甘くはありませんが
「行ってきますのちゅーも無ければ、ご飯?お風呂?それとも私?も無い!何でだ?!!」
『そんなの私に求めないでよ』
太一は帰ってくるや否や、玄関で意味の分からないことを叫ぶ。とりあえずカバンと上着を受け取って、そそくさとリビングに戻った。
「新婚生活がこんなにもしょっぱいなんて…」
『意外と、どこもこういうものじゃないの?』
「結婚前の方がイチャイチャしてた…」
ソファになだれ込んで、しくしくと泣く素振りを見せる。
『もう、ちゃんとスーツ脱いでよ。しわになるじゃない』
テーブルにご飯を用意して、太一の元へ行く。
『ねぇってば』
「………ん」
それだけ言って、こちらに手を伸ばしてくる。
『なに』
「脱がして」
『はぁー…子どもじゃないんだから』
「じゃあしわくちゃにして、○○の仕事増やしてやる」
『………何でこんな人と結婚したんだろ』
「選ばれし子どもたち、っていう運命の赤い糸がー」
まーた、うんたらかんたら話し出した。めんどうだ。
『はいはい、分かったから。シャツ脱がすから、手をどけて』
「はーい」
ソファに仰向けになった太一のシャツを脱がしていく。あー、ボタン外すの面倒くさい。
「なあ、○○」
『自分で脱ぐ気になった?』
「んー…いや」
『?』
「○○、愛してる」
最後のボタンまで外し終わったのを見て、太一はその言葉を口にした。
『い、いきなり、なによ』
「おれ…○○と結婚出来て、本当に良かった。幸せだ」
起き上がった太一のシャツを脱がしながら、その言葉を聞いていたけれど、とてもくすぐったい。
好き、から、愛してるに言葉が変わったのは…いつ頃からだろう。
「○○」
名前を呼ばれて視線を合わせれば、頭を撫でられ、そのまま甘いキスが降ってきた。
『…ご飯、冷めるから早く食べてよね』
「えー、ズボンは脱がせてくれないの?」
『じ、自分で脱ぎなさい!!!』
甘い雰囲気に恥ずかしくなって、ツンツンしてしまった。でも、まだ始まったばかり。これから、もっと甘い言葉を囁きあって、幸せな家庭を作ろうー。
「○○、愛してる」
『…わ、私も、太一のこと、愛してるよ』
甘くはありませんが、幸せです。
∞2016/02/17
ALICE+