8
もう一度「初めまして」から始まる僕たちの関係。
『タケルくんもデジタルワールド行ったことあるんだ』
「うん、パートナーはパタモンだよ」
『あ!あの耳でパタパタ飛ぶ可愛いデジモンね!!!』
まわりのみんなは「いつか思い出す」からと、僕がずっと側にいたことを言わない。
言ったら○○ちゃんが混乱するし、「いつか思い出す」のだから、大丈夫だと。
僕も、そう思えるように接することにした。
これはちょっとした遊びなんだ。
○○ちゃんに、もう一度…僕を好きになってもらうための。
「タケルは○○と一緒のクラスなんだぞ」
『え、そうなの?わたしクラスメイトは全員覚えているつもりだったけど…』
「…これから、仲良くしてね」
『こちらこそ!どうぞどうぞよろしく〜』
僕のことを忘れても○○ちゃんは変わらない。明るくて優しい笑顔。
「○○ちゃん」
『ん?』
「…何でもないよ」
『?』
僕を見て。好きと言って。
「じゃあ明日学校でな」
『はーい。みなさん気を付けて!』
しばらく話をしてから、帰ることになった。元気そうな○○ちゃんに安心して、それぞれが笑顔で帰って行った。
「タケルさん」
「ん?」
「○○さんに、その…言わないんですか?」
「…あ、えーっと…付き合ってる、こと?」
「はい。ようやく思いが通じ合ったのに、忘れてしまうなんて…」
「大丈夫だよ。いつかきっと…僕のこと思い出してくれるから」
「でも、もしも…もしもですよ、○○さんが他の人を好きになってしまったら―」
○○ちゃんに限って、そんなことはない。だって、僕を選んでくれたんだから。もう一度やり直しても、僕を好きになってくれる。自信がある。
「○○ちゃんは僕のだよ?これらもずっと」
そんな独占欲丸出しの僕の言葉に、伊織くんは苦笑いをした。
「タケルー○○ー帰ろうぜ」
『太一さん?!』
○○ちゃんの家に行った日から休みが明けて、僕たちは教室で顔を合わせた。
「はじめまして」から始めて学校で会ったことになる。ただ、特に話すこともなく、僕は一人で過ごし、○○ちゃんは仲のいい女の子たちと過ごした。
僕と○○ちゃんが付き合っていることを知っているのは選ばれし子どもたちだけなので、僕たちが距離をとっても、誰も不思議に思わない。そんな、始まりの日の放課後に珍しく、僕らの教室に太一さんがやってきた。
『どうしたんですか?わざわざ中等部のこっちにくるなんて…』
「たまには一緒に帰ろうぜ、な!」
○○ちゃんは不思議な顔をしつつも、帰り支度を始める。それを見た太一さんは僕のところにやってきた。
「光子郎になるべくタケルに関わりのある話をしろって言われたんだ。あの日の冒険に確かにタケルがいたことを思い出させるためにな」
「はあ…」
「とうぶんはデータを解析するのに時間がかかるらしいから、帰り道にでも昔話をして、懐かしんで、ふと思い出すかもしれないだろ?」
そう簡単にいかないことはみんな分かっているけれども、○○ちゃんと、僕のためを思って行動してくれていることは分かる。
「○○、帰ろうぜ」
『はい…!』
教室を出ていく太一さんを追いかける○○ちゃんを見て、まばたきをし、僕も追って教室を出た。
∞2015/10/03
ALICE+