鳴海さんの言うW恋Wが独占欲まみれの件について



「恋ってふわふわして甘くて幸せな気持ちになるんです。その人のことばかり考えて、幸せになっちゃうんです。でも、思いが強すぎると私だけ見て欲しい!とかもっと好きになって欲しい!とか」
「つまりキミはボクに『私だけ見て欲しい』と思ってるってことか」

って、言われてブンブン首を縦に振る。

「そうなんですよ!でも恋の根本は好きな人が幸せになって欲しい、って気持ちから来るんですけど!」

つまり私は鳴海さんの幸せを第一に考える女!彼女じゃないところが悲しい!

だからお願い!

「私のこと彼女にしたら絶対幸せになれますよ!」
「新手の宗教か」
「今度パンフレット持って来ますね!」
「いらん」

鳴海さんは相変わらずゲームしながら、ノールックで私と話す。

これでも良くなった方。
最初の方はシカトばっかりされてたから。
でも足繁く通って、挨拶して話して「今日もかっこいいですね!」とか「好きです!」とか「スマホに『ナルミさんかっこいい♡』って呟いたのでいいね押してくださいね!」とか。

しこくコミュニケーション取ってたらようやく会話が成立するところまで来た。

やったー!!
同じ基地内だから仕事終わらして抜け出して来た甲斐があったー!!

上司も先輩も仕事を終わらして結果出して「鳴海隊長口説いて来ます♡」って脳内お花畑の私を「がんばれよー」って適当に応援して送り出してくれる。

本当、最高の職場!
ありがとう!!

そんな最高の職場で最もかっこよくて大好きな鳴海さんと一緒の基地ってことが私の最大の幸運。

どうかこの波に乗って、私のこと好きになってくれないかなー?付き合ってくれないかなー?ってアプローチする。

「キミの恋は理解不能だな」
「いつか鳴海さんも分かりますよ!」
「……分かりたくない」

降ろした髪の下でイヤそうな顔をする。

髪の毛上げてほしいな。
あ、もちろん降ろしてる姿も大好きなんだけど、鳴海さんの目、綺麗でかっこいいから大好きなんだよね。

でも、大事な訓練の時とか怪獣が出た時ぐらいしか上げてくれない。

そういうときは、私は最前線で共に戦えない。
だからいつもモニター越しで鳴海さんを観るの。

「ねぇねぇ鳴海さん?」
「…………なんだ?」
「好きです」

って、言えば「ふんっ」と塩対応。

でもそんな姿にも、うふふと気持ち悪い笑みを浮かべる私、最高にキモい。

自覚してるだけマシだと思って欲しい。

好きな人に好きって伝えられる環境、本当に最高!!







「あれ、鳴海さん?」
「うわ、キミか」

って、その日はたまたまお出かけしてたら、たまたま非番だったナルミさんがいて、たまたま珍しく買い物に来てた鳴海さんにたまたま出会した。

え?
こんな奇跡ある!?
普段外に出ようとしない鳴海さんと街で出会すなんて!?

やばい。私、今キテる。

「鳴海さんどこに行くんですか?」
「もう帰るところだ」
「それなら一緒に」
「回らん。ボクは帰る」

って、帰ろうとするから。

「えっ、待って待って!!」

と言って鳴海さんの服を掴む。

「ちょっとだけ!ちょっとだけ回りましょう!」
「回らんと言っているだろう……というより、何だその服は」
「服…?」

そう言われてパッと鳴海さんの服を離して自分の服を見る。

至って普通の服である。

「何か変ですか?」
「……肩もお腹も出し過ぎだ」
「だってかわいいじゃないですか?」
「だってじゃない」

休日にオシャレしたいって思うのは当然のこと。

何ならダルダルのTシャツ短パンで歩いてる鳴海さんの方が、なんだその服は…?である。

せめて。

「鳴海さんもお出かけなら髪上げればいいじゃないですか」

って、髪の毛を触ろうとしたら。

「…やめろ」

って、避けられる。

あ、ちょっとショック。
いや、今のは私が悪いか。

自業自得だけどチクン、と胸が傷む。

「ボクのことよりキミの服だ、そんな服で出掛けるな」

って言われちゃって。

「えー、なんか鳴海さんお父さんみたい」

って思わず言ってしまえば、普段目の合わない鳴海さんとバチっと目が合った。

その目がいつもより何か違くて。
怖いって感じて後ろに一歩後ずさったのは無意識。

な、なに…?

「あれ!?鳴海ー!久しぶりだな!」

活発そうな女性の声。
その声の持ち主は鳴海さんに近づいてくる。

え、だれ?

そう思っていれば鳴海さんは「うげっ、先生……」と嫌そうに呟いた。

先生…?

先生って、学校の先生とか?

って困惑していると「またデカくなったなぁ!」と、鳴海さんの頭をわしわしと撫でる。

えっ?

「ちょ、やめてください」
「テレビ観たぞ!すごい活躍してるな!君の働き、誇りに思うぞ!」
「……ふん、当たり前だろ」

って、照れ隠しをするように顔をそっぽ向いてそんなこと言って。

最初こそ頭を撫でられるのを拒否していたのに、今は大人しく撫でられてて。

何、それ。
私には触れさせてすらくれなかったのに。それに、気になったのが鳴海さんの態度で。

「怪我はないか?」
「…ボクが怪我なんかするとでも?」
「高校時代怪我ばかりしてたやつが良く言うよ。あと風邪は?ちゃんとご飯食べて寝てるのか?クマが酷いぞ」
「……子供扱いしないでください、先生とはそこまで年離れてませんよね」

そう言う鳴海さんは、いつもの自信に溢れた姿じゃなくて、ひとりの青年、ううん、少年みたいな。

子供扱いする大人が気に食わないと、反抗的に睨むけど、その瞳の色は優しくて特別な色で女性を見ていて。

「っ、」

どくん、と心臓が嫌な音を立てる。
気がつくな、自分。
勘違いかもしれないから。

それでも嫌な勘ってのは当たるもので。

一瞬、太陽の光で女性と薬指の指輪が光った。それに気がついたのは私だけじゃない。

「……先生、結婚するんですか?」
「あぁ、来月な」
「フン、先生を嫁に欲しいなんて変わり者がいるんですね」
「私も、そう思うよ」

キラキラ光る指を見ながら女性は笑っていた。それは本当に幸せそうなのに。

鳴海さんは一瞬だけ顔を曇らせた。

「…っ」

あっ。

と、泣きたくなる想いが胸を胸を締め付ける。

「…おめでとうございます」
「ありがとう!」

鳴海さんが祝福を述べるときにはもうその表情はしてなかったけど。
でも、不機嫌そうな顔とか。
少年みたいな態度とか。
優しくて慈愛のこもった瞳とか。

鳴海さんのその姿に、鳴海さん恋知ってるじゃん……って、胸がきゅっと締め付けられた。








あの日から鳴海さんの顔が見れない。

目が合えば、パッと逸らしてしまう。

私はもう、知ってしまった。
鳴海さんが特別を示す表情を態度を瞳の色を。

私はどれも向けられていない、ってことも。

今まで好き好きって言って、「あっそ」って言葉で片付けられて平気だったのは、知らなかったから。
比べる相手がいなかったから。
でも今は……

先生と呼ばれた女性と比べて。
私の前ではあんな表情で笑わないとか。
幼くならない、とか。
瞳に特別な色を宿してないとか。

そういうことに全部気がついて。

「っ、」

胸がギュッと締め付けられて。

あぁ、そうだ。恋ってふわふわして楽しくて幸せなだけじゃない。
醜く嫉妬して比べて傷ついて、苦しくて。

鳴海さんにまだ教えてないことあったな、って思ったけど。

ナルミさん、もう恋知ってたから教えなくていっか。

って、そう思ったらもう鳴海さんに会いに行く勇気がなくなっちゃった。

「最近鳴海隊長のとこ行かないけどどうした?」

「え、上司がそれ聞きに来るんですか?」
「別にサボりとかじゃねぇだろう。やることやってたし、時間内には戻って来たし」
何なら以前の方が早くて的確だったなぁ。

なんてぼやきながら私の前に資料を出す。

「間違い箇所が5箇所ある」
「っ!!すみません!!」
「何があったか知らないが、さっさと仲直りしてこい」

ってそんなこと言われても、どうしようもない。別に喧嘩したわけでもない。私が勝手に好きになって、勝手に失恋しただけ。

今頃鳴海さんは清々してるはずだ。
「好き好き」言ってた女がいなくなったんだから。
「好き」に対して面倒くさそうにしてたのだ。
もうそれが答えだと言うのに。私は……

ぎゅっと手に力が籠る。

目の前で見せつけられた。
先生と私の違い。

恋を知らないなら私が教えよう!なんて、烏滸がましかったなぁ……って、後悔して。








ここ数週間私は鳴海さんに会えていない。

そもそも私たちは動線が被らないのだ。それを私がムリヤリ会いに行っていた。

だから基地の廊下でバッタリ鳴海さんと出会すことなんかないのに。

何故か目の前の廊下から鳴海さんが歩いてきて。

「っ!」

しかもめちゃめちゃ不機嫌オーラ全開。

何で怒ってるのか分からないけど捕まったら厄介なことになる。

そう思って上手い具合に誤魔化せば良かったのに、私はパッと後ろを向いてそのまま歩き出す。早歩きで。

こんなもの、鳴海さんを避けてると言ってるようなもので。

「……おい」

ひぃっ!!

後ろから低い声で呼び止められたが。

いや、気のせい。
あの鳴海さんだぞ。
今まで私の話をノールックで聞いていて溜息を堂々と吐く人だぞ。
わざわざ声なんかかけるわけ。

「おい、シカトか」

と、肩をガシリと掴まれる。

え?さっきまで距離が遠かったですよね?一瞬であの距離を詰めたんですか?
流石第一部隊の隊長だ。

なんて、現実逃避してれば壁際に追い込まれた。

ひぃ、逃げ場がないっ……!!

そんなことを思っていれば「最近見なかったが、風邪でもひいたか?」と、肩を掴まれながら聞かれて。

「ひ、いてません」
「ふ〜ん、長期休暇だったのか?」
「あ、いえ、普通に仕事でした」

って答えるとピクリと眉が動いたような気がした。
それに伴い、不機嫌オーラがさらに禍々しくなっていく。

あ、もしかして。

「あの、鳴海さんすみませんでした」
「…何がだ」
「鳴海さんに好き好き言いまくって、迷惑でした、よね?もう、言いに行かないので。今まですみませんでした」

ペコリと頭を下げる。
今まで迷惑を掛けてきたのだ、ちゃんと謝らないとって思ったのに。

「は?」

って、鳴海さんの聞いたこともない低い声にビクッと体が跳ねる。

「あ、あの、本当にごめんなさ、」

どうしよう、すごい怒ってる!
ピリピリとした空気のせいで肌が痛い。
普段好きな鳴海さんの目すら今は見れなくて。


「ハッ!今さら逃げられるとでも思っているのか?」
「な、鳴海さん?」
「ボクに恋を教えたのはキミだろ?」

何を言っているんだろう……?
恋を教えた?私が?
ちがう。
私じゃない。それは、先生って呼ばれてた人で。

「私は教えてな、」
「いや、キミから教わったんだ。こんな面倒くさい腹立たしい感情を抱きたくなかったのに、キミのせいだ」

面倒くさいって?腹立たしいって?
なにが?

「何が恋はふわふわして楽しくて幸せだ」

な、るみさん?

「恋は面倒くさくて厄介で、相手のことばかり考えて他のやつに愛想なんか見せなくて良い、ボクだけ見て、常にボクを1番に思っていれば良いって感情だ」

な、にそれ……?

「"相手が幸せになって欲しい"?……悪いがボクは、ボクの隣以外で幸せになることは許さない、そう思うのが"恋"だ」

過激で強烈。
私の恋とは、全然ちがう。
それなのにその恋を知りたいと、その恋をしたいとひどく惹かれるのはきっと鳴海さんだから。

髪を掻き上げて鳴海さんの瞳が露わになって、ドクンと心臓が掴まれた。

私を見下ろす瞳は見たこともないほど、ゆらゆらと熱く燃えていて。

……何、その熱。

髪の下で隠していただろう瞳の熱を私に伝染させて、鳴海さんは言った。

「ボクがキミに恋を教えてやる」

ずっと前髪の下で熱を隠していたなんて、私は知らなかったの──


【キミに恋を教える】

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