21


「大輔くん」


「あ、光子郎さん」


休み時間、珍しく俺の教室に来た光子郎さん。タケルでも、○○ちゃんでもなく、俺を呼びに来るのは何事だろうか。


「どうしたんすか?」


「あの…タケルくんから、聞きましたか?」


「何をですか?」


「大輔くんは知らないのか…」


何かを考えるような素振りを見せる光子郎さんに、パッと頭に浮かんだ事を聞いてみた。


「太一さんと、○○ちゃんのこと…すか?」


「…知って、いたんですね」


「あ、えと…○○ちゃんから相談されたんでー」


眉間に皺を寄せる光子郎さんに、○○ちゃんとのやり取りを、しっかりと伝えた。タケルと○○ちゃんが両思いだったことは知っている。知っているうえで、今の○○ちゃんの思いを尊重したいと思って、俺なりにアドバイスした、と。


「そ…ですか。最終的に決めたのは、○○さんですものね」


「太一さんなら、と…思って」


「…この事は、太一さんと○○さんのことは、他のみんなには黙っておきましょう」


「え、そりゃ、タケルのことは気がかりだけど…」


「正直、僕は太一さんのことが信じられません」


「えっ、」


「○○さんが太一さんを好きなのは本当でも、太一さんが○○さんを…本当に好きかは、疑わしいんですよ」


「そ、れは…」


「タケルくんとのことを知っておきながら…告白すると思いますか?タケルくんを傷つけるのは当然。タケルくんとの記憶が戻った○○さんを傷つけるのも分かってるはずなのに…好きな人が傷つくのが分かっていて、告白しますか?」


確かに、言われてみれば おかしい。


俺はよく考えずに、○○ちゃんに…―


「だから、太一さんと○○さんのことが広まって…いざという時に、傷が浅くすむように…」


「はい…」


「他に知っていそうなのは?」


「○○ちゃんの友達の織本泉ちゃんが」


「では、その織本さんにも口止めをお願いします」


「分かりました…」


「僕は京さんとあのエリアの解析に努めます。○○さんと…タケルくん、任せます」


光子郎さんを見送り、隣の教室のタケルを探すと、ベランダから空を見上げるその背中が見えた。

何と声をかければいいのか。そもそも、俺が声をかけていいのか。


「○○ちゃん、は…」


○○ちゃんを探すと、案の定、泉ちゃんとこそこそ話していた。たぶん、太一さんとのことだろう。

もうチャイムが鳴る。次の休み時間、話そう。


∞2016/06/25


ALICE+