保科さんに寝かしつけられる話

「また寝とる」

あぁ、大好きな人の声がする。

「ほんまよぅ寝とる」

ほっぺを、ツンと突かれて、うん、とか、んぅ、とか音を出す。

「起きとる?」

んぅ。

「寝とるな」

んぅ。

「はは、どっちなん?」

柔らかい声に私はまた微睡んでしまう。

あぁ、ねむい。ねむくてねむくて仕方がないけど、こんなに眠いのって、もしかして私だけ?何かおかしいのかなって思うくらい。いや、社会人にとってはこれが当たり前なのか。毎日毎日働いて。休みの日に安心したように全てのスイッチがオフになる。
気を遣わなくていい。ミスをしなくていい。泣いたっていい。

そんな一日。

そんなお休みの日に今日も恋人は現れる。起きて出迎えてデートに行って。それが素敵な大人の一日だってことは分かってる。

でも駄目なのだ。

ねむい。眠気が私を引き摺り込む。そんな私に恋人は言う。


「寝れるときに寝とき。不安定だと眠れんくなる」

あぁ、流石。常に死を間近にしてる人だ。

「僕が守ったるから」

人生の中でこれ程までに私を安心させてくれる言葉はあっただろうか?

目頭が熱くなる。

私の全てを、文字通り私の全てを。過去も今も未来も、不安も恐怖も包み込んでくれる、これ以上の安心はない、と。 

私はようやく眠りにつく。今までずっと不安だった。明日が来るのが怖かった。人に嫌われるのが、ミスするのが、嗤われるのが怖かった。
でも、私はようやくそれらを……

薄目で恋人の存在を確認する。

「ほ、しなさん?」
「ん、何や?」

寝起きの掠れた小さい声に反応してくれる。名前を呼べば私の元に来てくれる。私が手を広げれば笑って抱きしめてくれる。私がベッドに引き摺り込めば、最も容易く潜り込んでくれる。腕枕をする腕が筋肉で覆われて、熱い。生きてる人間の体温が、私の全てを溶かしていく。


「子守唄でも歌うか?」
「…せやん、ねぇ」
「関西弁になっとるし」
「移って、しもうたん、やなぁ」
「なんやその関西弁」

まだまだ関西弁の道は険しいなぁ、って柔らかい声で私はまた、溶ける。

「じゃあ、あれ、聞かせて?」
「ん、どれや?」
「ひよこたちの、話」
「君は本当にそれが好きやな。ええで。せやんなぁ、この前の訓練であったオモロイ話なんやけどな」 


自分で話のハードルを上げるのは関西人特有なのか。それとも保科さんだからなのか。私は知らない。知るつもりもない。保科さん以外の関西人とこれから仲良くなるつもりはないから。
保科さんのオモロイ話を聞きたいけれど、私はまた睡魔に襲われる。それは保科さんも分かっていたのだろう。

それでも私が眠りにつくその一瞬まで、手を抜くことせず楽しそうに話してくれる。
どんどん遠くなる保科さんの声。 

胸がじんわりと熱くなって、涙が込み上げてくる。
それは何故だか自分にも分からず、意識は沈んでいく。

お休み保科さん。これで夢でも、あなたに会えるね。


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