恋を自覚して、柳蓮二を避ける話

柳蓮二とは仲が良い。

休み時間はお互いの飼い猫の話をしたり、お互いの友達の話をしたり。
授業で分からないことがあって柳に聞けば丁寧に説明してくれる。

柳は知識が広く深いくて、柳の落ち着いた声は耳触りが良くて、ずっと聞いていたくなる。

だからなのか。
つい私は気がつけば友達に柳のことばかり話していた、らしい。らしい、というのは「あんたっていつも柳くんの話するよね」って友達に言われて初めて気がついたから。

だから「だって柳といると楽しいからね」って言ったら「それって柳くんのこと好きってことじゃないの?」って言われて。

周りにいた友達が便乗するかのように声を上げて。

「あ〜、それはW好きWってことだね」
「つまりW恋Wだね」
「ま〜、前から薄々気がついてたけどね」

い、いや!!そんなことないでしょ!!

と、そう否定出来なかったのは、私の顔が自分でも自覚するくらい熱くなっていたから。

今まで自覚がなかった。
柳のことがW好きWという自覚が。

でも、言われれば思い当たる節は幾つもあって。

だから、自覚してからが大変で。






次の日、教室に入れば一番に柳の後ろ姿を見つけてしまう。

大きくて広い背中。

今日もいるんだ、と昨日は何ともなかったのに、今日は勝手に心臓がバクバクと動き出す。

え、え、いつもの後ろ姿を見ただけなのにっ!?

顔がジワジワと熱くなっていく。
柳が教室にいることが嬉しくて、今日も見れたことに私の体は歓喜するように血液が暴れ出す。

 私の席は柳の斜め前。
 今までは「おはよう!」と挨拶していたのに。

「っ、はよ」
「ん、あぁ、おはよう」

 うわぁぁ、ぎこちない!
 今まで何で普通に挨拶出来てたの自分!!何で何ともなく話せていたの!!

 これは、不味い。
 こんな挙動不審の恋する乙女すぎる態度を見せたら柳に絶対気づかれる!!

 それだけは、不味い!!

 とにかく気持ちが落ち着くまで柳を避けよう。ごめん、柳!!

 心の中で謝って私は柳を避ける。




「おい」と柳に名前を呼ばれて話しかけようとすれば「ごめん!先生に呼び出されてるんだった!」と嘘をつき、また別の休み時間にはクラスの違う友達のところに顔を出し、柳との接触を避けた。



 避けて、避けて、避けて。




 ようやく放課後になって、柳は部活に行った。
 いつもは「部活がんばってね」って、声を掛けるけど、何も言えずに柳の広い背中を見送った。


 あーぁ、私今日感じ悪かったなぁ。

 はぁぁぁ。

 柳に解放された脱力と、今日の自分の態度が最悪すぎて、机に頬をぺたっと付けた。

 あー、明日からどうしよう……明日もこんな感じなのかな……柳のことを避けて……それは、イヤだなぁ。だってせっかく柳と仲良くなったのに。いつも休み時間に楽しい話をして、授業中は柳の好きそうな授業だな、とか、これはあとで教えてもらおうとか、そういえば昨日野良猫の写真を撮ったんだった。柳に見せてあげようとか、そんなことを考えて、休み時間に話して、1日があっという間に過ぎて行って。

 楽しかったなぁ、って。

 今日のことを振り返りながら帰るんだ。

 帰る途中も、綺麗な夕日だ。柳に見せてあげよう、って写真を撮ったり。この花綺麗だな、でも何て花だろう、柳は知ってるかな?とか、以前はここで猫集会が行われてたんだよな、柳ともし一緒に帰るときがあれば教えてあげよう、とか。

 一日中そんなことを考えて過ごして……って、私!!柳のことばかり考えてるじゃん!!!!って。

 うわ〜〜、私本当に柳に恋してるじゃん。って本当の意味で、自覚した。


 それにしても、今日の態度は本当に良くなかったな。

 柳にとっては今まで普通に仲良くしてた友達が急に避けるんだもん。
 嫌な思いをしたよね……

 うん、明日からはいつも通りになろう。いつも通りの友達。

 今は、友達で良い。
 だって、今日柳話せなくて楽しくなくて、寂しくて……

 変に告白して、今日みたいに話すことが出来なくなったら、私はそれこそ干からびしてしまう。

 きっとカラカラのミイラになって、柳を求める。
 そんな自分を想像して笑って。

「……はは、わたし、柳のことすごい好きじゃん……」

 誰もいない教室。

 外からは部活動に励む生徒の声。

 だから、私のポツリと呟いた声に反応する人はいないはずなのに。

「そういうのは本人の前で言って欲しいものだな」

 って、今日ずっと聞きたかった声が聞こえて、私の体は跳ね上がった。




「今日一日何で俺を避けていたか教えてもらおうか」

 教室の扉に立つジャージ姿の柳。

「あっ、いや、それは…」

 き、聞かれてたっ!どうしよう!!って逃げ場を思わず探すけど、腕を掴まれて逃げることは出来なくなった。

 掴まれた手のひらは熱くて。

 部活をしていたから熱いのか、それとも元々柳の体温が高いのか、初めて触られた私には分からなくて。

「や、やなぎ」
「教えてくれるな?」

 圧が、すごい。
 それに何か、近い。
 いつものパーソナルスペースより、ずっと近い。


「今日一日ずっとお前に避けられて俺は傷心でな」
「そ、それはごめん!」

 本当にごめん!と柳に謝れば「フッ」って笑った。

「許して欲しいか?」
「え、あ、うん」
「それなら、理由を。それと、先程呟いた言葉を俺に言えば許してやろう」
「うぇっ!?」
「『出来ない』なんて、お前は言わないよな」


 有無を言わさない圧に、あぁこれは言うしかないんだ……と絶望する。

 さっきようやく自覚した恋心を、ここで散らしてしまうんだ。

 短かったな、私の初恋。
 あぁ、こうなるなら恋なんて自覚しなければ良かった。
 今日柳を避けなければ良かった。そうすればもっとずっと。


「一緒にいれたかもしれないのに」

 ボソッと呟けば柳は「おい?」と言って。

 もう二度と柳の側にいられないのなら、いいや!明日のことなんかもう知らない!!

「私、柳の隣にいたかった!ずっと柳と話したくて、話しかけたくて、聞いて欲しくて、私のこともっと知って欲しいし、柳のこともっと知りたかった!」
「おい、何でさっきから過去形なんだ」
「うるさい!黙って!」
「あ、あぁ」

 私の圧に負けて柳は大人しく頷いた。

「だけど、もうムリだよ……柳のこと好きって自覚したら何話して良いか分からなくて、何なら顔を見るのも恥ずかしくて。今は、明日からもう柳と話せたくなるから、最後だからこうやって話せてるけど」
「おい、何か勘違いしてないか」

 柳は何か言ったけど、私の耳には届いてなくて「こんなことなら、柳の好きになるんじゃなかった」って、呟いたら掴まれた腕に痛みが走った。

「っ!?い、いたっ、柳!痛いっ!!」
「あ!あぁ、すまない!驚いて力が入ってしまった」

 そう言って痛みは引いたど相変わらず腕は掴んだまま。

 何で?どうして?って困惑する私に柳は「今日俺を避けていた理由は分かった。だが、俺が聞きたいのはそんな話じゃない」って言って。

 私は「え」って声を出す。

「過去形にするな。明日も明後日もこの先も、ずっと話すとしよう。そして、お前のことをもっと教えてくれ」
「え、なんで」
「何で、か」

 そう柳は呟いて「データ通りにいかないな」と困ったように笑った、と思ったら真剣な顔をして。

「言わせようとした俺が間違っていた」
「え、柳が間違えることってあるの?」
「……俺だって間違えることだってある」

 あ、また困った顔。今日はやけに表情が豊かだな。

 最後にたくさんの柳の表情が見れて、幸せだな。

 そう思っていたら柳は口を開いた。

「好きだ」

 柳の言葉に私は「え?」って信じられなくて聞き返せば「聞き返す確率88%……信じてもらうまで何度でも言ってやろう。だが、お前は次で信じるだろうけどな」ってまた、柳の口から「好きだ」と言われて。

 嬉しくて、さっき、幸せだな、って思った以上の多幸福感に襲われる。

「……柳、私ね」
「あぁ」
「私、柳のこと好きになって良かった」

 そう言ったら夕日に照らされた柳の顔が微笑んでいて、私はこの光景を一生忘れないんだろうな、って思った。




2024.9.25

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