なんて綺麗な夜だろう。瞳のように輝く星たちは、まるで側にいるかのように暖かく、魔法の呪文を唱えてくれるかのように不思議に光った。


「さよならを言いに、戻ってきたよ」


 ヒソカの赤い髪は闇に呑まれ、まるで色のない織物のように風になびいた。あなたの愛したものと隣り合わせたわたし。去っていくあなた。わたしたちが会うのはいつでも夜だった。美しい夜。いつだって、夜は美しい。

「本当に、いなくなってしまうの?」
「まあね」
「いつも、そう言って、戻ってきてくれるでしょう」
「今回は、これが最後。次はないよ」
「そんなこと言って」

 闇の中、流れる涙を隠すのは容易だ。だが、あなたの流す涙は見たいと思ってしまうのは我が儘だろうか? 涙はときに美しく、ときに邪魔くさい。特に星を数えるときの涙ほど、邪魔な物はないだろう。

「いいや。ボクはもう行くよ。キミとはさよならだ。もう会わない」
「ねえ、また、一緒に星を数えよう。たくさん話して、ベッドにもぐろう。本当は、さよならなんて、嘘なんでしょう? また、ひょっこり戻ってきてくれるんだよね?」
「ナマエは馬鹿だね。それに我が儘だ。お姫様」
「わたし……」

 あなたはいつも魔法をくれた。欲しい物はなんでもくれたし、わたしもあなたが欲しい物はなんだってあげられた。一瞬、ぐらりと視界が揺れる。スローモーションのようにわたしの世界は傾き、それはヒソカに抱きしめられたからだと判るのは、すっかり彼の腕のなかに収まってからだった。

「キミは愛することを教えてくれた」

 星がきれい。天国はきっと、わたしたちには眩しすぎるだろう。星くらいの明るさが丁度良い、だなんて、贅沢だろうか。

「今度は、忘れることを教えてよ」

 ヒソカの泣きそうな声なんて、聞きたくなかった。涙は見たいのに、声は聞きたくないなんて、おかしな話だ。だけどよく考えたら、ヒソカの泣き顔なんて、いつものメイクで見慣れているのだ。わたしはどこかで甘えていた。見たくない物を見まいとして、ヒソカの本当なんて、一つも見つけられていなかったのではないだろうか。美しい夜、残酷な夜。ヒソカはゆっくりとわたしを解放し、言葉もなくただ貼り付けたような笑みと共に闇に消えていった。

うつくしい夜。Bella Notte
(110927)afterwriting