26
太一さんにキスをされたと一瞬で分かった。
唇が触れて数秒、ついばむ様に唇を動かして、太一さんは離れた。
「100点間違いなし!」
『………』
目の前の太一さんの笑顔に、とても恥ずかしくなった。太一さんに返す言葉が、出てこない。
「○○?」
俯いた私の顔をのぞき込むようにして、名前を呼ばれた。
たまらなくなって、太一さんに思い切り抱き着いた。
「え、○○?」
『〜っ、』
少し背伸びをして、太一さんの肩に顔をうずめる。言葉に出来ない、嬉しさと恥ずかしさ。
「うんうん」
太一さんは優しい声でそう答えて、私の背中をポンポンと叩いてくれた。
私はこんなにも恥ずかしいのに、太一さんは平気で…大人だなーと単純に思った。私も太一さんに見合う人になりたい。
そう思いながら、深呼吸をして、太一さんの肩に顎を乗せるように顔を上げた。
『っ、あ』
顔を上げた先には、タケルくんがいた。そういえば、さっき廊下の先にいたのを見たんだった。
でも、今は廊下の先で向き合うように、目が合っている。
「………」
タケルくんはただ無言で、そこから動くことなく、視線が交わる。もしかして、私と太一さんのキスを見られたのかな、と恥ずかしくなり、再び、俯こうとした。
その瞬間、タケルくんの目から涙がこぼれた。
表情を変えることなく、瞬きをする度に、涙がツーっと、タケルくんの頬を伝って落ちていく。
私はタケルくんから目が逸らせず、心がぎゅっと締め付けられる気持ちになった。
先ほどまでの嬉しくて、恥ずかしい気持ちなんて…もう無くなっていた。
どうして、タケルくんが泣いているのか。
どうか、泣かないで。
お願いだから、泣かないで。
そう強く思っていたら、私まで涙が込み上げてきた。
『っ、ぅ…』
どうしても、タケルくんに涙を見せたくなくて…再び、太一さんの肩に顔をうずめた。
遠くで響いた足音が、さらに遠くへと…消えていった。
「………○○」
『あ、はい…すみませんっ』
太一さんから離れて、照れて顔を隠すように、涙をぐっと拭った。
「――帰ろう」
『………、はい』
手を差し出されて、一瞬ためらったけど、その手を強く握った。
∞2016/07/09
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