※エロ(?)グロ※エロはまあ大したことないです※























 自分でも、ひどくあっけないと思う。フロア一杯に横たわる同僚達にまざり、私も例に漏れず地べたに座り込んでいた。この場に臥している同僚達のうち、今いったいどのくらいの者がまだ生きていて、そのうちいったいどのくらいの者が、助けが来るまで生き延び、また元の生活の中に戻っていくのだろう。それを考えると、まだ座り込んで柱にもたれ、ひゅうひゅうとおかしな音をさせながらも肩で息をしている私はかなり健康的な方と言えた。

「キミ♠」

 カツカツ、と硬い靴が床を叩く音が聞こえたかと思うと、背後から声をかけられた。多分、私に向けられたものだろう。ここで、上体を起こしそのうえ息をしている者など私しかいないのだから。

「生きてるんだ?♥」

 それは紛れもなく数分前この惨状をつくりあげた張本人のもので、私は肩を強ばらせる。もちろん振り向く余力も勇気も持ち合わせていない。カツ、カツ、着実に近づいてくる足音と、どこか扇情的なその声は、私の心を震え上がらせるにはじゅうぶんだった。カツ、カツ。ふいに、足音が止まる。気付けばもうすぐ隣に、それはやってきていた。悪魔のような笑みを浮かべ、悪魔のような風体をして。

「……といってもほとんど死にかけてるみたいだね。なァんだ、期待して損しちゃった♦」

 ニイ、と口角を上げ、その男は私のすぐそばに座り込んだ。この男に助けてもらえるなど、毛ほども思っていない。私はきっと殺される。覚悟を決めて、目をきゅっと瞑ろうとしたが、自分にはそうするだけの余力さえもないことに気が付くだけだった。しゃがみ込んだ男はそんな私を見て少しばかり思案するような顔をし、おもむろに私の脇腹に手を差し込んだ。指を折り曲げ、剥き出しになった赤い組織を乱暴になぞる。

「あ゛っ! 、っ、あぁ、、ああ、あ……!」
「うん。その顔と声にはそそられるけど、キミじゃ全然ダメだね♣」

 そこには先刻この男に切り裂かれた大きな傷がある。安静にしていれば大した出血はなかったが、男が指で弄るたび、血と汗が吹き出した。

「あ゛……っ!? いや、や、あ、ああ、や……、あああ、ああああ、!」
「痛いかい?♦」
「いっ、あああ゛、ぐ、う……、あっ、、はぁ、い、た、、、!、」
「そりゃ痛いだろうねえ♥」

 くっく、と男はかみ殺すような笑いを漏らした。馬鹿げている。本当に馬鹿げている。こんなことをして何になるのだろう。私は激痛の度に意識を手放しそうになり、なんとか踏みとどまると、また襲ってくる激痛に声を上げた。

「や、、! ああ、っぐ、あ、はぁ、」
「イイねえ。キミが嬌声をあげる。ボクは満足する。これがセックスじゃないならなんだろうね? 惜しむらくは、キミじゃボクは全然イけないってことだ♠」

 ほとんど悲鳴みたいな私の声を聞き、男は恍惚とした表情を浮かべた。頬に添えられた手だけは心なしか優しいと感じてしまう私は、狂ってしまったのだろうか?
 男はいつのまにか手ではなく舌で、脇腹の赤い裂け目をなぞっていた。ちろ、と毒蛇のような舌を蜿蜒と這わせ、時には唇を寄せて血液を吸った。ぴちゃ、とどこか現実味のない音が耳に届く度、私は体を仰け反らせて甲高い悲鳴をあげ、男は蕩めいた目をこちらに向けた。
 これはセックスなんかではなく食事だ。喰われてる。私は妙に冷静な頭でそう思う。

「んあ゛、いや、、! あっ、あ゛、あ、」
「……ああ、そういえば。これやりすぎると出血多量でショック死しちゃうんだっけ?♣」

 男は顔を上げ、ぺろりと口の周りの血を舐めてそう呟いた。この男にとって私の生死は足下の虫の生死と等しく、どうでもいいことなのだろう。私が死ねば、この行為をやめてここを去るだけだ。はあ、はあ、と息を荒げ、失神しそうになる意識をなんとかたぐり寄せる。

「その顔! ああ、惜しい。本当に惜しいよ。キミがせめてもう少し強ければなァ。でも、もうお仕舞いかな♥」

 そう言いながら、ゆっくりと両手をわたしの首にかけた。もちろん抵抗する力などなく、まるで従順に、すっかりと男の手の中に収まってしまった。ぐ、と喉から声とも音ともつかない息が漏れる。苦しい、というよりは、やっと死ねるという気持ちの方が強かった。涙は先ほどから止め処なく流れるが、なぜかほんのり心地良い。眠たいくらいだ。

「またいつか♥」

 男は少しずつ顔を近づける。ああ、これが私の最期なんだ。さよなら私、さよなら世界。せめて自分の命を終わらせた原因を目に焼き付けておこうと、必死に男の顔を見る。近づいてくる、男の顔。近づいてくる、私の死。

「どこかでね♠」

口づけは、驚くほど優しかった。苦しくない。眠たいくらいだ。さようなら、私の世界。

Libido
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