1 賭け


小さい頃から、テニスが好きだった。

母の薦めで始めてみて、最初はやる気なんて皆無だったけど、やってみるとどんどんテニスの魅力にハマっていった。
今ではもう、すっかりテニス馬鹿になり果ててしまった。

私も今年から中学生。
そんなとき、父の仕事の都合で神奈川から東京へ引っ越すことになったのだ。
同じ小学校で小さいときから仲良くしていた幸村精市とも離れ離れになることになってしまった。
正直ショックで、それからは寂しくて毎日のように精市くんに会いに行った。

そして今日も、大切なことを話すために。



「やぁ#青葉#。ふふ。昨日ぶりだね」

「いやぁーどうも寂しくなっちゃって!もう精市くん馬鹿だね私!」

「いやだなあ気持ち悪い。照れちゃうよ」

「どこが!?どこらへんで照れてるの!?」

こういうやり取りも慣れたものだ。
最初は本当に嫌われてるのかななんて思ったけど、本人は冗談で言っているらしい。たぶん。

こういうきついこともさらりと言ってしまうほど落ち着いた中性的な声。
この声ももう毎日聞けなくなってしまうとなると、本当に寂しい。


「今日はどんな話をしてくれるんだい?」

「うん、それがね…。中学に入るのに、少し賭けをすることになったというか……」


私の変な言い回しに精市くんは疑問符を浮かべた。

「えっと、それはどういうことかな?」


「私、男として氷帝学園に入学する!!」


数秒無言が続いた。
精市くんは私のこの意味不明な発言にどんな反応をしてくるか。
やがて小さい笑いを1つこぼして精市くんは言った。


「それは一体、どういう風の吹き回しだい?」

「て、テニス部に入りたいの…」

「ああ。氷帝は男子テニス部だけだったかな?それで?」

「うん!会いたい人がテニス部にいるの!」

精市くんは「へえ、会いたい人を追いかけて入学するんだね」と言ってもう一度笑った。


精市くんは私とひとつ違いで、一緒に小さいときからテニスをしていた。
精市くんはとても強くて、本当に小学生なのだろうかと毎日疑問に思っていた。
私は精市くんにももちろん憧れていて、こんな風に強くなれたらいいなって思っていた。


会いたい人。


その人は、精市くんとは少し違う雰囲気のテニスをした。

綺麗だった。

そのテニスに魅せられて、私は氷帝学園のテニス部に入部することを決めたのだ。


しかし、残念ながら氷帝に女子テニス部は存在しない。

ならば、男装してでももぐりこんでやると思ったのだ。
少し強引だけど、私ならきっとできる。


「男としてって、バレないのかな?」

「大丈夫!上手くやってみせるよ!」


根拠のない自信に満ち溢れた私はえっへんと胸を張った。



あの人に会って、きっと私もあの人みたいな美しいテニスをしてみせる。
もっと強くなってみせるんだ。

そして久々に精市くんに会って、びっくりさせてやるんだ。


今から楽しみで仕方がない。



これから引っ越し、入学式、そして入部といろいろなことがある。

一体どんなことが待っているのだろうか。





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あおはる。