「サダハルくんと私、どっちが大切なの!?」って比べた結末

どんなに頑張っても蓮二の親友はサダハルくんで、2人は私以上に見えない絆で繋がっていることが悔しくて。

「そんなにサダハルくんが大切ならサダハルくんの所に行っちゃえ!!」って言ったら。

「そうか。分かった」って言われちゃう。

『そうか。分かった』って何が!?

サダハルくんのところに行くことが!?そりゃあそれを先に言ったのは私だけど「分かった」なんて言われると思ってもいなかった。


……ううん、ちがう。
思ってもいなかったんじゃなくて、思いたくなかったんだ。

だって私は蓮二に「俺はお前が一番だ」とか「サダハルよりお前が大切だ」とか、サダハルくんより私を選んで欲しかったんだ……


蓮二の口から良く名前が出てくる男の子。


サダハルくん。


名字も漢字も分からない。

蓮二が良く「サダハル」とか「博士」とか呼んでいるから、名前とあだ名は覚えた。

サダハルくんは蓮二の親友で、小学生の頃テニスでダブルスを組んでいて、とても強かった、らしい。
お互い「教授」「博士」と呼び合っており、小学生の頃、蓮二の引越しで一時は仲違いをしていたが、つい最近の大会で出会い誤解が解けた、らしい。
 
と、私が知っていることは、それくらい。

あ、あとは基本情報で都内の青春学園中等部3年生、テニス部で蓮二と話が合うくらい頭が良いことぐらい。

あと知っていることは、サダハルくんと蓮二は学校こそ違えど大の仲良しだってこと。

そう。

彼女の私以上に。

まさか私が『私と親友どっちが大切なの!?』と聞くときが来るとは思わなかった。

そんなこと言う女は馬鹿だと思っていた。
彼女も親友もジャンルが違うから比べようもないだろう、と。

それなのに私は、私と親友どっちが大切なの!?と比べようもない2つを天秤に掛けてしまった。

何とも情け無い話である。

自分で分かっている。嫉妬だ。

私は会ったことも話したことも見たこともない、サダハルくんに嫉妬したのだ。

何とも惨めである。

サダハルくんも困惑だろう。会ったこともない、もしかしたら蓮二が私の存在をサダハルくんに言ってなければ、サダハルくんは存在すら知らない女に嫉妬されたのだから。

蓮二の話を聞く限り、あまり怒らなそうな、何なら蓮二が黙って引越しても恨み言一つも言わなかった男の子だ。何となく、理不尽に嫉妬しても許してくれそうな気配は感じる。

まぁ、会ったことはないので定かではないが。

だから、これは、理不尽に嫉妬して、蓮二に八つ当たりした罰、なんだろうな。

その結果が、蓮二は私を選ばなかった。

「そうか。分かった」の言い方は、そう返事をするのが当たり前のような。考える素振りもせず淡々と受け入れ、返事をした蓮二を思いかえす。

あぁ、私はサダハルくんに負けたのだ。いや、負けよりもっと惨めな、天秤に掛ける程でもないような、土俵にすら上がれなかったような……

選ばれないことがこんなにも苦しいなんて知らなかった。

小学生の頃から親友のサダハルくんと、私。

比べるまでもない、ってことだよね。
蓮二がサダハルくんの話ばかりするから嫉妬して。
今度の土日は蓮二に会いたかったのに蓮二はサダハルくんと出かけるみたいで悔しくて……

何でこんなことになっちゃったんだろう。

私が我慢すれば良かったのかな。
うん。それはきっとそう。
つまらない嫉妬なんかしないで笑顔でうんうんって頷いてサダハルくんと蓮二って本当に仲良いね!って物分かりの良い彼女を演じて。

そうすれば、こんなことで傷付くこともなかったのに。

じわり。

目に涙が浮かぶ。

で、でも!!!彼女より親友を取る蓮二だって悪くない?!ただでさえ蓮二は部活で忙しいから、少しでも彼女のために時間を作ってくれたっていいんじゃない?………って考えて、私はあれ?とひとつ疑問が湧き上がる。


あれ、もしかして、付き合ってる。って思ってたのって私だけ……?
……あれれ?蓮二に告白されたよね、私?

蓮二に「好きだ」って言われて嬉しくて「わ、私も好きでした!」って答えたら「……でした?過去形か?」って言われて慌てて否定したんだった。それで、そのあと……

そのあと、どうした?

『付き合おう』って私から言った?
ううん、私は言ってない。

それなら蓮二が『付き合おう』って言った?
…………ううん、言って、ない……

…………えっ!!!??う、うそでしょ!!!!???私たち付き合ってない!!?お互いが好きって確認しただけ!!!?つまり!!私と蓮二は付き合ってない!!!!

疑問がひとつ解決して、私は天を仰いだ。
 
あ〜……、ただでさえ『私と親友どっちが大切なの!?』って言われて『うざっ』て思うのに、彼女ですらない私が言ったんじゃ、そりゃあ「分かった」って返事になるよなぁ〜…………

あ〜……なんか

「どうでも良くなってきた」

まだ蓮二、いや、これからは柳くんと呼ぼう。「これからは蓮二と呼んでくれ」と柳くんに言われたが、彼女でもない私が蓮二など呼ぶのは烏滸がましい。

よし。
柳くんのことは今でも好き。だけど、唯一無二の親友、サダハルくんに勝てる気がしないから、別れよう。

いや、別れようも何も付き合ってすらいないんだけど。

この場合は距離を置こう、か。
まず連絡頻度を減らして、会う回数も減らそう。

そこから徐々にフェードアウトしていけば大丈夫だろう。

なんてったってウチはマンモス高校だ。そして学校の敷地面積もかなり広い。クラスに探しに来たとしても見つからないときがあるくらい広い。

距離を置く、というよりこれでは避けてると言った方が正しいが……

まぁ、柳くんも彼女面してる女がいなくなって清清するだろうな。

よし。
そうと決まれば今日は家に帰ったらゆっくり漫画でも読もうかな。

柳くんと付き合うから少しでも勉強して頭良くなろう!とか、柳くんと釣り合う女になるために肌の手入れをして、マッサージをして綺麗でいよう!とか手の抜けない日々だったもんな……

これからそういうことしなくて良いってこと!?って思ったら肩がフッと軽くなって、あぁ、私、ムリしてたんだなぁ〜、今度は自分の背丈に合う恋愛をしよう。

そう意気込んで、私は一歩踏み出した。






次の日、柳くんと会うことはなかった。

その次の日も、また次の日もそのまた次の日も柳くんとは会わずに時間は過ぎていく。

たまに柳くんから連絡が来るがそれすらも半日、1日以上時間を置いて返す。

今までは柳くんからの連絡に直ぐ返していたが。今思えばそれすらもうざかったのかもしれない、とネガティブが顔を出す。









「さっき柳が来たぞ」

私に声をかけたのは同じクラスのジャッカルくん。

「ふ〜ん、ジャッカルくんに用事?」
「いや、俺じゃなくてだな…」
「そうなんだ、じゃあ何で来たんだろうね」
「何でって……」

ジャッカルくんのその後の言葉はチャイムの音で掻き消された。

「あ、チャイム鳴ったから席戻るね」
「あ、あぁ…」

ジャッカルくんの戸惑いの声を背中で聞きつつ、私は顔に力を入れる。

『お前ら付き合ってるんじゃないのか?』

チャイムの音よ。もっと大きく鳴らして、ジャッカルくんの声をちゃんと掻き消してよ。

席に着くと『付き合ってるんじゃないのか?』ジャッカルくんの声が脳を揺さぶる。

私だって、数日前まで付き合ってるって思ってたよ。

でも違ったんだ。

確かに私たちは両思いだけど『お付き合い』はしてなくて。その証拠に土日の休みは彼女ですらない、友達とも言えない微妙な関係の私より、親友のサダハルくんを柳くんは選んで。

付き合ってると馬鹿みたいに有頂天になっていたのは私だけ。

あ〜、やだやだ。

ズルズルと引きずっている。

付き合っていない、と分かった日は肌や髪の手入れもマッサージもせずゆっくりと寝た。

次の日も何もしないと決めていたのに、いつの間にか習慣化してしったのか、結局肌も髪も手入れを念入りにしてしまった。

勉強だってそう。宿題だけやればいいや。と思っていたのに結局、次の授業の予習。そして今日の授業の復習をしていた。

あぁ、私って真面目なのか。
それとも今までの習慣が体に染み付いてしまっているのか。

それとも。

「良く出来たな」

と、柳くんに褒められたくて

「お前はいつも肌や髪が綺麗だな」

と、言われたくて。

付き合っていないのに、動機は不純なのに、結局柳くんのために私は生きている。

そのことに会えない数日で気付かされてしまった。だけど、柳くんは私なんて居なくても生きていけるだろう。

それこそ、サダハルくんが居なくなった方が柳くんは生きていけなさそうだ。

私は二の次、三の次。

中途半端な関係に終止符を打ちたいのに、私の心はズルズルと柳くんを引き摺る。

今の授業が国語で良かった。
国語はお爺ちゃん先生で、あまり目が良くないから。
だから、私が泣きそうな顔をしているのもバレることはない。










「漸く見つけた」

久しぶりに柳くんの声を聞いたのは、月曜日の昼休み。 

屋上でのんびり空を見ていたときだ。

久しぶりに見た柳くんは、どこか疲れているような顔だった。普段はないのに、目の下に薄らと青クマが出来ていた。

サダハルくんとの遊び疲れかな?

土日はサダハルくんと遊んでいたはずだ。やはり男の子が集まると楽しいのだろう。

「連絡をしてのだが、何故返さない?」
「連絡……?あっ、ごめん忘れてた」

そうだ、金曜日に『話がある』って連絡があったんだ。だけどそれをチラッと見て、後で返そうと思って、忘れていた。

「忘れていた?……今まではすぐに返信をしていただろう。やはり、喧嘩したことを怒っているのか?」

喧嘩、と柳くんは言ってくれたけど喧嘩ではない。

あれは、私が勝手に怒って拗ねて嫉妬してみっともない真似をしただけだ。だから

「ううん、怒ってないよ」
「それなら何故」
「柳くんは何も悪くないよ」
「……は?」

地を這うような、低い声にびっくりする。

「すまない。今何と言った?」
「だから、何も悪くないって」
「違う、その前だ」
「その前……?怒ってないよ?」
「その後だ」

その前とかその後とか、よく分からない。

ん〜と、私が言ったのは

「柳くん?」

と言えば、息を呑む音がした。

「柳くんどうしたの?」

と、心配すれば柳くんの口は開いたり閉じたり。柳くんにしては珍しく何と言えば良いのか
分からないような素振りをしていて。

そんなタイミングでチャイムの音が鳴る。

次の授業は音楽で、音楽室に行かなければならないことを思い出し「あっ、私もう行くね!」と、何かを言いかけた柳くんの横を通り過ぎる。

音楽の教科書も教室だから早く戻らなければ!と考えながら屋上のドアに手を掛けた。
「バイバイ、柳くん」と小さく呟いて。








届かないと思っていた呟きは、柳の耳に届いていた。

「俺は、とんでもない間違いをしたようだ…っ!」


だが、屋上で嘆く柳の声は誰にも届かない。







こうして、彼女との仲をやり直すために必死になる柳がこの後います。



2024.9.25

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