邂逅



4月。入学式にかろうじて残っていた桜たちも見事に散り果て、桜色だった風景は、若葉の色へと塗り直された。新入生たちもたどたどしいながら、中学という環境に馴染もうとしている頃だった。

「詩乃、部活決めた?」

名前順で並んだ座席でたまたま前後になり話すようになった友人に声をかけられた。
四天宝寺中では、必ず部活動に入らなければならない。無論、もとより帰宅部は希望してないので何かしらに入る気はあるのだが、いかんせん部活の種類も多く、決めかねていた。

「まだー。今日もいろいろ見学回ろうかなー」
「そろそろ決めないと仮入部期間終わって気まずくなるよ」
「だよねー……何がいっかなぁ」

音楽や美術のセンスは無いので、文化部は難しいかもしれない。運動はそれなりに好きだが、得意というわけでもない。せっかくなので苦手なものややったことないことにチャレンジするのもありかもしれない。なんでもやってみたい主義が仇となってしまった。
考えれば考えるほどまとまらない負の連鎖に陥ってしまう。しかも文化部と運動部両方1個ずつ入らないといけないという決まりが、両立含めまた悩ませる。

「学級委員ー、ちょっと良いかー」
「はーい」

友人にちょっとごめんと断りを入れて教壇の教師の元へ向かう。学級委員にはなりたくてなったわけではない。入学して最初の学級委員なんて誰もやりたがらなかったため、くじ引きで見事に引き当ててしまった、所謂運の悪いやつだ。
そして、同じく運の悪いもう一人の学級委員もやってきた。

「校外学習の準備の打ち合わせがあるから今日このあとちょっと残れるか」
「先生、それ長い?」
「いや、初日だからすぐ終わる」
「じゃあ良いですよ」

当日に言うのはどうなのかとも思ったが、決まっていることなら致し方ない。打ち合わせの行われる教室の場所を聞き、一度机に鞄を取りに戻り教室を出る。先にいってるかと思ったもう一人の学級委員も、廊下で待っていてくれた。

「あ、ごめんありがとう」
「ええって」

さらっと会話を交わし、目的の教室へ向かう。お互い学級委員になったのはつい一週間前のことで、ほとんど話したことはない。ただ、爽やかなイケメンだなという印象はあった。友人もちょっとかっこいいよねと言っていた。

「白石も学級委員なんて災難だねー」
「それを言うならお前もやろ」
「んーまぁ私はそういうのそんなに嫌いじゃないかな!」

皆を引っ張るというのは柄ではないが、実際の学級委員なんてほぼ面倒な仕事を押し付けられるだけの役割だ。昔から頼まれたら断らない主義のせいか、そういうのを依頼される機会は多く、自分自身も割と嫌いではない。

「あぁ、なんか先生に頼まれて教材運んだりしとったな」
「一番前の席だから頼みやすいんだろうねー私の隣は文句ばっか言ってる男子だし余計に」
「あいつはなー。悪いやつやないんやけど」

わかるわかる、とクラスメイトの話で盛り上がる。男女の差もあり交友関係も別々なので、まだ慣れていないクラスメイトの情報交換が捗る。こういうのも新学期ならではである。

「えーと……」
「詩乃でいいよ」

気まずそうに言葉を選んでいた白石に、なんとなく言いたいことを察した詩乃は、さらっと名前を名乗った。あまり話したことない同士なので、なんと呼んだら良いか悩んだのだろう。今後関わることも多いだろうし、とりあえずそれなりに仲良くなっておいた方が楽だろう。

「詩乃は、部活もう決めたん?」
「そう!それが悩みなの!まだ決まってないの!!」

ハッと先程まで友人と悩んでいたことを思い出して食いつく。勢いづきすぎて驚かせてしまったようで、少し申し訳ないことをした。

「何か入りたい気持ちはあるんだけど、どれも楽しそうで悩んじゃうんだよねー」
「長いか聞いとったからもう部活入ったんかと思ったわ」
「決まってないからこそ貴重な見学時間を削るわけにはいかないんだよー!一通り見て回ったんだけど、どれも捨て難くて」

私も全力で部活したいなぁと目を輝かせる。隣でぽかんとこちらを見ている白石に気づき、慌てて取り繕った。

「ごめん、一人で勝手に話しすぎた!?」
「それはええねんけど……ほんなら今日、テニス部見学せん?」
「白石テニス部なんだ。確かに前回見学したし、仮入部させて貰うのもアリかなー」
「あ、いや、テニス部はテニス部でも男子の方で、マネージャー探しとるらしいんやけど」

昨日のミーティングで先輩が嘆いとったから興味あれば、と控えめに付け加える白石。マネージャー。それは盲点であった。確かにポスターとかには書いてあった気がする。

「タッチのみなみちゃん的な?」
「やることはまぁ、そんな感じやと思う」