お風呂も入って歯磨きもして、あとは寝るだけってタイミングで、人はどうしてアイスが食べたくなるのだろう。
「アイス食べたい」
「ダメです」
ポツリ、と溢した言葉なのにレノくんは、ピシャリと言い放つ。
冷たい。
スプーンで掬えないカッチカチのアイスぐらい冷たい。
でも少し経つと周りから溶けて食べごろになるんだよね。
なんて思えば余計にアイスが食べたくなる。
「歯磨きだってしましたよね」
「……しました」
「じゃあダメです」
お母さんか?お母さんなのか?
ここは太るから、とかじゃなくて虫歯の心配する辺りが母力が強いし、レノくんらしい。
レノくんの顔を見ながらそんなことを考えていたからか。
レノくんは私がまたくだらないことを考えていたことが分かったのだろう。
はぁ、とため息を吐いてベッドに上がって、シーツをポンポンと叩いて。
「こっちです」
こういうときでも敬語で命令する。
優しくて甘くて、でも断ることが出来ないから、私はそれに従うしかない。
ベッドに横になればレノくんは私の頭を抱えて胸元に優しく押し付ける。
ふわっと香ったのはレノくんの匂いと柔軟剤の匂い。
安心出来る匂いに思わず肩の力が抜ける。
「明日、一緒に買いに行きましょうね」
一瞬、何を言っているのか分からなかった。
「アイスですよ、ちなみに何が食べたいんですか?」
背中をポンポンと子供を寝かしつけるように叩くレノくんにそう言われて「……チョコ」と呟いた。「食べたい、って言ってた割にざっくりなんですね」
「…コンビニ行ってから決めようと思って」
「だからあなたの買い物はいつも遅いんですよ」
遅くてすみませんね。
私だってレノくんみたいに決めた物をパッと買いたいよ。
でも、色々見てるうちに悩んじゃうんだもん。仕方なくない?それが買い物の醍醐味ってやつでしょ!?
なんて思っていれば。
「拗ねないでください」
って声が聞こえて。
「……拗ねてないもん」
「嘘ですね」
「嘘じゃないもん」
「じゃあ顔、あげて」
あげて、とか言うくせに、レノくんの手が私の顎を無理矢理持ち上げる。
途端、私の視界は暗闇からレノくんの顔をめいいっぱいうつして。
近い距離は逃げることも出来なくて、レノくんの大きな瞳と目が合って。
「ほら、拗ねてる顔じゃないですか」
そう言って私の機嫌を取るように、流れるように唇を落としてくる。
こ、こういうところ!
今まで彼女作ったことがないって言ってたのに!こういうことをサラッとやるんだから!!
心の中で暴れる私を、レノくんはまた胸元に私を閉じ込めた。
「ちなみに俺は何買うか決めてますよ」
煽りか?
そう思ってしまうのも仕方がない。
「……何買うの?」
「雪◯だいふくです」
「え、かわいい」
レノくんのことだからガ◯ガリくんとかだと思ったのに、それに。
「何で雪◯だいふく?」
そこのチョイスがまた不思議だ。
「今日アイス我慢した恋人にご褒美で半分あげようと思っただけです」
「…っ!」
なにそれ。
だって雪◯だいふくの半分って、もう半分じゃないじゃん!1個じゃん!
って、年下のくせに人に分け与えるのが当たり前だと思ってる恋人は私より大人で。
「…じゃあ私も」
「はい?」
「私もパ◯コ買って、レノくんに半分あげる」
って、言ったらレノくんはクスクス笑って。
「何っ!?」って、言おうとしたのに顔を思いっきりレノくんの逞しい胸筋に押し付けてきて「なひっ!?」って変な声になった。
それをレノくんは気にすることなく「じゃあ明日のためにもう寝ましょうか」って背中をポンポン叩いて。
「一緒に買いに行きましょうね。ひとりで行っちゃだめですからね」
子供に言い聞かせるように言うけど、私の方が年上なんだけど!!
って思うけど。
結局レノくんの胸の中でスヤスヤ眠る私は、この恋人の前では結局、子供のように甘えてしまうのだ──