だからクラスが隣になれことがすごく嬉しかった!
本当は同じクラスが良かったけど立海は膨大なクラス数だから、同じクラスになるのは奇跡みたいな確率で。
だから隣のクラスになれただけでもすごくハッピー!奇跡に近い奇跡!みたいな?
それに逆に同じクラスで同じ空気を毎日吸うなんて緊張しちゃうから、これくらいの距離感がちょうど良いかも!
それに私は毎日「赤也くんおはよう!」とか「今日もテニスがんばってね!」とか「赤也くん今日もかっこよかった!」とか1年のときからずっと声をかけているのだ。
おかげさまで赤也くんやテニス部の先輩たちにも認知されている。
だけど私が毎日声を掛けるからテニス部の先輩たちに揶揄われることもあるみたいで。
まぁ、テニス部の先輩たちは大人なのでクラスの男子みたいな「おい笑、呼ばれてるぞ笑」みたいな感じじゃなくて「赤也、応援されてるんだからちゃんと応えなきゃ」とか「切原くん、無視はいけませんよ」とか。
紳士的な対応をしてくれるから本当に助かる!
でも赤也くん的にはそれが不服みたい。
そのせいで「あんた、うぜぇよ」とか「はぁ!?潰すよ」とか先輩たちがいないところで言われたことあるけど、私には全く効かない。
だって。
「うざいのは愛の証明♡」
「赤也くんに潰されるなら本望♡」
って思ってるし、本気で赤也くんにそう言ったのだ。
するとドン引きするような表情と体の引き方をされて。
いやいや、赤也くんのこの前のテニスで全身が真っ赤になったときの方がみんな引いてたよ?
まぁ、私は引かなかったけど。
悪魔化?って先輩が言ってたけど赤也くんにピッタリじゃん。って思ったし。
何なら挑発的で好戦的でさらに好きになっちゃったけどね。
でも、怪我はしないでほしいなぁ。
って思っていれば「アンタ、正気?」と変な人を見るような目でそう聞いてきて。
うわー!ゾクゾクする!最高!!
私が男子だったらテニス部に入って毎日赤也くんに戦いを申し込みたい!
そしてコテンパンにやられたい!赤也くんからの怪我なら大歓迎!!
とか、そんな邪な思いを抱えていたのが悪かった。
いつも通り赤也くんに話しかけたら「俺に話かけんなよ」って言われて。
「でも私、赤也くんのこと大好きでファンだし!」
「は?ファンとか何それ」
「好きなら追いかけたいじゃん!」
って、言ったら。
「……俺はアンタのことキライ」
え?
何かの間違いかな、って赤也くんを見たらまた「キライ」って言われて。
ひゅっ、と喉の奥から変な音が漏れた。
どういうこと?って思っていれば赤也くんは立ち去ってしまって。
キライ、きらい、嫌い……?
ぐるぐるぐるぐる。
赤也くんの声で何度もその言葉が頭の中で再生されて、その度に胸が刺されるような痛みがして。
『うざい』とか『潰すよ』って言われても、全然気にならなかったのに。
怪我だって、もしさせられても笑っていられる自信あったのに。
『キライ』って言葉は私に致命傷を与えるには十分すぎて。
その日の夜は全然寝付けなくて、ようやく朝方寝れたと思ったら、赤也くんが『キライ』って、言ってきて。
「うわっ!!」
心臓をバクバクさせて、全身から汗かいて、はぁはぁと息を荒げて私は起きた。
夢、か。
いや、夢じゃない。
『キライ』って言われたのは、現実で。
息が浅くなる。
また、赤也くんに『キライ』って言われた……
そう思ったら私はもう……
その日から赤也くんを見ると心臓がバクバクと動いて、胸がズキズキと痛むようになって。
あれだけ大好きだったのに。
今は赤也くんのこと視界に入れたくなくて、赤也くんのクラスやテニスコートに近づけなくなった。
廊下から赤也くんの声が聞こえれば、さっ、と教室やトイレに逃げ込んでやり過ごす。
見つかったらどうしよう。
またキライって言われたらどうしようって。
そう思ったらドクドク心臓が動いて。
『キライ』は、だめだ。
私を拒絶する言葉は、ヘラヘラと受け流せる言葉ではなくて。
このままどうしようかな。
いや、どうするも何もないんだけど。
キライって言われた以上話しかけることも近づくこともしちゃいけない。
あー、この恋がこんな形で終わるなんてなぁ。
って、大きく溜息をついたとき。
「なぁ」
って、大好きな声が私の名前を呼んだ。
それだけなのに、背中からブワッと汗をかいて。心臓が口から出そうになって。
「っ、あ、赤也くん?」
久しぶりに見る彼は、ぶすっとした顔をしていて不機嫌そうに立っていた。
な、なんだろう?
私、何かやらかしたかな?
って。
逆に今までたくさん色々やらかしていたから心当たり多過ぎて。
でも、最近は近づいてないから何もないはずなのに。
「あんた、俺のファンやめたの?」
「え?」
「だーかーらー!何!あれだけ俺のこと追いかけ回しておいて、俺にもう飽きたってこと!?」
って、ズイズイと近づいてそう言われて。
「あ、飽きたわけじゃ」
「じゃあ何で俺んとこ来なねぇの?」
「そ、それは」
嫌いって、言ったからじゃん。
赤也くんが、私のこと嫌いって言ったくせに。
何で来ないの?とか、言ってくるの?
「……他に、好きなヤツ出来たとかじゃねーよな?」
「ち、がう」
「じゃあ何で?アンタ俺のファンなんでしょ?ファンなら追っかけ?ってやつしなきゃいけねぇんじゃねーの?」
赤也くんは顔を近づけて、大きな瞳でじぃっと責め立てるように言ってきて。
「追っかけ、したい、けど」
「うん」
「この前、き、らいって」
言ったから。
震える声でそう言えば赤也くんはびっくりした顔をして。
「はぁ!?俺いつもアンタに酷いこと言ってるのに凹たれず声掛けてくるじゃん!?」
あ、酷いこと言ってる自覚あったんだ。
それでも。
「き、らいは、や、だ」
キライと言われたらもう何もできなくなるのだ。
声を掛けることも近づくことも見ることも。
だって、私。
「赤也くんのこと、好きだから、好きに、なってほしい」
同じ"好き"でいたいのだ。
両思いになりたいの。
理由なく、毎日会える存在に私はなりたくて。
「……悪かったよ」
「え?」
「だから!その…!キライ、って言って」
ぷいっ、と斜め下を見ながら赤也くんはそう言って。
「別にアンタのことキライじゃないし、これからも追っかけ?ってやつしていいけど」
チラッ、チラッと私を見る。
赤也くんなりに気を使ってくれているのかな、って思った。
本人直々に、追っかけをして良いって認めてくれて嬉しくないわけがない。
でも。
「しない」
「はぁ!?」
「もう、やめる」
私がそういうと赤也くんの緑色した大きな瞳が開かれる。
「私、赤也くんのファンだけど、赤也くんの彼女になりたいから、だからもう追っかけはしない!」
このままズルズル赤也くんのことを追いかけても私はずっと赤也くんを諦めなれない。
それならいっそのことファンも好きもやめる。
そう決意したのに。
「じゃあ!俺の彼女になればこれからも俺のこと追いかけてくれんのかよ!?」
って、赤也くんほまさかの発言に私は一瞬止まる。
彼女になって追っかけする?
それは。
「そりゃあもちろん」
「じゃあなれよ、彼女」
「は?」
「これからも俺のことずっと追いかけてろよ」
な、にそれ。
追いかけてろよ、って。
「アンタがいないと調子狂うんだよ」
赤也くんはきっと"好き"の感情をまだ知らないんだと思う。
でも、赤也くんの顔が、耳が、恥ずかしそうに口元を隠した腕が、悪魔化じゃない赤で、薄く赤くなっていて。
無自覚だけどそれが何の感情なのか、私は分かっていて。
「赤也くん」
「ナニ?」
「好き」
って言えば「っ!?」って驚いて、更に顔を赤くして口をハクハクさせて。
「……俺はアンタのことキライじゃねぇよ」
って、素直じゃない彼の今のめいいっぱいの"好き"に、私は顔を綻ばせた──