保科宗四郎は自分で着せた浴衣を脱がすのが好き

宗四郎さんと花火大会を観に行くことになった。

浴衣を着て。






夏と言えば夏祭り!
そして花火!

近々行われる花火大会を恋人の宗四郎さんと観に行くことになった。

宗四郎さんはその日はお仕事だけど、花火大会が始まる前には終わるから、私の部屋に集合してから向かうことに。


[浴衣着て花火大会行かへん?]
[僕も着るから]


って連絡があったときには思わず小躍りしてしまった。


わ〜、宗四郎さんと花火大会!
しかも浴衣姿が見れる!!

絶対似合うに決まっている、宗四郎さんの浴衣姿に、楽しみ〜!って思うんだけど。

あ、っと肝心なことを忘れていた。

私は浴衣を持っていない。
しかも着方も分からない。

これは大変だ!と思って早速宗四郎さんに[浴衣持ってないので今から買いに行きます!]って連絡。

するとすぐさま。


[僕の貸したるよ]


って、返事が来る。

僕の、貸したるよ…?

いや、宗四郎さん男性じゃん?
男性の浴衣じゃ流石に大きくないか?

って思っていれば。


[僕の家にある浴衣、って意味や]
[流石に僕のは大きくて貸せんわ。分かりにくくてすまんな]
[当日持ってくから、持ち物の準備だけしといてな]


って、追加で連絡が来てほっとする。


そうか、宗四郎さんの家の浴衣貸して貰えるのか。
それなら何とかなりそう。

そう思って、当日は財布とスマフォそれからタオルとティッシュとリップがあれば良いかな〜、なんて呑気に考えていた。

まだ浴衣問題がひとつ解決していないことに気がつかないまま。

浴衣を着れない私が、どう着るか、誰に着せて貰うか、問題は解決していなかった。

持ち物の準備だけしといて、と宗四郎さんに言われたからそれしか頭になく。

今思えばわざと宗四郎さんはそう言ったのだと気がついた。

浴衣の着付けの動画を観て練習する、なんてことがないように。

そんな宗四郎さんの思惑に、愚かな私は気がつくこともなく──










花火大会当日。

街中がお祭りの音と匂いをさせている。

浮き足立つ人々に、今日は怪獣が現れませんように、と願う。

夕方、空がオレンジ色に染まり始めたときピンポンと部屋のチャイムが鳴る。

宗四郎さんだ!

そう思って玄関の扉を開ければニコニコと笑う宗四郎さん。


「宗四郎さん、お疲れ様です」
「ありがとう、君もお疲れ様。それにしても、随分とドア開くの早かったなぁ」
「そ、そうですか?」
「そんな早く僕に会いたかってん?」
「ち、ちがいます!」


恥ずかしくて思わず否定したけど、宗四郎さんの言っている通りで。

そんな私をチラッと見て宗四郎さんは楽しそうに「何や、ちゃうんか」って言うから、多分照れ隠しなのはバレている。

その照れ隠しすら恥ずかしくて私は唇を尖らせたんだけど、部屋に入って宗四郎さんが見せてくれた浴衣に私の機嫌は吹っ飛んだ。


「わ〜!綺麗!」
「せやろ?実家から送ってもらったんよ」
「……でも、こんな綺麗なの本当に着てもいいんですか…?」
「勿論や、君のために選んできたからな」
「宗四郎さん嬉しいです!ありがとうございます!」


って、宗四郎さんが選んでくれたことに胸が温かくなるんだけど次の瞬間。

「じゃあ着付けするから服脱いで」と言われて、私はピシッと固まった。


キツケスルカラフクヌイデ


理解するのに数秒掛かった。


「ほら、早くせんと花火大会始まるで」
「え、待って、え?」
「君、1人で浴衣着れないやろ?」


着れない前提で話してくる。
私が浴衣の着付けの練習をしていない、何ならそのことすら頭から忘れているのを宗四郎さんは知っていて。


「いや、でも、動画観ながら着れば」
「早よせんと、花火大会始まってまうで」

だからか。
だから集合時間をギリギリにしたのか。

時間を決めるとき。

「僕、一応有名人やから会場に早目に行ってパニックになったら大変やろ?」

って言ったのは建前だったな。
ずるいのが、それは嘘ではなく、本当のことだから。

宗四郎さんが花火大会にいたとバレたらパニックになるのは私でさえ容易に想像が付いたから。

ニコニコ笑う宗四郎さん。
確信犯のその笑みに私は何も言えず。だからといって抵抗することも出来ず。

「……あまり、見ないでくださいね」

って、言えば。

「何や、今更やな。君の体なら隅々まで」
「わーーー!!!」

いい!言わなくていい!!

恥ずかして宗四郎さんの声をかき消すけど、さらに恥ずかしい思いをすることになるのはこの後から。

明かりのついた部屋で下着姿。
羽織るだけの浴衣に羞恥で下を俯く。

「やっぱりこの色にして良かったな」

って、合わせてるときに満足そうに呟く宗四郎さんにあぁ、私のことを思って選んでくれたんだって、思って胸がきゅん、と音を立てた。

うれしいな。
うれしいけど、早く着せて欲しい。

両腕を肩の高さまで上げて前がはだけた状態。
そのせいで下着は隠れることはなく。

ようやく宗四郎さんが浴衣に手を掛け前を閉じてくれた。

ほっと安心すればそこからは早かった。

テキパキと私に浴衣を着せてくれる宗四郎さん。

時折、素肌に宗四郎さんの指が触れてドキッとする。
私のより少しだけ高い体温。
布越しに感じる大きな手。
シワにならないように体のラインに沿って浴衣を伸ばして。

その動き自体は別にいやらしくなんて、何ともないのに。

宗四郎さんの夜の温度も、手の動きも知っている私にとっては熱を上げるには十分で。

ただ浴衣を着せてもらってるだけ。
それなのに、こんなことで体を熱くする自分が恥ずかしくなる。

そのあとも宗四郎さんは丁寧に浴衣を着せてくれて。

その姿は、手慣れたもので。
私が着るより確かに早くて、綺麗で。

恥ずかしい思いをしたけど宗四郎さんに着せてもらったのが正しい選択だったな、ってそう思った。

最後の締めとして、宗四郎さんが帯を巻く。
必然的に後ろから抱きしめるような形になるんだけど。

宗四郎さんのふくらはぎや太ももが私の脚が当たって。
背中にほんのわずかな温もりを感じて。
耳に、宗四郎さんの息が当たって。

近いけど、すぐ離れて帯を巻かれる。

帯をぎゅっと締め付けつつ「きつないか?」って確認される。


「だ、大丈夫です」
「良かったわ。これでもう終いや」


って、帯から手を離してパッと消える温度。

その温度を名残惜しく感じて。私だけ宗四郎さんのことを意識していて。

それが恥ずかしくて着せて貰った浴衣に意識を向けるように努めた。

宗四郎さんの家の浴衣は肌触りが良くて柄も綺麗。

やっぱり浴衣は気分が上がる。


「宗四郎さん、ありがとうございます」
「どういたしまして、あ、そや。忘れるところやった」

って、言うと宗四郎さんは私の髪を触る。

「髪飾りや」

頭には先程なかった感触。

「ほら、鏡で見てみぃ」

って、鏡の前に立たされて思わず「わぁ…」って声が漏れる。

浴衣の色と同じ色をした髪飾り。
夏祭りにしか付けて行けないような特別な形。

可愛い、浴衣とよく似合う。

「来る途中見かけて買ってきたんよ」

私の彼氏は強いだけではなく、センスも最強みたいだ。

「すごく可愛い、宗四郎さん本当にありがとうございます」
「ええって、僕も可愛い君を見れて満足や」
「花火も見てさらに満足になりましょうね!」

って、言えば少しだけ困った顔をした。

「……そうやな」
「?、どうかしたんですか?」

気乗りしないような口調。

どうしたんだろう?急に体調悪くなった、とか?これから雨降る、とか?

心配になって宗四郎さんの顔を覗き込めば「あかん」と言って。

「君を部屋から出したない」
「、え?」
「こんな可愛い姿を他の男に晒すなんてしたぁないわ」
「宗四郎さん?」
「やっぱり花火観に行くの中止にせん?」

首を傾げてそう言う宗四郎さんは、いつものおちゃらけた態度ではなくて。

いやです、行きます。って、言いたかったんだけど、宗四郎さんの言葉ひとつひとつにときめいてしまって。

花火は観に行きたいけど、宗四郎さんの縋るような瞳に言葉を詰まらせる。

「……ってのは冗談や」
「え?」
「困らせて悪かったな。ほな、行こうか」

そう言って私の手を引いた。

冗談?
本当に?
冗談じゃないくせに。
本音のくせに。

自分の言った台詞に気まずくなって、それを誤魔化すために私の手を強く握ってる宗四郎さんにそう思って、私は手を引かれるまま花火を観に行った──









「凄かったなぁ、花火」
「やっぱり夏の風物詩だよね!」

って、最初はぎこちなかったけど花火を観ている間に私たちの雰囲気はいつも通りに戻った。

花火を楽しんだら帰りは混むから少し早目に人混みを抜けて、私の部屋に戻ってきた。

花火も凄かったけど、部屋に付いて浴衣の着崩れが起こっていないことに気がついて、凄いな、と感心した。

私が着付けをしたら途中で帯が解けたり、浴衣がはだけたりしただろう。

羞恥を覚えたが保科さんに着せてもらって良かった、と思った。

綺麗な浴衣もあとは脱ぐだけ。


「保科さん今日は本当にありがとうございました」
「こちらこそ、楽しかったわ。ありがとう」
「素敵な浴衣も着せてもらえて嬉しかったです。あとでクリーニング出して返しますね」
「あぁ、それは大丈夫。このまま持ち帰るわ」
「いやいや!それは流石に!」

クリーニングぐらい出させて欲しい!
あ、それとも特別な洗い方がある、とか?それなら代金だけでも渡さないと!って思っていたから、ジリジリと近づいてくる保科さんに気が付かなかった。

「浴衣このあと僕のせいで汚れてまうから気にせんでえぇよ」

僕のせいで、汚れる?
浴衣が?

何を言っているのか分からなくて保科さんを見れば距離が近くて。

え?

って思えば、トンと肩を押される。

ポフっと間抜けな音をさせ私はベッドに押し倒されて。

え、えっ!?

意味が分からなくて後退りしようとする私に、保科さんの両腕が退路を塞いだ。

「ホンマは誰にも見せたなかったんや、君の浴衣姿」
「ほ、ほしなさ」
「けどな、君が花火大会行きたそうにしてたから我慢して連れ出したんや」
僕、偉いやろ?

って、最高は耳元で囁かれて。
熱い息が耳にかかって、ゾクゾクと背中が震えた。

「せやから、今から君のこと独り占めさせてな?」


浴衣の隙間から保科さんは手を差し入れ、グイッと膝を立たせた。

歩いている最中は崩れることがないと思っていた浴衣。だけど、保科さんの動きひとつで浴衣はあっという間に崩れた。

着崩れた浴衣に意識が持っていかれれば首にガブリと歯が立てられた、

「ぁっ」

と声が漏れる。

汗をかいてるから、やめてほしかった。
せめてシャワーを浴びたい。

そう思って「保科さん、シャワー」って言えば「ん、あとで一緒に入ろうな」って言われる始末。

あ、これ逃げ場ない。

太ももを触れていない逆の手が後ろに回されれば、シュルシュルと帯が解く音。

硬く結ばれていたはずだ。

中半端に脱がされた浴衣と解かれた帯。

人混みの中を歩いても一切はだけなかった浴衣が解かれていく。

「あぁ、やっぱりこの浴衣にして正解やったな」

上から見下ろして笑う保科さんは妖艶で。

「着せてるときから、ずっと脱がすの楽しみやったんよ」

その色気に息を呑めば。

「ゆっくり脱がしたるからな」


こうして保科さんに時間をかけて脱がされて(実際には体に浴衣を引っ掛けられ)美味しく頂かれることになる今年最初の夏祭りの話。



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