あー、あれ、絶対ヤったやん。
保科宗四郎は鳴海弦の彼女を見ながらそう思った。
何がどうなって第三部隊の隊員の彼女と第三部隊を敵視している第一部隊の隊長が付き合うことになったのか、保科には開目検討も付かなかった。
そもそも鳴海の彼女へのちょっかいのかけ方は意地の悪いものだった。
やりすぎでは?とセクハラかパワハラで訴えられてもおかしくはないほどに。
それを多くの者は鳴海隊長に目をつけられて可哀想に、と彼女に同情の目を向けていた。
だが実情を知ったとき保科は思考が止まった。
鳴海が彼女にちょっかいをかけるのは好きな子に構ってほしい、という小学生男子のような理由だと気が付いたからだ。
驚くことにそれに気が付いたのは保科の他にもうひとりいた。出雲テックスの御曹司だった。
保科と出雲は一瞬だが目を合わせ、お互い同じ結論に至った。
……関わらんとこう。
面倒くさい。子供みたいな愛情表現しか出来ない成人男性に関わっても碌なことは起きない。
それにしても、なんちゅー、不器用な人なんや。恋愛初心者…?もはや、童て……
そこまで考えて己の思考にストップをかけた。
鳴海弦の下のことなんか興味がない、そしてこの話題は鳴海弦の沽券に関わる。股間だけに。
考えないようにしよう。そして、己だったらどうするか考えてみた。
……僕やったらもっと上手くやるな。
保科は女性経験はそこまで多くはない。だが、狙った獲物は必ず仕留めるタイプであった。
それに上手くやったからこそ、保科は今、付き合って数年の彼女がいる。ラブラブだと自負するくらいに。
僕やったら上手くやる。あんな不器用なアプローチであの隊員どう付き合うつもりや?
そう思っていた。あんな幼稚なアプローチで付き合えるんか?そう思っていたが、案外収まるところに二人は収まった。
これは第三部隊の七不思議に入れても良いほど摩訶不思議な出来事だった。
しかもそれだけではなく、あの鳴海弦が彼女を溺愛している、と噂が流れてきた。
噂だがその噂は真実だろう。
彼女の雰囲気や体を見て保科はすぐそれが真実だと分かった。分りたくもなかったが。
時折腰を庇うような動き、今までになかった色気。
それに何より彼女の首にはおびただしいほどのキスマーク、確認出来る場所に3つの噛み跡。
目に毒だ。これなら怪獣を相手にしている方が幾分マシだと思うほどに。
牽制か、はたまた盛り上がりすぎて付けたものか、保科には分からなかった。分かりたくもなかった。
鳴海弦という最強を手にした第一部隊の隊長の夜の秘め事など知って、一体何の役に立つ。
……クソの役にも立たんな。
口が悪くなるのも当然だった。
知りたくもないことを見せつけられる。それ程不快な事はなかった。
だから保科は思った。
自分やったら、見えないところに付ける、と。
「ほな、次腹筋100回」
そうメニューを言い渡しながら冷静に考えた。
僕かて、キスマークを付けるのは嫌いではない。
僕が彼女につける場所はもっぱら胸や胸下、二の腕、内太もも。柔らかいところは吸いやすく、服に隠れている場所は焼けておらず白い肌に赤が映える。
自分のモノやと実感する。これを付けていいのは僕だけ。そのことに優越感を覚え、昂る。
彼女はすぐ消えちゃうから悲しい、そう一度だけ漏らしたことがある。
その姿が可愛くて愛おしくて、もう一回をねだったのは記憶に新しい。
彼女はあぁ言ったが僕はすぐ消えてもえぇと思ってる。また彼女に鬱血痕を付けられるから。何度だって彼女の白い肌に僕の赤を散らしたい。
勤務体制状、毎日なんか出来へん。けどもし毎日するときがあれば、彼女の全身を赤く散らすのだろう、と思っている。
思ってはいるが、実際に行動に移すことはない。
せやから、あんなにふうに見えるところに付けることはない。
彼女に私は昨日セックスしました、なんて思わせることなどしたくない。
他の男に劣情を抱かせることをさせたくない、保科はそう思っている。
だが、もし。
僕が見えるように付けるんやったら、牽制で付ける。
男がいるぞ、と。人間の急所である首に舌を這わせ、唇を付け、肌を吸い、噛むことを許された特別な人間がいる。
手を出すな。
もし手出したら、貴様の喉元を噛み切る。
暗にそう伝わるように、付けるだろう。
僕は、の話だが。あの鳴海さんと同じ考えではないことは、重重承知や。
何をもって付けたのか、はたまた何も考えず付けたのか、僕にはさっぱり分からん。分りたくもない。
結局、他の隊員たち同様、彼女には同情の目を向ける。
手加減なんてモノを知らない男に捕まって可哀想に。
そう思うのに、それと同時に羨ましいと思った。
ボクのだ!!
と、子供みたいになりふり構わず主張出来る厚顔無恥なその姿を。
保科は元来、流されにくい性格をしている。
同僚である先輩、後輩、上司、共に闘い合い笑い合った人々を失い、悲しむ間も無く次の戦いへ繰り出す。感傷に浸っている場合ではなかった。
また剣で怪獣と戦うことを多くの者、親すら難色を示した。
それでも己の存在証明のため剣を取り闘い続けた。それはよく言えば自分を曲げない。悪く言えば頭が硬い。というやつだ。
どちらにせよ、銃の解放戦力が低かったことも剣を取る理由でもあったが。
人に流されにくい、頑固な保科も今回、鳴海弦に当てられてしまった。
……訓練中なのにエロいこと考えてもうた。
少しの罪悪感。だが、後悔先に立たず。
明日、保科は休みだった。彼女も休みを取っている。
だから今夜、保科がやることはひとつだ。
今夜、保科彼女を手酷く抱くだろう。
白い肌に歯を当て、噛み、痛みに悶え泣き、僕に許しを乞う。それすらも、僕を煽ることだと無知な彼女は知らずに。
喉が渇く。
無意識にした舌舐めずりは誰にも気付かれることはなかった。
狙いを定めた蛇のように保科は目を細めた。あと数時間で会える彼女は、保科を見て笑うだろう。
そして、その笑顔がぐちゃぐちゃになるまであと──