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「夜は肌寒いので、上着があると良いですよ」


星空観賞の案内をしてくれるのは、スタッフのノルシュタインさん。いわいるハーフのイケメンでたくさんの女子に囲まれている。格好良くて星にも詳しいんだ。


「きっらーきぃーらあひーかぁるぅ〜」


「よっぞぅらーのぉほぉしーよ〜」


とても元気で音痴な歌が聞こえると思ったら、昨日はしゃいでいた中学生の子。と、スタッフの大門さん。仲良く腕を組んで合唱しているけれど…いつの間に仲良くなったんだろう。


「…ユウくん、こんな人に星の説明なんかできると思う?」


「たしかに…頼りない」


「よっしゃあ!さあさあ、タイキさん!一緒に行きましょう!!!」


「おい、タイキさんは私と星を見るんだ。失せろ」


「はぁあん?リョウマは引っ込んでろバーカバーカ!」


「お前のほうこそ引っ込め!」


「お、ケンカか!ケンカなのか?!」


「…レンくん、先行ってよっか」


「そうだねー。アイルとネネさんも行きましょう」


「そ、そうね…」


「ほーんと子どもなんだから」


「…タイキ、今の内行くぞ」


「キリハ…、あいつらほっとけないけど………そ、そうだな行くか」


「今日こそてめぇの触覚引っこ抜いてやるよ!!!」


「うるさい!おまえの前髪むしってやる!!!」


「うぉおおおおお熱くなってきたぜぇええええ!!!」


『………燃えてる』


「暑苦しいバカがいるわね」


最近の中学生って…おもしろいな。

じゃ、なくて!!!


「それでは、着いてきてください。足元気を付けて」


みんなしてコテージを出て、山道を進む。

よし、作戦開始。
ジェンくんを見つけて、声をかける。


『あ、ジェンくんたちも、一緒に星見ない?』


「そうだね、みんなで行こう」


「う、うん!行こう!」


「タカト迷子にならないでよね」


「は、はーい…」


山道を進んでいき、ようやく広場に出た。

ミミちゃんと泉ちゃんは夜空の説明書をするノルシュタインさんの側で熱心に星について質問している。


「ね、ねぇ…どのタイミングで言えば…」


『あ、そ、そうだね…』


こそこそ話し合う私とタカトくんに気づいた留姫に声をかけられる。


「タカト、あんた何枚上着来てるのよ」


「えっ?!あーー、さ、寒がりだし!」


「そうだったっけ?」


『る、留姫は薄着じゃない?寒くない?』


「思ったより、肌寒い…かな」


「なら、タカトが1枚ルキに貸してあげたら?」


『うんうん、それ良いと思う!』


「え、いいわよ…」


「ダメだよ!ルキ女の子なんだから!」


「あ、………うん」


微かに分かる。留姫がいま、タカトくんの言葉にドキドキしたことが。


『ジェンくん、ノルシュタインさんの話聞きに行こう!』


「そうだね!2人とも、先に行ってるね」


「え、○○?!」





『大丈夫かな…ケンカとか、なってないかな』


「確かに、ちょっと心配だね」


タカトくんと留姫から離れたところでジェンくんと星を見上げながら話す。冷たく澄んだ空気が心地好い。


ふと、回りを見渡すと、一人で夜空を見上げながらゆっくりと瞬きをする八神くんを見つけた。


『………』


「◇◇さん、一緒に星 見てくれば?」


『えっ!あ、いや…あの』


「ねっ」


『…うん』


ジェンくんはやっぱり色んなものに気づいている。


ジェンくんに背中を押されて、八神くんの元へ歩いていく。

ゆっくり瞬きをして、深く深呼吸をする八神くんに見とれてしまう。


「おっ、◇◇」


『こん、ばんは…』


「すっげー星綺麗に見えるよなー」


『あの、石田くんと…た、武之内さんは?』


「ん、あっち」


2人寄り添って夜空を指さして楽しそうに話している。

そっか、気遣ってここにいるんだ―


「ほんと、お似合いだよなー」


『武之内さんと、八神くんもお似合い…だと、思うよ』


「はは、空にはヤマトがいるからなー」






『…好きなのに』


「ん?」


『武之内さんのこと好きなのに…』


「えっ…」


『どうして、いつも3人でいるの?』


言っちゃダメって分かってるけど、口から言葉が途切れない。


『武之内さんは石田くんと付き合ってるのに、八神くん武之内さんのこと好きじゃない。なのに、どうして3人で仲良く…楽しそうに一緒にいるの?あの2人を…引き離そう、とか、思わないの?』


「そんな―」


『2人に…優しく接する意味が分からない』


「っ、◇◇が…俺たちに口出すな」


強い口調で言い返されて、ようやく、はっとした。

何て事を口走ってしまったんだろう…言っては、いけないことを。八神くんを傷つけることを。


『わ…たし、ごめんなさい…』


「お、俺も…悪かった。◇◇なりに、俺の…気持ちを、考えてくれたんだよな」


困ったように笑って、頭をなでてくれる。

本当に、本当に、優しい人だから―


『私から見て…ツラいって思ったの。八神くん…武之内さんのこと好きなのに、ただ何も言わず傍にいて…八神くんはそれで良いの…?』


「ん…そっか、◇◇にはそう見えてたんだ。」


八神くんを見てきたから。好きで、ずっと見ていたから。

ジェンくんも言っていたように、私も好きな人には幸せでいてほしいから。


「でも、俺さ…空にフラれたんだよ」


∞15/03/12
ALICE+