私が丸井ブン太と付き合える可能性は0%らしい


「ねぇねぇ、柳。わたしがブン太と付き合える確率って何%?」


 下手な占いより当たる、柳蓮二の確率にわたしはわくわくしながら聞いた。





 ブン太のことを異性として好き、なわけではない。

 ブン太は小学校が一緒で、家も近所で良く遊んで、お菓子交換をする仲で、異性の中で一番気心が知れていて話しやすい、ただそれだけだ。




 だが最近、周りの友達みんな彼氏を作るようになった。その彼氏たちは同じ学校の人から他校、先輩、後輩と千差万別。

 いつの間にっ!?って驚けば「あんたも早くブン太くんと付き合いなよ」と。

 そこで何でブン太が?と首を傾げれば「幼馴染で仲良いんでしょ?」と。

 確かに仲は良い。だけど、そこでW付き合うWということを考えたことは一度もなくて。

 W付き合うWか……

 そう考えたときに何故かパッと浮かんだのが、ここ最近仲が良い同じクラスの柳で。


 柳は人を観察してデータを取ってパターンを分析するのが得意な男だ。

 同じクラスになってわたしは柳に絡んでばかりいる。

 絡むきっかけになったのは柳が「今日、お前が授業で当たる確率は85%だ」と声を掛けてきたこと。

「へっ?」
 
 って、間抜けな声を出したわたしに柳は眉を下げて笑って「予習しておいた方がいいぞ」と。

「分からないことがあれば教えよう」

 って、そのときはまだ柳のことを知らない時期で。それでも嘘をつくような人ではないだろうと判断して予習してたら分からないところがあって。
 本当に教えてくれるのかな?って期待せずに「ねぇねぇ、柳」
「ん、どうした?」
「ここ教えて」って言えば、思った以上に丁寧に解説してくれて。

 そんな面倒見の良さに感動して。

 そして本当に先生に当てられて。

 驚いて、感動して、柳を尊敬して。

 それ以来、わたしは柳に懐いて無駄絡みを初めた。

「ねぇねぇ、柳」って言えば「ん、どうした?」って答えてくれる、優しい声が心地良い。


 わたしがする質問は大体「次の授業わたしが当たる確率は何%?」とか「やばい、ねむい……わたしが、居眠りしない確率、何ぱーせんと?」とか「英語の宿題が出ない確率は何%」とか「明日の降水確率は何%?」とか。


 切羽詰まったものから、ふざけた質問までするわたしに柳は律儀に答えてくれて。

 そんな律儀さが嬉しくて、頼りになって、わたしは柳に話しかけてばかりいる。

 そのなかで「0%」という答えを今まで貰ったことはなくて。

 しかも、柳がわたしの質問に冷たい声で顔を背けて「0%だ」と言ったから。信じられなくて。
 


「えっ、うそでしょ…?」


 ショックを受ければ「俺のデータに寸分の狂いもない」って機械のように淡々と言ってくる。


 わたしは混乱した。


 ブン太とは異性としての好意はないけど仲が良いから、20%ぐらいは、まぁなくはないかなぁ、と思っていた。


 それなのに。0%って。
 だって0%だよ。
 好意がないってことだよ。
 それってつまりブン太がわたしのことを嫌いだってことなんじゃ……?付き合う付き合わない以前の問題なんじゃ……
 

 仲が良いと思っていた友達から、突然裏切られたようなショック。


 それと一緒に、胸が痛む理由のひとつに柳の態度が、いつもと違くて。


 いつも、穏やかで優しくて、ふざけた質問には小さく笑ってくれる柳。


 だけど、今はわたしを拒絶するような、怒ってるような、冷たい空気を醸し出す柳がそこにいて。


 なんで?どうして?と不安になる。
 ブン太のことより、今は目の前の柳の態度が気になって仕方がない。


 なんて声をかけよう、どうしよう。


 そう迷っていると「すまない」と柳は目線を下げたたまま言った。

 それは、何に対しての謝罪?と思えば「お前を不安にさせた」と。

「丸井はお前のことを嫌っていない」

 柳はハッキリ口にする。

「だから、不安になるな」とわたしを見ずに言葉を続けた。

「……うん」


 あぁ、良かった。ブン太に嫌われてるわけじゃなかった。
 

 うん。良かった、良かった、けど、まだ、良くないことがある。


 まだ、胸がじんじん痛くてそれでも「ねぇねぇ、やなぎ」と声を掛ければ、ようやく柳はわたしを見てくれた。


 さっきは顔を背けていたから。今度はちゃんとわたしを見てくれていて、それが嬉しくて。



 へらり、と笑えば息を呑む柳。



「丸井のことが、好きというわけでは、なさそうだな」って言われて「あ、うん。友達としては好きだけど」って言えば「そうか」と。


「お前と、付き合える確率が高い男を教えようか?」

 と、柳の声が、甘く囁いた。

「え、いるの?」
「あぁ、いるぞ」

 ゆっくり頷く柳にわたしは目をパチクリさせて「……まさか」と呟いた。

 一瞬だけ、目を細めた柳と目が合った、ような気がして。

 わたしはコソッと、呟いた。

「もしかして、仁王?」
「……………………」


 たっぷり黙った柳は切り捨てるように一言。




「仁王と付き合える確率は万に一つもない」
「え!そんなにっ!?去年仁王とクラスが一緒でイリュージョンした仲なの、に」と、言えば何やら柳からもくもくと黒いオーラが漂い始める。

「イリュージョン?俺はそんな話聞いていないな…………」
「あ、そういえば仁王が誰にも言うな、特にテニス部には、って口止めされてたんだった」
「なるほど。仁王は消滅した」
「消滅したの!?」
「した、と言うか、する」
「消滅するっ!!??」

 柳、どうしたんだろう。

 消滅した、とか、消滅する、とか。それほど仁王とわたしが付き合うことはあり得ないことなのだろうか……


「イリュージョンの件はあとで詳しく本人に聞くとして、お前は本当に丸井や仁王と付き合いたいのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど」
「だろうな」


 と、ため息をひとつ。


「あ、でもさっき柳が言ってた『付き合える確率が高い男』は知りたい!」

 そうだ、さっき柳は言っていた。

 『付き合える確率が高い男』と。つまり、わたしのことが好きで、つまり彼氏になってくれるであろう人!!

 何%だ、って柳は言ってないけど『確率が高い』って言ってくれている!!

「ねぇねぇ、柳」
「どうした?」
「その人のこと教えて?」

 お願い、と言えば柳は笑った。美しい笑みで。

「今、お前の目の前にいる」

 イマ、オマエノメノマエニイル


 ?、
 何かの呪文、かな。と瞬きをひとつする。


「呪文ではないな」と柳はたのしそうに笑って。


 聞き間違いかな?って思えば。


「聞き間違いではないな」って深く頷いて。



 え、だって、今、目の前にいるのって。
 目の前に、いるのは、柳しか、いなくて。
 …………それってつまり、そういうこと……?
 え、うそ、いや、柳はうそなんか吐かない。それならつまり本当ってことで。
 
 じわじわと顔が熱くなる。その暑さが頭まで昇って、ぼぅっとして、どうすればいいの?って柳に助けを求めるように見つめれば、柳は笑った。


「いつもみたいに聞けばいい」

 いつもみたいに、って。いつも、いつもはたしか。




「ねぇねぇ、やなぎ」
「ん、どうした?」
「わたしが柳と、付き合える確率って、何パーセント、ですか?」


 ブン太のことを聞いたときとは、全く違う。声が震えて、体が熱くて、涙が出そうで、胸が張り裂けそう。


 同じ質問なのに、相手を変えただけでこんなにも苦しくなるなんて知らなくて。


 それを教えた男は「敬語になるとは思わなかった」って笑って、今まで聞いたことがないパーセンテージをわたしに告げて、今日は2人の記念日になった——










おまけ


「去年、彼女とイリュージョンしたというのは本当か?俺のデータに存在しないのだが」

 参謀は詰め寄った。

「なんじゃ、もうバレちょったのか」
「と、いうことは本当なんだな」
「どうじゃったかの」

 と、誤魔化すが「……仁王」とそれはそれは怖い顔で睨まれる。


「……参謀の怖い顔、初めて見たぜよ」


 あー、こわいこわい、男の嫉妬ほど怖いものはない。しかも相手があの参謀だ。変に恨みを買うことはしたくない。

「ほんの1分じゃけな」
「…………」
「……いや、30秒じゃったかな」
「……仁王」

 ゾクッとするほど冷たい、嫉妬した瞳と目が合う。
 
 参謀がここまで感情を露わにしてくるのは珍しい。

 それだけ彼女にゾッコンということか……参謀に好かれるなんて、何とも運が悪……いや。何でもない、何でもない。だから睨むな、参謀よ。

 と、首を振りながら犯人さながら手を胸元まであげる。

 すると「イリュージョンしたということは細かな情報を得たということだな」と確信気味。

 満足気と言えば良いのか。
 先ほどの嫉妬はどこへやら。どこかきらきらとした表情で聞いてくる。


 こういうときの参謀に逆らったら己の弱点を容赦なく突いてくるだろう。

 流石参謀、ただでは起きない。

 ふぅ、とひとつ息を吐く。

 よくよく考えれば参謀は欲しいデータを、俺は参謀から逃げるため。
 お互いwin-winの関係だ。


 だから、すまん。参謀が怖いから、お前のデータを売る。

「で、何を聞きたいんじゃ?」


 と言えば参謀は悪どい顔をした。






 

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