9


「一緒に帰るの久しぶりだな〜」


『そうですね。小学校のころよくヒカリちゃんと3人で帰ってましたし』


「そうだったなー」


○○ちゃんを間に挟んで、僕と太一さん。この場合太一さんが真ん中のほうが…と思いつつ、隣を歩いてくれる○○ちゃんを横目で見る。


『懐かしいな…ふふ』


歩く足元に目線を落として、嬉しそうに微笑む。

僕はその表情を見て、………。


『っ、わぁ!!!』


嫌な感情を押し殺そうとした瞬間、○○ちゃんがこけて前に転びそうになった。とっさに、あの時のように、手を伸ばした―だけど、やっぱり…僕の手は届かなかった。


「○○!…おっとー、危ないなー。ちゃんと前見て歩けって」


『あ…、ええ、っと!あの!ちゃんと、あ、足元見てた…のに』


「そういうことじゃないだろ。ったく、○○はしっかりしてるようで、してないんだから」


『っ…助けてくれて、ありがとうございます…はい』


太一さんがいつもの明るい笑顔で○○ちゃんの頭を撫でる。

あの日の冒険でも、こういう場面はあった。あの頃は太一さんから頭を撫でられると、○○ちゃんも太一さんにしゃがんでと言い、太一さんの頭を撫で返してあげていた。

それが今では、照れているように見える。

余計に嫌な感情があふれ出るから、やめて。


そのまま僕は2人と別れるまで無言で歩いた。頑張って笑って、また明日と言う。





「ターケールーくーん!!!」


「うっさいんだけど」


「おいおいおい、せっかく来てやったんだからそんな顔すんなよー」


昼休み、隣のクラスの大輔くんが珍しくやってきた。


「太一さんから聞いたぜ、○○ちゃんのこと。さっき、しれーっとタケルが小学校に転校して来た日のこと聞いたら、やっぱり―」


「………」


「…うん、はい、わざわざ俺が言うことじゃ、ないですよねー…」


たぶん、いま僕は相当人相が悪いと思う。
別に昨日のことなんか気にしていない。だって太一さんの笑顔は素敵だ。
女子はもちろん、男も惚れるカリスマだ。たとえ、昔、○○ちゃんが太一さんを好きだったとはいえ、現に付き合っているのは、僕だ。
まあ、厳密にいうと、停滞期って…いうか。
でもでもでも!!!
彼女がほかの男にさ、よりにもよって、太一さんにさ、あんな表情するのはさ、いただけないよね。


「だからと言って、僕の記憶がないのに何言っても仕方ないし、変な目で見られて避けられるのは目に見えてるし…うぅ、もぉおおお!!!!!」


「どどどどどうしたんだタケル?!!」


「あー…○○ちゃん。イライラするよ」


「い、いまにも襲いそうな目だ…や、やめろよ、タケル?○○ちゃんに嫌われるぞ?」


ほかの男なら瞬殺するからまだしも、相手が太一さんだと…勝てる気が、しないんだ。


お願いだから、早く、思い出してよ…○○ちゃん。


∞2015/11/21
ALICE+