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「つまんないな〜」
『何気ない毎日が良いんだってば』
優しく微笑む彼女が傍に居てくれる幸せ。時間と空間を共有して思い出にする毎日。確かにこんな素敵な毎日はないよね。
「あ、いた!タケル!○○!」
「兄さん?そんなに慌ててどうしたんだよ」
「いや、光子郎たちがデジタルワールドに異変があるって―」
その言葉を聞いて僕たちも慌てて兄さんについてパソコン室へ駆け込んだ。
『京先輩、デジタルワールドで何があったんですか?』
「それがね、このエリア見て…すごく天気が荒れてるみたいなの。最初は一時的な事かと思ったんだけど、もう1週間も続いてて―」
「それでテントモンにこのエリアの調査を頼んだんですが、連絡がつかなくて…」
パートナーデジモンの危機…なのか、光子郎さんの顔色が悪い。太一さんたちは部活でいないし、僕と兄さんと光子郎さんと京さんと○○ちゃんだけ。得体の知れないエリアに僕たちだけで向かうには心許ない…。
『早く行きましょうよ!テントモンが危ないかもしれないですし!!!』
「でも何があるか分からないだろ」
『それでも、です!みんなで行けば大丈夫です!!!』
○○ちゃんは行く気満々。○○ちゃんは昔からこうだ、この先に何があるか分からない…そんな中でも「みんなと一緒なら大丈夫、何とかなる!」と引っ張ってくれた。
太一さんにとても似ている、と思う。
太一さんは○○ちゃんの憧れの人、だった…から―
「…僕も、早く行くべきだと思います」
「○○さん…タケルくん」
「はぁ…お前たちは」
『はぁって何ですか、はぁって!!!』
「カップルって性格も似るのか?」
『うううううるさいです!!!』
「あは、似ちゃうのかな〜」
『タケルくんもノらないでよ、もう!』
顔を赤くして照れる○○ちゃんはどんな気持ちなんだろう。
性格が似るというよりも、僕が合わせているんだけどね。
「あー何か少し和んだわ…よーっし!光子郎先輩、テントモン助けに行きますよ!!!」
「えぇ?!京さんまで…」
「光子郎、仲間が危ないかもしれないんだ。○○が言う通り早く行こう」
「…はい、皆さんありがとうございます」
そうして僕たち5人はデジタルワールドへと向かった。
「はっきりとこの場所から空間が歪んでいるようですね」
僕たちが立つ場所は晴れやかなのに、一歩先の問題のエリアは暗く重苦しい雰囲気を纏っている。天候が荒れているのか、微かに雷の音も聞こえる。
『テントモン…』
「この先のエリアのデータが受信出来ないので何があるか全く分かりませんね…」
「で、でも…行かなきゃ、よね」
「そうだな、行くか」
「パタモンたちは呼ばないの?」
「パートナーデジモンを呼ぶことも考えたんですが、テントモンのように帰って来られなくなったら申し訳ないんで…今回は僕たちだけで―」
『…大丈夫、何とかなりますよ。すぐにテントモンを見つけて帰りましょ!』
○○ちゃんの言葉で、みんなが覚悟を決めた。まず兄さんが手を伸ばしてエリアに入り込む。バチッという音を立てて一歩踏み込むと、姿が見えなくなった。
「ええええ?!ちょ、ヤマト先輩なんで?!!」
「たぶん…こちら側とあちら側では見えなくなるようですね、確かにエリアに入っていったので僕たちも一歩踏み込めばヤマトさんに会えると思います」
続いて光子郎さんと京さんが一緒に踏み込み、僕は○○ちゃんの手を握った。
『怖い?』
「○○ちゃんが怖いと思って」
『別に怖くはないけど…ありがとう』
そして、一歩踏み込んだ。超える瞬間、体にピリピリと電気が走る感覚がして、お互いの手を強く握った。
「全員来られたな」
光子郎さんが言ったとおり、そこには兄さんたちがいた。先ほど外から見たこのエリアはより暗さを増し、風が強く吹いて足元がおぼつかない。
「あ、微かにデータが…」
「でもまだ黒くてよく分かりませんね…」
身を寄せ合って、データが受信出来そうな場所を探して歩いていく。
「うう…疲れる」
「何か凄く気が滅入るな」
確かに…歩き進めていくと体が怠く重くなっていく。ただ疲れているというよりも、外からの、この空間の雰囲気と風がそうしているんだと思う。
「あ、データが見えやすく…これは、ん?」
『あっ…ててててテントモン!!!』
「テントモン!!!」
大きな岩の裏で倒れているテントモンをようやく見つけた。ぐったりとしているが僕たちが駆け寄ったら体を起こして返事をした。
「あぁ…みなはん、」
「テントモン!大丈夫ですか、ケガは?!」
「光子郎はん…ケガは無いですわ、みなはんも心配せんといてください」
「でも、どうしてずっと連絡がなかったんだ?」
「このエリアに入った時から嫌な感じが…だんだん体が重くなって動けなく―」
「じゃあケガをしたわけではないんですね…良かった」
「でも確かにここに入ってから体が重いわ…テントモンも見つかったことだし、早く帰りましょう…!」
「そうだな、テントモンは俺と光子郎で運ぼう」
「はい、パソコンで今来た道が分かりますのでこれを辿って戻りましょう。京くん、お願いしてもいいですか」
「任せてください!」
『はぁー…良かった、早くここから出たい…』
「○○ちゃん大丈夫?」
『うん、少し頭が痛いけど…大丈夫』
「無理しないで、ちゃんと僕の手を握って」
『…ありが―』
手を握ろうとしたその時、いっそう強い風が吹いて、視界の端に黒い塊が飛んでくるのが見えた。
「○○ちゃん―!!!」
手を引こうとしても届かなかった。
黒い塊が○○ちゃんにぶつかる、そう思った瞬間に○○ちゃんの姿は消えた。過ぎ去った黒い塊を目をこらしてみると、ファントモンのような姿をしていた。
「タケル、どうした?!」
「○○ちゃんが…!たぶん、ファントモンのマントに覆われて―」
「っ、風が強くなってるわ!早く戻らなきゃ!」
「でも、○○ちゃんが!」
「タケルくん、ファントモンのマントは別次元のデジタルワールドに通じていると言われてます…害があるかどうか、は…分かりませんが、今ここで全員倒れてしまっては、○○さんのことを助けることは出来ません―!」
「でも、…だって―!!!」
「行くぞ、タケル!○○は大丈夫だから!」
大丈夫じゃないよ…だって、ほんとは弱い子なんだ。
一人で…たった一人で、どこか分からない場所にいるなんて―
∞2015/09/02
ALICE+