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もう僕は彼女を待たない。
「はじめまして」から再び始まった僕たちの関係は、もう「さようなら」を言うしかなくなった。
涙を拭いながらカバンを掴んで、そそくさと靴箱に向かう。
握りつぶされた心臓は苦しくて苦しくて、吐き出してしまいたくなる。僕の心臓を守っていたのは、彼女との記憶。それが消えてしまった今、無防備な心臓はもう死んでしまったようだ。
「早く帰って…勉強しよう」
何か、しなくちゃ。他に集中しなければ、また涙が溢れそうだった。
「タケルせんぱーい」
靴を手に取り、履き替えようとしたとき、見知らぬ女の子が話しかけてきた。
「…誰?」
「えーわたしのこと知らないの?1年生で超人気のセレブ、洲崎アイルでーす!」
「…知らない」
「ん〜、つれない所もまた素敵!!!ちょーグッド!!!」
関わると面倒くさそうなので、そそくさと靴を履いて、校舎から出た。すると、アイルという子も急いで僕に着いてきた。
「何の用?」
「タケル先輩、あたしと付き合ってください!」
「………は?」
何を言うかと思えば。
思わず進めていた足を止めて、後ろを振り返った。
「あたし、タケル先輩のこと初めて見たとき、こう、ビビーっときちゃったんです!あたしの運命の王子様だって!!!」
「そう…ですか」
ずいっと近づいてきた顔に思わず身じろいだ。キラキラとした瞳に見つめられて、どうすればいいのかと頭を働かせる。
「タケル先輩って、彼女いますか?!!」
その言葉に、一瞬○○ちゃんの顔が脳裏をよぎった。でも、その○○ちゃんの隣には…隣は、僕の居場所じゃない。
「いないよ、僕と付き合いたいの?」
「え、お付き合いしてくれるの?!!」
「…いいよ」
「キャー!!!アイルの彼氏!!!タケル先輩!!!」
大声をあげて抱き着いてきたアイル。ちらほらと帰路に着く他の生徒の注目を浴びる。
もう、どうでもいいや。
どうでもいいよ。
もう僕は彼女を待たないんだから。
「で、さっそくなんですけどぉ、今度の休みデートしましょ!」
「うん」
「あたしお台場でお買い物したいんですけどぉ、いいですか?」
「うん」
「やったー!!!」
少しでもいいから、この握りつぶされた心臓のことを忘れたい。そして、大好きな、彼女のことも。
次は僕が君のこと、忘れる番なんだろうね。
∞2016/07/26
ALICE+