私たちはいつも、談話室のソファで向かい合っていた。あまり座り心地が良いとは言えないソファに身を預け、決まって紅茶を二人して飲んだ。ストレートが合う茶葉でも、レモンが合う茶葉でも、もちろんミルクが合う茶葉でも、リーマスはたっぷりのミルクと砂糖を入れて飲む。紅茶好きの私は、それがどうしても許せなくて、でも、言えなかった。甘い紅茶を飲んで幸せそうに笑うリーマスには、何も言えないのだ。大嫌い。リーマスなんて大嫌い。
「ナマエ。どうしたの? 元気ないけど」
「ううん、なんでもない」
 リーマスはゆっくりと暖かい微笑みをこちらに向け、また一口ティーカップを口に運ぶ。また一口、また一口。甘い、だろうなあ。私はぼんやりと考える。角砂糖、今日はいくつ入れてたっけ。甘くない方が美味しいのに。暖炉が優しく燃える談話室は暖かい。余りの心地よさに、吐き気がした。
「ナマエ」
「なに?」
「好きだよ」
 確認するように、一音節ずつ区切って言うのはリーマスの甘える時のくせだ。まるで、暖かい言葉を言われたみたい。まるで、暖かい気持ちになるみたい。
「好きだよ」
 もう一度、リーマスは言った。今度は私の返答を求めるイントネーションだ。彼は何度も繰り返す。はじめて私に好きと言ったときと同じ笑顔で、好き、と繰り返す。ねえ、好きという言葉はもっと、暖かい言葉じゃなかった? 甘い言葉なんていらない。私はリーマスと同じ温度を共有していたかっただけなのに。私が欲しいのは、あなたと同じ温度だけ。


(110604)afterwriting