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死んだ覚えはない。が、それはそれとしていつの間にやら転生していた。おっどろきー。
覚えているのは唐突に、目が眩むほどの真っ白い光に包まれたこと。そして手を翳しながらなんとか薄目を開けると、視界を占めるのは大型トラック。それは勢いのままに私の方へと衝突してくる。息が止まる程の強い衝撃とともに私の身体は宙へ浮き、そしてアスファルトに叩き付けられた。
全身がミシミシと軋み、酷く寒かった。身体はピクリとも動かせず、視界、やがては聴覚まで機能を停止し永遠の闇へと閉じ込めらていく。
……あれ、つまりこれが死か。じゃあ嘘、最初の訂正。死んだと思ったらいつの間にか転生していた。おっどろきーの自乗。
なるほど、これが噂に聞く『トラ転』。でも転生っていうからには、百年後の未来とかに産まれるのかと思ったけどなあ。手にした新聞に刻印された日付をみてそんなことを考える。
一九九一年七月二十日。
私が生まれてからもう十年と十一ヶ月が経っていた。前世で生まれた年よりずっと昔だ。まあ、別になんでもいい。
「はいパパ、今日の朝刊」
「ありがとうエレナ」
エレナ・ワイアット。
それが今世の私の名前だ。聞いてのとおり、当然日本人ではない。ユーロピアンである。おーイングランド、大英帝国万歳。
陶器のような白い肌や、すっと通った高い鼻。深々とした青い瞳に陽の光に煌めく滑らかなブロンドなど。
海外映画などで見る西洋ならではの独特な容姿に憧れた東洋人は多いのではないだろうか。そして例に漏れず私もその一人だった。初めて自分の顔を見たとき驚いたどころの騒ぎじゃなかったよね。周りの大人からは『子供が鏡を見て驚いてる』と微笑ましげに見られたけど。ともかくトラック転生さまさまだ。
夏休み初日の記念すべき最初の仕事、『朝刊を父親に届ける』という任務を無事に終え、洗面所へ向かう。歯ブラシに手を伸ばしかけたが、鏡に映った自分をみて一瞬動きを止める。
やっぱり何度見ても慣れない。目の前の金髪碧目の少女が不可解そうな表情でまんまるとした頬に手を当てた。私がしてみせた動きと全く同じことを事もげなく自然に真似してくる。こやつ、できる……いや、できるもなにも、目の前にあるのは鏡なのだから当然のことなのだが。逆にしてくれなきゃ困る。ホラーだ。
「あら、また鏡を見てるの?あなたは本当に自分の顔が好きなのねえ」
「だ、だからこれは違うんだってば!」
「なにが違うのかしら」
通りかかった母親からからわれ、咄嗟に否定する。しかし返されたのクスクスとした笑いだった。転生してからn億回とやっている確認。日課と化したこの作業のせいで家族からは自分の顔が大好きなナルシストと思われている。非常に遺憾の意。みかんのみだ。
ちょっと近所のスーパーまで、というのでさえ車で優に四十分はかかる。小学校までは片道一時間。父親のみ職場までなら一時間三十分。都心部からたいそう離れた、そんなのどかでちょっと不便な片田舎で我々ワイアット一家は暮らしている。
山や川など、たくさんの自然に囲まれて私は育った。転生当初は感覚が現代の日本人だったから、やっていけるか不安だったけど気付けば慣れていた。人間どこでだって生きていけるんだなと変に感心してしまった。
夏休み序盤になにをするかは人それぞれである。宿題の計画を立ててコツコツやり始める人もいるだろうし、家族と旅行へ出掛けたりする人もいることだろう。
「…よし、と。いってきまーす!」
「夕飯までには帰ってくるのよー」
「はーい」
私といえば、序盤だなんてみみっちいことは言わず、夏休みは余すことなく全てを遊びに費やす派である。宿題? ああ、あいつは良い奴だったよ。
スケッチブックと色鉛筆、それから冷たいお茶を入れた水筒を鞄に詰め込んで最後に麦わら帽子をぎゅっと目深く被る。スニーカーの爪先でトントンと軽く地面を蹴って外へと飛び出した。
ぶんぶんと大きく手を振りながら道を歩く。目的地の山を見上げれば山頂の方には黒い雨雲がかかっていた。帰りは雨が降るかもしれない。帽子被ってきて正解だった、英断だな。
お山の中腹にある、大きな湖の前に腰を下ろし、スケッチブックを広げて早数時間。なんだか絵を描くのにも飽きてきた。天気が悪いからかいまいちやる気がでない。お腹も空いた。しかし下山するのもなんとなく嫌だ。だってまだ着てからちょっとしか経ってない。そんなの、なんだかもったいない気がする。
その場に腹ばいで寝そべった。湿った草の青い臭いがむわっと濃くなる。……あ、やばいこれあとでお母さんに怒られるかも。ぐちゅりと腹の下でなった音に動きが固まる。まあ大丈夫、そこまで汚れてないはず、昨日雨降ってたけど。
無理やり気を取り直してその体勢のまま思うままに鉛筆を滑らせる。今日の夕飯はなんだろなー……この前叔父さんが買ってきてくれた日本のお土産のどら焼き、美味しかったな〜……懐かしかったし。どら焼きか……まーるかいてちょん、まーるかいてちっきゅう、まーるかいて、
「……ッいた!」
唐突に響いた小さな悲鳴にふんふんと歌っていた鼻歌が止まる。首をキョロキョロとさせてみるが誰も見当たらない。しかし確かに、高い子供の声が聞こえたはずだ。
なんにせよ、怪我したっぽい声だったし無視するわけにもいかないし。
「だぁれ?」
「……」
「そこにいるんだよね? 怪我したの?」
暫く待ってみたが、声の主は私の呼びかけに答えようとはしなかった。うーん……気まずいぞ。私だって誰がいるともわからない場所で絵を描き続けられるほど呑気ではない。
仕方ない、と身を起こす。あっ服汚れてる……。がっくりと気を落としていると、ガサリと地面を踏み締める音がした。その方向へと顔を向ける。だーれだ!
「…………ふぉい?」
「……は?」
そこにはまーるかいてふぉい、つまり『ドラコ・マルフォイ』にそっくりの子供が硬い表情で立っていた。
……どういうことですか?
いや、ただのそっくりさんかもしれない。それにしてはそれにしてもな顔付きだが、可能性は十二分にある。それこそ私が今想像していることより高い確率のはずだ。恐る恐る、というのを顔の下に隠して笑みを浮かべ自己紹介をする。
「……エレナ・ワイアットっていうんだけど、あなたは?」
「…………ドラコ・マルフォイ」
どういうことですか???
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