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「もうあれから1ヶ月も経ってるんですか?!!」


「そうですよ」


京くんに改めて「あれから1ヶ月」と聞くと、あっという間の1ヶ月だったと思う。これといった進展もなく過ぎていった日々。自分の力の無さに呆れる。


「そりゃあ夏もおさまって涼しくもなりますよねぇ」


○○さんの記憶が消えた日は2学期が始まって間もなかった。今はもう秋になろうという季節。


「あああああ、ほんっと進展なさすぎてイライラする!!!」


「それに比べて、○○さんと太一さんの距離は縮まっているというのに…」


「へっ???」


しまった、と気づいたときには、京くんはメガネの奥の瞳をまん丸にしてこちらを見ていた。


「どういう意味ですか」


「えっと…」


「どういう、意味、ですか?!!」


ずんずんと近寄ってくる京くんの迫力に圧倒された。何の進展もなく過ぎていく日々なのに、毎日のようにパソコン室でデジタルワールドを監視してくれる京くんには伝えるべき、か。


「実は、お付き合いされているんです…」


「誰がですか」


「太一さんと、○○さん」


「………はあ?!!」


開いた口が塞がらない、当然のリアクションだ。


「だ、だって…○○ちゃんって、タケルくんと…でしたよね」


「あの日、記憶が消えるまでは」


「え、じゃあ…タケルくんのことを忘れた○○ちゃんに、手出した、ってこと…」


「そうなりますね」


「な、何なんですか太一先輩!!!タケルくんの気持ち知ってて、どういうつもりなんですか?!!」


僕と同じことを思ったようだ。そう、みんな、同じ意見になる。タケルくんの気持ちも、○○さんの気持ちも、踏みにじることになる太一さんへの批判は当然だ。


「真意は………分かりません」


「そんな…」


とぼとぼと椅子に座り、困惑した表情で俯く京くん。


「だから…少しでも早く、○○さんの記憶を…タケルくんとの思い出を、思い出してほしいんです」


「………分かりました」


先ほどまで弱っていた声が、凄みを含んだものになって、思わず目を見開いた。


「俄然やる気が沸いてきました!!!絶対に、あのエリアの謎を解いてみせます!!!○○ちゃんも、タケルくんも…あの日を迎える前のように、戻ってほしいから!!!」


目をメラメラと燃やす京くんに、僕までやる気が沸いてきた。そうだ、諦めないで、頑張ろう。仲間の幸せを、笑顔を守れるのは…同じ仲間である僕たちにしか出来ないんだ。


「そして全てが元に戻ったら、太一先輩を一発殴ります!!!」


「えぇ?!!」


それはやりすぎでは、と苦笑いをしたけれど、たぶん「それ」は別の人がやるはずだ―。


∞2016/07/03
ALICE+