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「◇◇おはよー」


『あ…うん、おはよう』


「校内新聞見たぜ!活躍して良かったな!」


いつもの、笑顔。でも、どこか違和感を感じる。何なんだろう…。


『ありがとう…』


「まわりの奴は偶然とか、たまたまとか、言うけどさ…俺は◇◇が頑張ったから、勝てたんだと、思う。」


『…う、ん、』


「えーっと、だからなー、つまり………じ、自信、そう自信!自信もてよな!!!」


いつもとは違う笑顔の八神君。だけど、久しぶりに目を見て話せて良かった。でも、嬉しいような、嬉しくないような。

何で、武之内さんと一緒に居たのか。気になって、気になって、頭がグルグルする。嫌だな。疑う訳じゃないし、私が疑える立場でもない。

でも、やっぱり…何があっても私は八神くんを好き、なんだと思う。こうやって、一生懸命に言葉を選んで、勇気づけてくれる、素敵な人だから。





『失礼します…先生?』


グルグルする頭と心を落ち着かせるために保健室に来たけど、鍵は開いているのに、先生はいない。とりあえず部屋に入って机を見ると、〈職員室にいます。ベッドはご自由に〉と書かれたメモが置いてあった。

すぐに帰ってくるかな?と思いながら、ベッドに腰かけた瞬間、部屋のドアが開いた。


『あ、先生、…っ』


思わず先生と口走ってしまった。部屋に入ってきたのは、男の子。たぶん1年生だ。先生と呼ばれて驚いた顔をしている。


『あ、ごめん、なさい…』


謝ると、別に、とでも言うような会釈をされた。机のメモを見つけて、先生はいないと悟ったようだ。


『あの…先生、たぶん…すぐ帰ってくる、と、思います…』


「…そのベッド使うんですか?」


『え、あ、つ、使う…なら、退きます』


「隣使います」


『は、はい…』


雰囲気が少しトゲトゲしいというか…何というか。隣のベッドに腰かけると、チラッとこちらを見たせいで目があってしまった。


『っ、ごめんなさい…』


「…謝りすぎ」


『あ、すみません…』


「まただ」


クスクスと笑う。何故か、このやり取りは最近経験した覚えがある。いつ、だったか…少し考えてみる。


「クラスマッチの人?」


『え?』


「朝、校内新聞で見たような人だから。」


『あー…たぶん、そう、です』


あああああ やっぱり、あの場所に校内新聞とかダメだよ!目立ちたくない、顔を覚えられたくない、変に思われたくない!


「隣のは彼氏?」


『ちち違います!!!』


「…そんな強く否定しなくても」


またクスクスと笑う。だって、一番思われたくない事なんだもの。全力で否定しなきゃ…石田くんと武ノ内さん、それに…八神くんにも悪い。


『…ごめんなさい』


「本当によく謝りますね」


『ごめ…あっ、はい…』


つくづく恥ずかしい。このやり取りは、確か…そのクラスマッチの日にあった。そうだ。泣いた日に、声をかけてくれた人と―


「似てる」


『?』


「その、クラスマッチの日、ここにいたんです。隣のベッドの人と話したんですけど…同じくらい謝る人でした」


『え、それ………わ、私、かも?』


「えっ、」


よくよく考えてみれば、あの、サボりの1年生と声が似てる。この子も1年生だし、今授業中だから…サボり。そして、このベッドはあの日と同じ場所。


「あの…泣いて、た?」


『は、はい』


「お、同い年かと…思ってた」


『ご、ごめんなさい…』


「その謝りかた…やっぱり、あの日の ― そうか、2年生だったのか…って、あ!あの時は、その、タメ口ですみませんでした」


『あー、いえいえ!大丈夫です。むしろタメ口のほうが…』


「じゃ、じゃあ…」


何だか、スッキリした。一昨日、私を励ましてくれたのはこの子もだったんだ…会えて良かった。でも泣いてたのを思い出して恥ずかしくなる。


「あ、俺1年の源輝二」


『私は、2年生の◇◇○○です。』


∞14/10/27

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