雨降って地固まる


「これは降りそうだな」
 
さて帰るかとアルフの遺跡北口から出たところで突然、真っ黒な雲が流れてきて一気に雲行きが怪しくなってきた。周りの空気も重い湿り気を帯びて肌にまとわり付くようだ。
 
「イーブイ、急ごう」
 
声をかけて数分、あっという間に土砂降りとなってしまいけぶる道を慌てて走り出す。
ひたすらバシャバシャと水たまりを踏みつけ走り続けると途中であのウソッキーがいつも立っていた分岐点に出た。しかし水が苦手なウソッキーは早々に避難したらしく辺りには誰もいなかった。
 
「イーブイ!こっからだとエンジュの方が近い!エンジュに行くぞ!」
 
そう言ってアッシュが北へ向かうと南下しようとしていたイーブイもすぐさま踵を返してエンジュの方へと走り出す。
以前いた双子の少女や二人の女性も流石にこの雨には退散したらしく、誰もいない草むらをアッシュ達は走り抜ける。
あともう少しでエンジュに着く、というところで足元に何かが飛び出してきた。思わず踏みつけないようたたらを踏みすっ転びそうになりながらもアッシュは何とか立ち止まった。
 
「ワゥン!!」
「お前…!」
 
飛び出してきたのは以前吠えかかってきたあのガーディである。
また来たとか何とか聞こえたがこんな土砂降りの中縄張りを見回ることはないじゃないか。しかしガーディにとっては重要なことらしくグルルと唸り態勢を低く整える。
 
全く引く様子が見られない。
 
それどころかイーブイも、先ほどのポケモンへの怒りが溜まっていて不機嫌だった為かすぐ様攻撃体勢へと移行してしまった。雨は尚も続いている。
どうせここまで濡れればそう変わりない。今にも飛びかかりそうな両者に諦めがついたアッシュは視界を遮る前髪をかきあげた。
 
「あーもう!イーブイ、体当たり!」
 
半ばヤケになってイーブイに体当たりを指示すると、イーブイはダッとガーディ目掛けて突っ込んで行く。珍しく言うことを聞いたと若干感動したが、そのスピードは体当たりよりも明らかに速く、衝撃音は重い。
どうやら体当たりではなく突進であるらしい。
 
「――やっぱ言う事聞かないわけね…!」
 
アッシュの呟きなど無視して、ガーディはイーブイの突進をひらりとかわすとそのまま地を蹴って斜めに飛び出してくる。こちらは体当たりのようだ。
当たったり外れたりしながらそのまま何度か体当たりの応酬になったが、このままではラチがあかない。
とはいえイーブイが何を覚えているのかアッシュにはさっぱり分からないので何を指示していいのかいまいち掴めていなかった。
兎に角何か違う技をと思い砂かけを指示する。すると今度は素直に足元の砂を水たまりごとガーディに浴びせ掛けるイーブイ。急に泥を浴びガーディが驚いて一歩後ろへと引く。
それを見逃さずイーブイは再び突進をしかけ、見事命中したガーディは後ろの木々にぶつかって動かなくなった。どうやら目を回してしまったらしい。
 
「ブイー!!」
 
バトルに勝ったイーブイは喜びの声を上げるが、アッシュはそんなイーブイには目もくれず、目を回すガーディを抱き上げるとすぐ様立ち上がった。
 
「うわ、重っ!!」
「ブイ!?」
「いいから行くぞ!」
 
突然ガーディを抱き上げたアッシュにイーブイが驚愕の声を上げるが、無視して腰ベルトからボールをひっ掴むとブイブイ文句を言っているイーブイをそのままボールに戻し再び走り出した。
ガーディを抱いているせいか先ほどよりもずっと足取りが重い。しかし止まない雨の中止まるわけにもいかずアッシュはエンジュのポケモンセンターへと転がり込んだ。
 
 
 
 
ポケモンセンターに着くと、ずぶ濡れのアッシュ達が入ってきたのに驚いたジョーイが立ち上がる。
 
「まぁ大変!」
 
ジョーイはすぐにラッキーに指示をしてタオルを持ってきてくれた。
急な雨に駆け込んでくる人はいたらしいが、その中でもアッシュ達は一際濡れていたらしくジョーイに事情を聞かれた為、ガーディの事を告げると二匹の回復をお願いする。
 
「あの子は旅のトレーナーが来るといつもそうなのよ。でも、その子に勝ったアッシュ君達は強いのね」
 
ジョーイがニコリと笑った為、疲れきったアッシュは曖昧に笑って返した。
もともと他人のポケモンなのでどの位育てられているのか知らないがバトルは殆どイーブイ任せな上、相変わらず言うことも聞いてくれない状態である。
今日までアッシュはバトルらしいバトルもしてこなかったというのに何故こうもイーブイが順調に育っているのか分からない。
唯一思いついたのはあの岩山付近での迷子くらいで他に理由は思いつかなかった。もしや自分でレベリングしているのか?
 
「へっくし!!」
 
ぶるりと寒気を感じたアッシュはとりあえず考えるのは後にしようと頭を切り替えると、今日の分の宿泊をお願いしすぐに部屋へ行ってシャワーを浴びることにした。
着替えを終えたアッシュは暫く回復に時間がかかるとみて先に夕食を済ませ、その後イーブイを受け取りに行くことにする。
迎えに行ってすぐ、ジョーイに連れられたイーブイが不機嫌な顔のまま出迎えしてくれた。何か言うわけではないが、じっとアッシュの顔を見続けている。目は口ほどに物を言うとはこのことか。
 
「この雨の中放り出すわけいかないだろ?」
 
責めるような視線に耐えられずにそう言うとイーブイは顔を歪めてプイとそっぽを向いてしまう。
突っかかられた相手だからなのか、勝利を無視して連れてくることを優先したからなのか他の理由なのかいまいち分からないが、イーブイはとても不機嫌である。今は何を言っても無理そうだ。
やれやれと思いながらガーディについて尋ねると、一応野生ポケモンなのでセンター内で預かり様子見したあと明日の朝一番で野生に返すとの事であった。
 
「一応アッシュさんにもきて欲しいのですが…」
「分かりました」
 
連れてきた手前断ることもせずアッシュは承諾するとイーブイを連れて部屋へと戻ることにした。
 

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