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 九月も目前に迫り、夏休みも終わりを迎えようとしているそんな日の午後。日も落ちてきたことだしと、お母さんから頼まれた庭仕事をしようと庭へおりた。

 青々と生い茂った生垣にジョウロで水を撒いていく。この庭の植物が花を散らしてからもう久しかった。緑の葉っぱしかないなんて見ていてつまらないし、少し寂しい。子供にはこの高度な風流を介せない。
 
「枯れ木に花を〜咲かせましょ〜……」
 
 枯れてないけど。口を尖らせながら懐かしい台詞を口ずさむ。当然だが日本とイギリスじゃ童話が全然違う。新鮮で面白いけど、やっぱり久しぶりに読みたいなあ、日本昔話……。
 
「──えっ」
 
 思い出に耽りながら改めて生垣に視線を向けると、そこには色とりどりの花が次から次へと咲き始めていた。我先にと蕾を開かせそのかんばせを惜しげもなく晒していく。ピンクに黄色に赤に紫……見たことも無いものばかりで思わず目を奪われ、いや、違うそうじゃない!
 
「待っ、えっなにこれ──!」
 
 どれだけ慌てても花々の開花が止まることはない。こんな品種植えてない! そもそもなんで突然?!
 なにかのドッキリかと周囲を見回すが庭にいるのは私一人だ。キッチンからお父さんの調子っぱずれな鼻歌が聴こえる。お母さんもまだ帰ってきていない。途方に暮れていれば、やがて花は成長を止める。しかしその頃には生垣一帯がカラフルな花で埋め尽くされていた。いっそ目がチカチカするくらいだ。
 ……どうすんの、これ。花を全部手折るわけにもいかない。
 
「……水遣りおーわり!」
 
 暫く考えたが、特に何も思い浮かばなかった。もう私に出来るのは知らないふりをすることのみだ。だって聞かれたってなんも説明できないし、致し方ない。ジョウロを片付け、庭をあとにする。そろそろおやつも出来たころだろう。
 
「エレナー?」
 
 お父さん特製プディングを食べていれば外からお母さんに私の名が呼ばれる。なんだろう、荷物運びかな。そんなに沢山買うなんて珍しい。不思議に思いながら家の外にでると、首を傾げた母親が白い封筒を手にしていた。
 
「あなた宛に手紙が来てるのだけど──『ホグワーツ魔法魔術学校』ってなんのことか分かるかしら?」
「…………ホグワーシュ?」
 
 それ、いったいなんのご冗談?

 頬を引き攣らせた私を馬鹿にするように、郵便受けの上に止まっている茶色のフクロウがホーッと間の抜けた鳴き声をあげた。
 

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