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「あっ、タケル…?」


その声に気づいた瞬間、目の前で光がはじけた。

瞬きをする度に、思い出が…大好きな人との時間を、思い出した。


『っ、タケルくん…?え、どう…して』


自分の声が、とんでもなく情けなく聞こえた。


忘れていたのを、思い出した。
確か、あの日。デジタルワールドに行って、それで、ファントモンが目の前に飛んできて―タケルくんの記憶だけが消えたんだ。私は大好きな人を忘れて、思い出すことも出来なくて、それで、そのまま―。


「タケル…彼女出来たのか」


『っ、!』


「…○○?」


繋がれていた手を、思い切り振り払った。涙が溢れる、心臓がドクドクと音をたてる。私は何てことをしてしまったんだろう。

どうして、この人は―。


『太一さん、どうして…? 私は…』


ボロボロ涙を流す私を見て、太一さんは一瞬驚いた表情をした。

そして悲しそうに笑って、「ごめんな」とだけ言った。


どうしたらいいのか分からなかった。タケルくんは、先日教室に来ていた女の子とキスをしている。私が、タケルくんのことを忘れてしまったから、太一さんと…付き合うことになったから、私たちは、もう―。


その場から逃げる以外の方法なんて無かった。







目を開けると、顔を真っ赤にしたアイルの表情。

見せつけたかった二人に目をやると、○○ちゃんが太一さんから離れており、急に走り出して行ってしまった。どうしたんだろう…何で、太一さんは○○ちゃんを追い掛けないんだ。


「た、タケル先輩…?」


「…ごめんね。帰ろう」


ケンカをするような二人ではないはずだ。だってあんなに仲睦まじくいたんだ。きっと忘れものでもとりに行ったんだろう。

見せつけてやった、僕はもう忘れたから、好きにすればいいと―。


ああ、どうしてこんなに心が痛いんだろう。アイルに申し訳ないことをしたからでもある。でも、それよりもっと…大きな理由があるのは分かっているけど、もうあの子のことは忘れたんだから、いいんだ。

もう、いいんだよ。

∞2020/03/20
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