33
「忘れちゃ、いけなかったんだ…」
俺の目の前でボロボロと泣きじゃくるウィザーモン。どれほど、ツラかっただろうか。愛した人が目の前から永遠に消える瞬間を見て、絶望して―。
幸せな記憶を思い出すのが、死ぬほどツラい、だから全部忘れよう。俺も同じ状況ならそう思うはずだ。
「その人と過ごした日々全部が思い出なんだ。出会ってから…最後まで。たとえ忘れたとしても、無かったことにはならない。もう…二度と、会えない…けど、今でも愛しいと…この花を渡したいと思うだろう?」
「…うん、この花を…渡して、笑ってほしい…あの頃のように―」
泣きながら微笑むウィザーモンに、心が軋んだ。思いあうって、素敵だ。タケルと…○○ちゃんも、そうだ。
「ウィザーモン…俺の友達がな、ファントモンが持っていたお前の記憶に影響を受けたんだ。少し、記憶が消えちまって―。だから…」
「…そっか。…思い出すよ、全部。思い出したい」
ファントモンと向き合って立ち上がったウィザーモンが泣くのをやめた。
「迷惑かけて、ごめん…。全部…思い出したい、この花を、また―」
「うん、一緒にいくよ…花を渡しに」
ファントモンのマントから光が一つ出てきて、ウィザーモンの頭の上ではじけた。
「これで…大丈夫かしら」
「大丈夫でしょう…いまパソコンで見たら、あのエリアの天候が落ち着いたみたいです」
ウィザーモンとファントモンは俺たちに頭を下げ、まだ悲しい表情だったけど、「ありがとう」と言って、キャンドモンの村に帰ると去っていった。
「○○ちゃんの記憶…戻ったのかな」
早くタケルのことを思い出してほしい。笑いあう二人を見たい。太一先輩には、悪いけど。俺も悪いことをした。○○ちゃんが思うなら、太一先輩を思うなら、と。でも、やっぱり二人は一緒にいるべきなんだ。
「どうでしょう、とりあえずリアルワールドに戻って確認しましょう」
「まだ買い足りないけど、もう荷物持てない…」
アイルの両手には買い物袋。そして、僕の手にも。どんだけ買うんだ、と呆れてしまう。
「とりあえずは満足したし、タケル先輩ともデート出来たからよし!!!」
ただの荷物持ちだったのがデートというのなら不思議だ。でも、この子がひたすら話しかけてくれて、常に笑顔だったのには…救われた感じがした。色々と嫌なことを思い出す暇もないほど、あっという間に一日が終わった。
「あんまり無駄遣いしないようにね」
「はーい!タケル先輩、次はいつデートしますか?」
「もう次の予定?」
「もちろんですよ〜また可愛いものいっぱい買いたいですし!」
笑顔で横にぴったりくっついてきた。歩きづらいと思いつつも、まあいいかと自然と顔がほころんだ。
「あっ!いまタケル先輩笑いましたね!!!」
「…そう?」
「タケル先輩のことロックオンしてからずーっと見ていたんですけど、笑うのはものすっごい久しぶりですよ?」
そう…なのか。ずっと笑っていなかったのか。
この子は、良いきっかけなのかもしれない。ようやく、忘れられそうだ。
「ふふふっ…あっ」
ニコニコ歩いていたアイルが何かに気づいたようだ。
「あれって、高等部の先輩ですよね?クラスでも格好いいって人気の人だけど、誰だったっけ?」
最悪だ。
とても最悪だ。
「たぶん帰るの同じ方向ですよね、こっち向かってくるし!挨拶してみよーっと!」
太一さんと、○○ちゃん。仲睦まじく、手をつないでいる。楽しそうに話しながら、こちらに向かってくる。
あ、心臓が苦しい。見たくない、見たくない。
「あっ、タケル…?」
太一さんがこちらに気づいた。○○ちゃんの視線もこちらに向いた。
「………アイル」
「はーいっ、」
両手をふさぐ荷物を全部地面に落として、アイルの頬を掴んでキスをした。二人に、見せつけるように。
「!」
『っ、タケルくん…?え、どう…して』
○○ちゃんの声が聞こえた。
僕の名前を呼ぶ声が、あの頃の声と…同じだった。
∞2020/03/08
ALICE+