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キスをされてから数日経った日の事。


「○○、今度の休みデートしねぇ?」


『ででででデート、ですか?!!』


「うん」


放課後、部活に向かう前の太一さんが教室に来たと思えば、いきなりのお誘い。空いていた私の前の席に座って、頬杖をついて微笑む。ダメだ…心臓がもたない。


『もちろん、です』


「よっしゃ!休みの日に二人で一緒に出掛けるのは、付き合ってから始めてだよなー」


お台場でもウロウロするか、って笑顔でいうものだから、嬉しくて私もつられて笑う。あーどんな服着ていこうかな。可愛く思われたいし、色付きのリップもつけていこうかな。そんな考えを一瞬で巡らせる。


「じゃあ家まで迎えに行くから」


そう言って手をふって教室を出ていく太一さんの後ろ姿を見送る。


『こんな幸せで良いのかな〜』


頬が緩むのを抑える。

小さい頃から憧れの太一さんに告白され、お付き合いできて、キスまでしてしまった。年上の余裕が羨ましい。私は太一さんの言葉・行動ひとつにこんなに心臓がうるさくなってしまう。

でも、たまにその心臓のうるささが、ドキドキの時と、ズキズキの時がある。不思議だ。幸せすぎるのがいけないのか。
そういえば、キスした時だ…特にズキズキしてしまったのは。思い返してみると、タケルくんに見られた時。恥ずかしさからくるものと、言い広められたらどうしようという不安だと思う。けど、そんなことする人とは思えないし。

ふと、タケルくんの席を振り返る。

誰だろう、話している女の子。学年カラーからして、1年生の子だ。可愛いなー…。女の子は笑顔で一生懸命話しているのに、タケルくんはというと、帰り支度をするカバンに視線を落したままゆっくりと相槌をうつだけ。

何か愛想が無いなーと思った。笑ってほしいと思った。でも、その子に笑顔を向けてほしくないとも思った。


複雑な感情をかき消すように、帰り支度をして、帰るよーと叫ぶ泉ちゃんのもとに駆け寄った。


∞2020/01/18
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