「好き」
「何で?」
「じゃあ嫌い」
「何でだよ」
「やっぱり別れましょう」
「何でさ」
「やっぱり好き」

 いつだってそう。あなたはいつだって答えをくれない。理屈っぽいふりしてすごく曖昧、堅いように見えてすごく柔い。(あの人とは、正反対)

「君はいつもわけがわからないな」
「わけがわからないのはあなたでしょ、」
「反論はできないけど。でも一応自分の中では筋は通ってるつもりだよ」
「レギュラスお得意の自分ルール」

 私が自分で言った言葉に少し笑っても、レギュラスはちっとも笑ってくれなかった。しかめ面を崩すこともなく、ただ淡々とネクタイを解く。自分が貶されるのは非道く嫌うのだ。たとえそれが冗談でも、プライドだけは本物の貴族。

「ああ、確かに自分ルールだね。君に言わせれば“お得意の”」
「怒った?」
「まさか。君の言葉に腹を立てるなんてこと、あるわけないよ」
「そうよね。短気だなんて、貴族には相応しくないよね」
「……ふん」

 私はあなたを傷つけることしかできないのだろう。あなたが私の存在を許してくれる日は、来ないかもしれない。

「脱がないの?」
「脱いで欲しいの?」
「脱がせて欲しいの?」
「脱がせたいの?」
「……バカ言うな」

 私は寂しく自分でワイシャツのボタンを外していった。レギュラスはその作業を淡々と見る。ああ、あの人ならこんなときどうしたろう。きっと、やっぱりお前じゃ遅えよ、と言って、するりするりと私から布をはぎ取っていっただろう。

「今何考えてる」
「何も?」
「嘘だ」
「そうね」

 あなたが一番嫌がることだとわかっている。あなたは私とあの人を、一生許すことはないだろう。生きにくい人。こんなに皆から愛されているのに。

「…………どうせ、わかってる」
「何を」
「ナマエが考えることなんて、わかってるよ」
「でしょうね」

 意地の悪い笑みは、あの人から賜ったものだ。今の私の表情は、さぞあの人に似ているだろう。しかし内心では、今日初めてレギュラスが私のことを名前で呼んでくれたことに歓喜している。意地の悪い私。

「その顔やめろ」
「どの顔?」
「虫酸が走る」

 ベッドのスプリングが音を立てる。レギュラスの顔が近くなる。まるで儀式みたいなキス。そこには愛の代わりに崇拝がある。

「今、シリウスのこと考えてたよ」
「…………やめろ」
「嘘よ」

 その悔しがる顔が、大好きなのだ。ついでに言えば、その後に見せる安堵の表情だって。あなたが私に見せてくれる沢山のかおは、あなた以外の何ものでもないのに。あなたの中にはあの人は、一欠片だって住んでいないのに。

「何のために私を抱くんだか」
「……理由なんて、あってたまるか」
「シリウスの物としてしか私を見てくれないくせに」

 爪痕なんて、残してやらない。髪の毛だって、ちゃんと綺麗に掃除して、私のいた痕跡は全て消してやろう。私があなたに与える物なんて、ひとつもない。

「本当に、かなしい。かなしいよ」

 私はキスをあげるだけ。ただ、キスを、あげる。しっかりあなたの首に絡みついて、私は小さくキスをした。多分、最後のキス。まるで儀式みたいなキスだ。そこには崇拝の代わりに愛がある。

儀式の話
(110528)afterwriting
(title by ロメア)