江洲羽市の繁華街のビルの中にみょうじ医院という小さな診療所がある。
商店街が近く、店と住居を同じくしている人たちの多い地区ということもあり、そこを頼りにする人は少なくない。

1年ほど前、そこがなまえの仕事場になった。
もともとは祖父が開業した診療所で、祖父が亡くなった時なまえは勤めていた病院を辞め、跡を継いだ。
個人の診療所は慣れれば勝手が利いていい。すぐ近くであれば、診察に出向くこともできる。なまえとしてはそれが一番の利点だ。

その日はお昼のついでに、足が悪いという精肉店のおばあさんの診察に寄った帰りだった。
店の奥から出て、店主と話している大きな人影になまえは思わずはっと息を飲み、動きを止めた。

「ん?おっちゃんの娘さんかいな。べっぴんさんやな!こんにちわぁ」

こちらに気付いたまぁるい大きな男が揚げたてコロッケを片手に、にこにこと人好きのする笑みを浮かべる。
なまえが返事をする前に声をあげて笑ったのは精肉店の店主だった。

「ちゃうちゃう!この人はみょうじ医院の先生や。ばぁちゃん診に来てくれはってん。なんや、ファット会うたことなかったんか!」
「あ、そうなん?」
「第一俺の遺伝子ついどったらこんなべっぴんにならへんやろ」
「それもそうやな!」
「いや、そこは否定せぇ!」

豪快に笑う2人につられなまえは小さく笑い声をもらし、低めのヒールに足を突っ込む。
カツカツと店先に出てファットを見上げる。隣に並ぶとファットガムは思っていた以上に大きい。そして丸い。

「みょうじ なまえです。よろしく、ファットさん」

落ち着き払った様子でにこりと笑ったなまえだったが内心テンションは駄々上がりだった。
なまえはファットガムのサイドキック時代からのファンだった。ヒーローの側らで見切れて映る彼の姿をテレビで見た時からその豊満で愛くるしいボディに魅了されてしまった。そして大きな体でダメージを吸収し、怪我一つ無く捕り物をこなして見せるかっこよさに惚れた。
元々きゃぁきゃぁと騒ぐ性質でも無いけれど、こう目の前にしたら触りたい衝動に駆られる。というか抱き着きたい。ぎゅってしたい。しかし良くも悪くもそこに理性を働かせてしまうのがなまえである。

「よろしゅう!」

大きな手の平が目の前に差し出される。胸の奥がきゅんと鳴った。
手を重ねるとなまえの小さな手は容易くそのふわふわに飲み込まれてしまう。正直たまらない。
家ではビッグサイズのファットガムクッションを愛用しており、なまえはそれを時折揉みしだいて癒しを得ていたがその比ではない。流石本物である。静かに感動に打ちひしがれた。
緩く上下に手を振った後、離れていくふわふわを名残り惜しく思っていると、ファットが不思議そうに首を傾げる。

「先生?」
「あ、ごめんなさい。おじさん、私もコロッケひとつ」
「おおきに!」

店主は眩しい笑顔で応え、コロッケをフライヤーに入れた。

「なぁ、みょうじ医院ってどこにあんの?」
「なんや知らんのかい!」
「しょうがないよ。ファットさんが事務所だした後ちょっとして一回閉めちゃったから」