかけていた他の受験者達が再び地に伏した。

「ぐぅ!?」
「なっ、んだこれ!」
「動けねっ……」

爆豪達も一瞬何が起きたかわからなかったが、どうやら照己の個性で相手の動きを操っているらしい。
今まで物体だけなら幾らでもできていたが、こんなにたくさんの人間に干渉していたのは初めて見た。

「なんだよー照己!そんな強力な拘束技あんなら最初から使えよ!」
「て、抵抗してこない間に…なら、できるので」

上鳴と切島に素直に褒められ静は恥じらいからか顔を真っ赤にする。
爆豪はそんな彼らを見てチッと舌打ちをした。結局、不完全燃焼のままで終わった。

なんだかんだあったが意外とあっさり合格条件を満たした四人は、ターゲットから聞こえる声の指示に従って控え室へ向かうことになった。方向から、丁度先ほど地に伏した他校の生徒たちの上を通っていかなければならないので、解放した途端の乱戦に巻き込まれないため、その場を離れるまで静の個性は継続している。

「あん?」
「どした爆豪?」

途中、例の士傑高校の男の傍を通ろうとした爆豪が何かが落ちているのに気付き拾い上げた。切島もそれを覗き見る。
なんとそれは―――

「え、照己じゃねーか!」

そう。爆豪が拾い上げたのは一枚の切り抜き。
恐らく雑誌か何かに載せてあったのを切り取ったと思われるが、そこに写っていたのは何と静本人だったのだ。

「オレにも見せて見せて!うわっマジだ!」
「これ多分体育祭のときのだよな?うち(雄英)のジャージ着てるやつだし…」
「え、てかこれどこにあったん?」
「こいつ(士傑)の傍に……」
「ええええええ、やっぱそうだって!さっきの態度といい、この人絶対照己のこと好きだと思ったんだよなー!わざわざ切り抜き持ってるあたり相当ファンじゃねえの?!」
「…お、おい?爆豪、震えてるぞ?!」

静の切り抜きを持った爆豪の手がプルプルと震え出していた。そしてその表情はいつもの如く、鬼の様な形相である。

「この変態野郎がぶっ殺すッッ!!」
「落ち着けって!もうさっきので気ィ失ってんだから!」
「それよりさっさと行こうぜ!さっきから向こうで照己がずっと待ってる!」

男子3人を置いて、照己は個性を使用している以上、できれば早めにここを通り過ぎたいのだ。
遠くの方でこちらを待っている様子がうかがえる。
つまり、この切り抜きの本人は爆豪たちの苦労も分からないわけで。

(み、皆さん…できれば足を進めてほしいな…)

結局、切り抜きは爆豪が強奪し最後に士傑の男にひと蹴り浴びせてから、ようやく4人は控室へと向かった。

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