日誌と保健室1


#ac1_total#
※八神先生 - 続きの2と3は裏を含むのでご注意を




「じゃあ日直は日誌書き終わったら職員室来てくれ」


『あ、はい!』


放課後に一人で日誌を書き込む。今日一日の出来事を思い出しながら、近くなるテストを不安に思いながら。

担任の八神先生の顔を思い出しつつ―


『前に日直だったのはいつだっけ…』


パラパラと日誌を遡っていくと、見覚えのある自分の名前と記録。そして、隅っこに薄く小さく書いた「好きです」という文字。記録に対してはみんなと同じように八神先生のコメントが書かれているが、その文字は気づかなかったのか、気づいていて反応しなかったのか…―

私は八神先生のことが好きだ。いつも生徒のことを1番に考えてくれて、明るく優しい。誰でも好きになってしまう素敵な人。だから、私もそう。どうせ先生と生徒の関係だし、八神先生を好きな人の中には私より可愛い子、性格の良い子は山ほどいる。

ちょっとしたアピール…というか。先生と生徒として接するんじゃなくて、ふつうとは違う特別な反応を見たかった。何というか、丸を付けてくれたり、冗談っぽく「はいはい」とか書いてくれたり…それだけでも良かった。

でも無反応で、やっぱり私はいち生徒だったんだと改めて思わされた。

それが当然のことだけれど。


『無謀だよねー…分かってるけど。ふつうに、恋しよう…。』


書き終わった日誌を持って職員室へ向かう。


『失礼します、あの、八神先生は―』


「んー八神先生ならさっき試験問題作る前に一眠りしてくるって保健室に行ったわよ。校医の先生がもう帰ったから盛大にイビキかいてきます!って」


『そうですか…ありがとうございます』


職員室の先生に日誌を預けようかと思ったけど、直接渡した方が良いし、寝てるなら近くに置いてから帰ろうと保健室へ向かう。


『失礼しまーす…』


ゆっくりとドアを開けると一番奥のベッドのカーテンが閉じられていた。微かに寝息が聞こえ、たぶん…八神先生がいることが分かる。でも自信がない。もしも人違いだったら日誌紛失として怒られる…かも。


『やがみせんせー…◇◇です、あの…日誌を―』


小声でこっそり覗けば大丈夫だろうと、カーテンに手をかけて首を傾けると―


「よっ」


『!! え、あ、あの―』


寝転んでこっちを見る八神先生とバッチリ目があってしまった。

もしかしたら八神先生じゃないかも、八神先生だとしても寝息が聞こえたから寝ているだろうと思っていたのに、何がなんだか分からなくなって、すぐに言葉が出てこない。とりあえず八神先生だと分かったから、要件はカーテンごしに言おうと一歩下がる。


「ん?どうした?」


体を起こした八神先生がカーテンを開けて私を見る。


『あ、の…日誌を届けに!来た…ん、です、けど』


「あー日誌な!ごめんな、職員室いなくて」


『いえ、お休みのところすみません、そこの机に置いておきますね…』


「今見るから貸して」


『いま、ですか?』


八神先生に日誌を渡そうとベッドの脇まで行くと、腕をグッと掴まれた。ビックリして固まっているとカーテンは閉じられて、このカーテンで囲まれた空間に八神先生と私が留まることになった。


『あの、八神先生…えっと―』


「◇◇は俺のこと好きなの?」


『え!?』


顔が燃えるようだ。私の手から日誌を取って、「好きです」と書いたページを見せられる。


「これ、そういう意味だろ?」


いつもの、クラスのみんなに向ける笑顔で聞かれて、どういう意図が含まれているのか分からない。


『あ、の………っ』


どう返事をしたら良いのか。

ふざけて書いたわけじゃないんです。本気なんです、でも、叶わない恋だし…。それでも私の気持ちを知ってほしかった、と言うか、迷惑なのは分かっているんですけど、何ていうか―

言わなきゃいけない言葉が頭の中では文になっているのに、言葉にならない。八神先生の視線が向けられていることも、その原因だ。


「俺のこと、好き?」


改めて言葉にされ、心臓がドクドクと鳴る。拒否されるのではないかという恐怖心もある。そもそも、拒否しか…ありえない、話だ。


∞2015/08/22
ALICE+