Feel


『ねえ、太一、大好き』


「おう、俺も○○が好きだよ?」


『なら、付き合おうよ』


「ん、いつか、な」


そうやって、何回目だっけ?
私は太一がずっと好き。でも太一はずっと空が好き。ヤマトと付き合ってからも、ずっと太一は空が好き。
分かってるけど、私だって太一が好きだから、こうやって気持ちを伝えるの。でも軽く流される。たぶん、お互い分かっている。好きがどういう意味かを、でも対応のしかたが分からないから、思い切り投げて、ゆっくり投げ返す、そんな親子のキャッチボールみたいなことを何回も繰り返している。


『私じゃ ダメ?』


「そうじゃない」


『じゃあ どうして? 好き、太一』


「うん…ありがとう」


早く諦めてよ。絶対に、空はヤマトと添い遂げる。女の、私の勘。無謀、意味無い、片思い。そんなの止めてよ。私がいるじゃん。


『私が、いるじゃん』


思いが言葉じゃ伝わらないなら、口を通じて伝われば良い。太一の頬に手を添えて、口を合わせる。心のなかで 好き 好き 好き と言いながら。息継ぎの時も、舌の感触に溶けそうになっても、心のなかで 好き と言い続けた。


これで、少しは私に心が向く。そんな希望と自信があった。


思う存分したから、離れた。少し恥ずかしかったから、目を閉じて、息を吸って、吐いて、太一の目を見た。


太一はいつものように、へらっと笑った。


息が止まった。心臓が抉られる感覚がした。
どうして、そんな、顔ができるの?何も、今ので…何も変わらないの?

どうしても越えられない、壊せもしない、壁がある。いや、分かっていたけど、もしも、を信じてた。唇を受け入れてくれたから。


「…○○?」


太一の声が鼓膜を震わせて、少し巡って、脳と心を震わせて、泣くのを堪えて、手を伸ばす。


ダメで良いや、元からダメだもん。
それなら、嫌われるのを覚悟で一線を越える。私が越えるの。私から越えるの。どれだけ私が好きかを伝えるの。どんなことをしても、受け入れてくれるでしょ?


∞ 15/07/18
ALICE+