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ウバメの森を抜けてあと少しでコガネシティに戻る、という時になって少年が勝負を挑んできた。
行きでは見なかった気がするが、よく考える暇もないままラッタは勇ましく飛び出していく。
俺まだモンスターボール投げてないんだけどなと小さな声で今日何度目か分からない呟きを零す。
しかし全くもってラッタは聞いていないらしく、フンと鼻を鳴らして戦闘態勢に入っている。

半袖短パンという格好からして森にいた子供たちの様に虫タイプのポケモンを出してくるかと思ったが、予想に反して少年が出してきたのはフサフサの毛が愛らしい茶色のポケモンだった。

「いっけー!イーブイ!!」

おぉ!イーブイか!と内心感動していたのだが、勝手にバトルを始めてしまったラッタは愛らしい姿をあっさり吹っ飛ばしてしまう。

「あぁ!!イーブイー!!」

せっかく飛び出した相棒を二秒で吹っ飛ばされた少年は今までのトレーナーと同じ様に涙目でイーブイへと駆け寄っていく。
これは、ずっと思っていたんだが子供相手に大人気ないヤツだと思われるんじゃないだろうかとアッシュは気が気でない。
今回の配達で年下の子達に何度泣かれたことか最早数えるのも疲れた。

「お兄さん、強いね…。そのラッタ何処で捕まえたの?」

目を回した相棒を抱きかかえたまま、少年が聞いてきたのでアッシュは片手を胸の前で横に振った。

「いや、俺はトレーナーじゃない。こいつは借りてきたんだ」
「……そっか」

アッシュの言葉を聞いた少年はそのまま俯いてしまう。
何事かとアッシュは少年の隣にしゃがみ込み、顔を覗き込んだ。

なんでも、イーブイは父親がゲームコーナーで手に入れたらしいが少年には全く懐かないらしい。
ゲームの景品なんて言われて渡された上に、そのまま息子に流されたのではそりゃあ懐かないだろうと思ったが、それこそ大人気ない発言だと思ったのでアッシュは口を閉ざした。

「そのうち懐いてくれるさ」

咄嗟に思いついた励ましの言葉は少年にとっては逆効果であったらしく、ムキになったように大声で叫んだ。

「やっぱりこいつと俺は合わないんだ!」
「いやいや、まだ懐いてないだけだろう」

そんなことないよ!だってもう半年以上もも一緒にいるんだよ!と少年は悔しそうに唇を噛む。
それは確かに懐かない理由がありそうだなと思わず黙り込む。
話しかけてもそっぽを向き命令なんて全然聞いてくれない、触ろうとすれば威嚇し、ご飯も見えない所へ移動しないと食べないのだと泣きそうに語る。

ぐすぐすと一通り泣いたあと、少年は決心したようにアッシュに向き直った。
正直、嫌な予感しかしない。

「兄ちゃん、こいつもらってくれない」
「……は?」
「次にバトルしてダメだったら、こいつは野生に返そうって思ってたんだ。でも兄ちゃんみたいに無言でも勝っちゃうような強いトレーナーとなら一緒にいても大丈夫だと思うんだ!」
「いやいや、俺がラッタに全く指示してないのは単にこいつが言うこと聞いてくれないだけだから!」
「大丈夫!イーブイだって言う事聞かないよ!」
「いや全然何も良くないだろう!?」

というか半年も一緒にいたのにあっさり捨てるのか、そもそも俺はトレーナーじゃないなどと色々言おうとした。が、その前にイーブイを戻したボールをアッシュへほぼ放り投げるようにして強引に手渡すと少年は走って行ってしまった。

「じゃあなイーブイ!元気でな!」
「元気でなじゃないだろ!おい!……あー!攣った!!いたたた!!」

慌てて少年を追いかけようとするが、中途半端に座っていたせいで筋肉が固まったのか足が攣りアッシュは不覚にもその場で蹲った。
日もだいぶ傾き、さらさらと揺れる草場に残ったのは早く帰れと言いたげに此方に歯ぎしりするラッタと、何も知らずにボールの中で目を回しているイーブイ。
そして足を押さえて唸るアッシュだけだった。



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